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茶会は貴婦人の戦
「驚いたわ。まさか件の人物からわたくしに接触してくるなんてね……」
上質の便箋に書かれた綺麗な文字からは差出人の教養の高さが伺える。
これをミスティ子爵夫人本人が書いたのだとしたら、それなりに礼儀を理解した人物だと想像がつく。邸にズカズカ上がり込んでやたらと妻に接触したがるあの無礼な幼馴染達とは違って。
とはいえども、面識もない相手をお茶会に招待しようとしているあたり何か企みがあるのは間違いないだろう。何を企んでいるかは知らないがいい機会だ。会えば彼女が何を目的として“フレン伯爵夫人”に関わってこようとするかが分かるかもしれない。
「奥様、どうなさいますか?」
「勿論お受けするわ。どんな人物か楽しみね……」
「え? よろしいのですか? 何か良からぬ予感しかしないのですが……」
「いいのよ。敵意を向けてくるような相手だったらこれを機会に完膚なきまで叩き潰せばいいだけの話よ。お茶会なんて貴婦人の戦のようなものだもの」
茶会は女の戦ゆえ、きちんと身だしなみを整えて臨むもの。
もちろんただお茶や会話を楽しむ和やかなものもあるが、決して気を抜いてはならないとサリバン夫人より教えられた。
「とっておきの服装で臨まないとね。そうそう、手土産も用意しないと……」
明らかに嫌な予感しかしない茶会に嬉々として臨もうとする主人に侍女は畏敬の念を抱くのだった。
*
幼馴染達の家に横領分の返金を通告する準備は整ったが、ミスティ子爵夫人との茶会が済むまで一旦中止することにした。先方がどこまで関わっているかによってこちらも対応を変える可能性があるから。
その間も何度か幼馴染の突撃があった。門番を変えたので邸の中に入れるような愚行は犯さなかったが、警告したにも関わらずよく来れたものだと感心してしまう。
散々脅したおかげで流石にダスター男爵家のアリーが訪れることはなかったが、ゼット男爵家のメグとやらは懲りずに何度か突撃しようとしたようだ。システィーナが彼女の姿を見ることはなかったが、対応した門番曰く『幼児と猿を足して二で割った三十代の女』という印象らしい。そんな珍獣を見たことが無かったので興味本位でうっかり会おうとしてしまったところをサリバン夫人に止められた。
「いけませんよ、奥様。好奇心が旺盛なのは結構なことですが、ここで会ってしまったら伯爵夫人としての威厳が保てません」
「う……その通りだわ。ごめんなさい……」
「社交界にはそのような珍獣など滅多におりませんから興味を惹かれるのは分かります。ですが、もう令嬢ではなく夫人なのですから軽率な行動をしてはいけませんよ。軽率な行動一つでフレン伯爵家の名に傷がつくのですから。ただでさえあのような珍獣軍団と付き合いを続けていた旦那様の愚行により伯爵家の名は傷だらけです。これ以上の傷はつけるべきではないかと」
さりげなく当主であるレイモンドを非難するサリバン夫人にシスティーナは「そうね、その通りだわ」と同意を示した。そもそもあんな珍獣軍団と付き合いを続けたから悪評ばかり社交界に広まってしまったのは事実。それはもう誰もフレン伯爵家に嫁ぎたがらないほどの不良物件に成り下がっていた。
「あのような侍女が長を務められる程度の家です。今後は奥様がこの家の評価を上げていかねばなりません」
「サリバン夫人にそこまで言わせるほどの出来なのね、あの侍女長は……。そういえば再教育の進捗はどう?」
「いいとは言えませんね……。侍女としての仕事は普通なのですが、如何せん考え方に問題があります。貴族としての基本的な考え方が壊滅的なまでになっておりません。貴族社会においてまず重んじるべきは身分ですが、あの侍女長はそれを理解していないように感じます」
「まあ……それはひどいわね。身分制度を理解していないということ? それでよくもまあ貴族家の侍女長を務めようなんて考えたものね……」
貴族家の使用人が身分制度を理解していないという事態に眩暈がしそうだった。
そしてそれと同時にあの侍女長の可笑しな言動も理解できたように思える。
上質の便箋に書かれた綺麗な文字からは差出人の教養の高さが伺える。
これをミスティ子爵夫人本人が書いたのだとしたら、それなりに礼儀を理解した人物だと想像がつく。邸にズカズカ上がり込んでやたらと妻に接触したがるあの無礼な幼馴染達とは違って。
とはいえども、面識もない相手をお茶会に招待しようとしているあたり何か企みがあるのは間違いないだろう。何を企んでいるかは知らないがいい機会だ。会えば彼女が何を目的として“フレン伯爵夫人”に関わってこようとするかが分かるかもしれない。
「奥様、どうなさいますか?」
「勿論お受けするわ。どんな人物か楽しみね……」
「え? よろしいのですか? 何か良からぬ予感しかしないのですが……」
「いいのよ。敵意を向けてくるような相手だったらこれを機会に完膚なきまで叩き潰せばいいだけの話よ。お茶会なんて貴婦人の戦のようなものだもの」
茶会は女の戦ゆえ、きちんと身だしなみを整えて臨むもの。
もちろんただお茶や会話を楽しむ和やかなものもあるが、決して気を抜いてはならないとサリバン夫人より教えられた。
「とっておきの服装で臨まないとね。そうそう、手土産も用意しないと……」
明らかに嫌な予感しかしない茶会に嬉々として臨もうとする主人に侍女は畏敬の念を抱くのだった。
*
幼馴染達の家に横領分の返金を通告する準備は整ったが、ミスティ子爵夫人との茶会が済むまで一旦中止することにした。先方がどこまで関わっているかによってこちらも対応を変える可能性があるから。
その間も何度か幼馴染の突撃があった。門番を変えたので邸の中に入れるような愚行は犯さなかったが、警告したにも関わらずよく来れたものだと感心してしまう。
散々脅したおかげで流石にダスター男爵家のアリーが訪れることはなかったが、ゼット男爵家のメグとやらは懲りずに何度か突撃しようとしたようだ。システィーナが彼女の姿を見ることはなかったが、対応した門番曰く『幼児と猿を足して二で割った三十代の女』という印象らしい。そんな珍獣を見たことが無かったので興味本位でうっかり会おうとしてしまったところをサリバン夫人に止められた。
「いけませんよ、奥様。好奇心が旺盛なのは結構なことですが、ここで会ってしまったら伯爵夫人としての威厳が保てません」
「う……その通りだわ。ごめんなさい……」
「社交界にはそのような珍獣など滅多におりませんから興味を惹かれるのは分かります。ですが、もう令嬢ではなく夫人なのですから軽率な行動をしてはいけませんよ。軽率な行動一つでフレン伯爵家の名に傷がつくのですから。ただでさえあのような珍獣軍団と付き合いを続けていた旦那様の愚行により伯爵家の名は傷だらけです。これ以上の傷はつけるべきではないかと」
さりげなく当主であるレイモンドを非難するサリバン夫人にシスティーナは「そうね、その通りだわ」と同意を示した。そもそもあんな珍獣軍団と付き合いを続けたから悪評ばかり社交界に広まってしまったのは事実。それはもう誰もフレン伯爵家に嫁ぎたがらないほどの不良物件に成り下がっていた。
「あのような侍女が長を務められる程度の家です。今後は奥様がこの家の評価を上げていかねばなりません」
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「まあ……それはひどいわね。身分制度を理解していないということ? それでよくもまあ貴族家の侍女長を務めようなんて考えたものね……」
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そしてそれと同時にあの侍女長の可笑しな言動も理解できたように思える。
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本作は異世界を舞台としたフィクションです。
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加えて、一部ご都合主義な展開を含みますので、広い目で楽しんでいただけますと幸いです。
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