どうして許されると思ったの？

どう回収しようかな

「ふふ……だって、前妻達の弱みを握った人物がもしかしてわたくしの弱みも握ろうとしてくるかもしれないでしょう？　そう考えるとおかしくって……ふふ……」

「あの……私が申し上げたのはあくまで仮の話ですよ？　何の確証もございませんからね？」

「分かっているわよ。だけど、仮にそれが真実だとして、新たなフレン伯爵夫人であるわたくしの弱みも握ろうとするのかしらと考えただけで笑いが止まらないわ。とても勇気があると思わない？」

「それ、勇気ではなく単なる命知らずですよ……。奥様の弱みを握ろうとする行為そのものがやってはいけない行為ですもの」

　システィーナの弱みを探る為にシスティーナの周辺を探る行為は命知らずととられるような行為である。何故ならそれはベロア家の弱みを探っていると誤解されかねないからだ。

　国内でも上位に位置する権力者の弱みを握ろうという行為がどれほど危険で命知らずなことかは子供でも分かる。システィーナはそんな危険をかいくぐってまで自分の弱みを握ろうとしてくる人物のことを想像するだけで胸が躍る心地になった。

「奥様……そんな期待に満ちた顔をなさらないでください。あくまでも私の想像ですし、いたとしてもベロア家を敵に回すほどの命知らずな行為はしませんって」

　呆れた顔で主人を窘める専属侍女だが、この時の彼女は知らなかった。
　システィーナをただの小娘だと侮り、結果的にベロア家を敵に回す行為をしてしまう愚かな人物が実在するということを……。

「いたら少し面白いわよね？　中々そういうお馬鹿な人を見る機会って無いもの」

「いけませんよ、奥様。そのような愚物を見たがってはなりません」

　自分を貶めようとしてくる人間を怖がるどころか面白がる主人の神経が侍女には理解できない。普通は警戒して嫌がるものなのだが……。

　一体どういう教育を受けたらこんな猛者が出来上がるのか。
　可憐を絵にかいたような主人に侍女は何とも言えない視線を送った。

＊
「ダスター嬢とゼット嬢の横領分は回収可能だけど……バルタ嬢の分はどう回収しようかしら」

　システィーナは横領分の回収方法について悩んでいた。
　というのも、バルタ男爵令嬢が浪費した金額があまりにも大きすぎてどう回収していいかが思いつかない。

　既に決定しているダスター嬢のように返済の為に生涯肉体労働に励んでもらうというやり方では人生を数回繰り返さないと目標額には達成しない。どこかの金を持っている助平爺さんに身売りするという方法も考えたが、ああいった輩は若く美しい女を好むのでそれも難しい。

　後はバルタ家に爵位を返上してもらって財産を全て没収して……という方法も考えたが軽く見積もってもこの金額には届かない。

　しかし、だからといって『じゃあ仕方ないね』で済ますつもりはない。
　使った分はしっかり戻してもらわないと。

「お父様に相談してみようかしら……」

　負債の回収については自分より父の方が遥かに詳しいだろう。
　いつまでも悩んでいるより詳しい人に聞いた方が早い。

　そんなことを考えていた時だった。

「奥様、お茶会の招待状が届いております」

「あら、誰から？」

「それが……差出人がミスティ子爵夫人となっております」

　困った顔で専属侍女が差し出した招待状にシスティーナは目を丸くして驚くのだった。