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知らない、は通らない
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「ルルは性根が腐ってんのよ。あの女は自分よりも立場の低い者を貶める悪癖があるの。だからアンタを弟の嫁として受け入れることにしたの。ルルへの生贄としてね」
「は……? どういうこと……?」
アリーは義姉の言葉に眉をひそめた。何を言っているのかさっぱり分からず首を傾げる。
「ルルは立場が下の人間を貶めて傷つく姿を見て優越感に浸る屑よ。うちに嫁いでからは使用人がその対象だったわ。嫌がらせを受けて全員辞めてしまったの。注意しようにもルルはこの辺では影響力が強い地主の娘だから下手なことは言えなくてね」
アリーは唖然としながら黙って義姉の話に耳を傾けていた。
ルルの性格が悪いというのは分かったが、それが自分に何の関係があるのか分からない。
ただ、漠然と嫌な予感だけはする。
「使用人がいなくなると今度は農場の従業員にまで嫌がらせをするようになったのよ。流石にそこに行くとは思わなかったわ。だってルルは農業には一切手を出していないのに。いくら経営主である弟の嫁だからって、関わったこともない従業員に嫌がらせをするなんて思いもしなかった。てっきりアタシや母さんに矛先が来ると思っていたのにね。流石に焦ったわ、このままじゃ使用人の時みたいに従業員が皆辞めてしまうかもしれないって。人がいなくなれば経営は立ちいかなくなるし、どうにかしないといけないって頭を悩ませたわ」
「……なによ、それ? そんなのあのルルとかいう小娘を追い出せば済む話じゃないの。それくらいで悩むなんて馬鹿みたい」
馬鹿にするような言葉を投げかけられても義姉は怒ることもなくただ溜息をついた。
冷ややかな目でアリーを一瞥し、話を続ける。
「アンタ本当に人の話を聞かないのね……。ルルは地主の娘だって言ったでしょう? いくらうちが大きな農場を経営していると言ってもこの辺じゃルルの父親の権力が上なの。下手に注意して父親に泣きつかれたら面倒なことになるのよ。それで頭を悩ませている時にたまたまアンタとの縁談を持ちかけられてね。アタシも母さんも『これだ!』と閃いたわよ」
「これだって……何がよ。さっぱり意味が分からないわ……」
「分からない? つまりアンタを嫌がらせの相手としてルルに差し出せばいいってこと。アンタという立場が下の人間が常に近くにいれば、ルルはアンタに嫌がらせを集中させるはずと考えたわ。結果は予想通り、おかげで農場に平和が戻ったわよ。分かる? つまりアンタはルルへの生贄よ」
その言葉が耳に入った瞬間、アリーの体が一瞬固まった。
生贄という言葉が頭の中で何度も反響する。目の前の相手が何を言っているのか理解した瞬間、アリーの目が一気に鋭くなる。
「はああ!? バッカじゃないの! 貴族の私が平民の小娘への生贄? ふざけるのもいい加減にして! 何様のつもりよ!」
「アンタはもう貴族じゃないでしょう? 貴族の恐ろしいところは権力を持って報復されるところだけど、アンタにはその権力が無いじゃない。家族にも見放されて金と引き換えにここに押し込められたのだから。それにアンタは弟さんの許嫁に散々嫌がらせをして結婚を駄目にしたらしいじゃない? だったら今度は自分が嫌がらせを受けても文句は言えないでしょう?」
「なっ……!? なんで、それを知ってるのよ!」
「知ってるも何もアンタの家からアンタに関する報告書が事前に届いているからよ。流石に何の罪も無い人を生贄にするのは良心が痛むけどさ、弟の許嫁に嫌がらせをするような性根の腐った女相手ならちっとも痛まないや。むしろ因果応報じゃない」
「知ったような口をきかないで! そんな昔の事は知らないわよ!」
その発言に義姉の顔からスッと表情が消えた。
軽蔑の色を隠さないその顔にアリーは一瞬言葉を詰まらせる。
「……アンタはさ、何でもかんでも“知らない”で済ませようとするけど人生そんなに甘くないよ? どんな気持ちで弟さんの許嫁に嫌がらせをして結婚まで駄目にしたのかは知りたくも無いけど、相当屑な所業だよそれ。アタシは弟の結婚を駄目にしたら罪悪感でいっぱいになるよ。それとうちがアンタの借金を肩代わりしたことも“知らない”で通すけどさ、嫌ならその分の金を返しなよ。文句言うのはまずそれからでしょう?」
義姉の正論にアリーは何も言い返せない。
今までも正論を説いてくる奴はいたけれど聞く耳は持たなかった。なのに、この義理の姉の言葉がやけに胸に突き刺さる。
「は……? どういうこと……?」
アリーは義姉の言葉に眉をひそめた。何を言っているのかさっぱり分からず首を傾げる。
「ルルは立場が下の人間を貶めて傷つく姿を見て優越感に浸る屑よ。うちに嫁いでからは使用人がその対象だったわ。嫌がらせを受けて全員辞めてしまったの。注意しようにもルルはこの辺では影響力が強い地主の娘だから下手なことは言えなくてね」
アリーは唖然としながら黙って義姉の話に耳を傾けていた。
ルルの性格が悪いというのは分かったが、それが自分に何の関係があるのか分からない。
ただ、漠然と嫌な予感だけはする。
「使用人がいなくなると今度は農場の従業員にまで嫌がらせをするようになったのよ。流石にそこに行くとは思わなかったわ。だってルルは農業には一切手を出していないのに。いくら経営主である弟の嫁だからって、関わったこともない従業員に嫌がらせをするなんて思いもしなかった。てっきりアタシや母さんに矛先が来ると思っていたのにね。流石に焦ったわ、このままじゃ使用人の時みたいに従業員が皆辞めてしまうかもしれないって。人がいなくなれば経営は立ちいかなくなるし、どうにかしないといけないって頭を悩ませたわ」
「……なによ、それ? そんなのあのルルとかいう小娘を追い出せば済む話じゃないの。それくらいで悩むなんて馬鹿みたい」
馬鹿にするような言葉を投げかけられても義姉は怒ることもなくただ溜息をついた。
冷ややかな目でアリーを一瞥し、話を続ける。
「アンタ本当に人の話を聞かないのね……。ルルは地主の娘だって言ったでしょう? いくらうちが大きな農場を経営していると言ってもこの辺じゃルルの父親の権力が上なの。下手に注意して父親に泣きつかれたら面倒なことになるのよ。それで頭を悩ませている時にたまたまアンタとの縁談を持ちかけられてね。アタシも母さんも『これだ!』と閃いたわよ」
「これだって……何がよ。さっぱり意味が分からないわ……」
「分からない? つまりアンタを嫌がらせの相手としてルルに差し出せばいいってこと。アンタという立場が下の人間が常に近くにいれば、ルルはアンタに嫌がらせを集中させるはずと考えたわ。結果は予想通り、おかげで農場に平和が戻ったわよ。分かる? つまりアンタはルルへの生贄よ」
その言葉が耳に入った瞬間、アリーの体が一瞬固まった。
生贄という言葉が頭の中で何度も反響する。目の前の相手が何を言っているのか理解した瞬間、アリーの目が一気に鋭くなる。
「はああ!? バッカじゃないの! 貴族の私が平民の小娘への生贄? ふざけるのもいい加減にして! 何様のつもりよ!」
「アンタはもう貴族じゃないでしょう? 貴族の恐ろしいところは権力を持って報復されるところだけど、アンタにはその権力が無いじゃない。家族にも見放されて金と引き換えにここに押し込められたのだから。それにアンタは弟さんの許嫁に散々嫌がらせをして結婚を駄目にしたらしいじゃない? だったら今度は自分が嫌がらせを受けても文句は言えないでしょう?」
「なっ……!? なんで、それを知ってるのよ!」
「知ってるも何もアンタの家からアンタに関する報告書が事前に届いているからよ。流石に何の罪も無い人を生贄にするのは良心が痛むけどさ、弟の許嫁に嫌がらせをするような性根の腐った女相手ならちっとも痛まないや。むしろ因果応報じゃない」
「知ったような口をきかないで! そんな昔の事は知らないわよ!」
その発言に義姉の顔からスッと表情が消えた。
軽蔑の色を隠さないその顔にアリーは一瞬言葉を詰まらせる。
「……アンタはさ、何でもかんでも“知らない”で済ませようとするけど人生そんなに甘くないよ? どんな気持ちで弟さんの許嫁に嫌がらせをして結婚まで駄目にしたのかは知りたくも無いけど、相当屑な所業だよそれ。アタシは弟の結婚を駄目にしたら罪悪感でいっぱいになるよ。それとうちがアンタの借金を肩代わりしたことも“知らない”で通すけどさ、嫌ならその分の金を返しなよ。文句言うのはまずそれからでしょう?」
義姉の正論にアリーは何も言い返せない。
今までも正論を説いてくる奴はいたけれど聞く耳は持たなかった。なのに、この義理の姉の言葉がやけに胸に突き刺さる。
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