どうして許されると思ったの?

わらびもち

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弱みでも握られていたのかな

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「奥様、例の商会から報告書が届きました」

「あら、思ったより早かったわね」

 専属侍女が運んできた紙の束を目にしたシスティーナは感心したような声で呟く。

「それと、贈り物も届いております。今後ともどうぞ御贔屓に、と」

「贈り物? ふうん……中々気が利くようね」

「どういたします? 受け取りますか?」

「そうね。受け取っておくわ」

 事務的に報告書だけを届けるのではなく、こうして贈り物も一緒に届ける辺りは流石商売人だと感心する。その贈り物の意味は『大変申し訳ございませんでした』という謝罪の意味と『これから御贔屓にしてくだされば幸いです』という期待が込められているのだろう。

 こちらが贈り物を受け取らなければ今後の付き合いは断る、という意味合いになる。
 受け取れば今後付き合ってやってもいいという意思表示だ。

(今度、何か購入しようかしらね……)

 御用達にするかどうかは別として、義理で一度くらいはその商会を利用してみるかと考えた。

 渡された報告書をもとに夫の幼馴染達が横領した商品の数々と金額を確認する。
 すると意外にも金額にバラつきがあった。

「アリー嬢とメグ嬢に比べるとパメラ嬢が横領した分は倍以上だわ。……二人はともかくとして、バルタ男爵家は返金できるかしら?」

 システィーナが背後に控えていた専属侍女に報告書の金額部分を見せると、彼女の頬がピクリと動いた。

「これは……かなりの額ですね。他二人の金額もそれなりに高額ですけど、このパメラとかいう幼馴染の金額は伯爵家の年間予算数年分に匹敵します。特に資産家というわけでもない男爵家では難しいかと思われますね……」

 よくもまあこんなに使ったものだと言わんばかりの顔で専属侍女は報告書を眺めた。
 とてもじゃないが一般的な男爵家の令嬢が使う金額ではない。

「ただ単に物が欲しかっただけなのか、それとも奥方に対する嫌がらせか……まあ、両方なのでしょうね」

 これだけの金額、とてもじゃないが伯爵夫人の予算だけでは賄えない。
 前の奥方達がかなりの額を補填していることが伺えた。

「それにしても何故前の奥様達は旦那様に黙って請求された金額を支払っていたのでしょうね? いくら大人しくて従順な妻といえども、流石にこの金額を黙っているのはおかしい気がします。何かでも握られていたのでしょうか……」

「弱み? そうね……確かにそれくらいしないと黙ってこんな大金払わないわよね……」

 なるほど、弱みを握られていたと考えるとしっくりくる。

「仮にそうだとしたら、前の奥方は二人揃って弱みを握られていたということになるわね……」

 誰がどんな弱みを握ったのかは知らないが、“フレン伯爵の妻”という共通点のある二人がこぞって狙われた。ということはつまり、現伯爵夫人である自分の弱みも握ろうとその人物は動くのではないだろうか。

「……奥様、何かを企んでいらっしゃいますか?」

「え? あら、何故そう思うの?」

「いえ……眩いばかりの笑顔をしていらしたものですから……」

 システィーナの顔に浮かぶのは眩い陽光もかくやといわんばかりの輝かしい笑顔。
 侍女は知っていた。こういう顔を浮かべる主人は碌な事を考えていないと。
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