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何もかもうんざり
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「ちょっと、アンタ……!」
ルルの肩を掴もうとしたその瞬間、横から伸びてきた大きな手に阻止される。
「痛っ……! ちょっと! 何すんのよ!?」
「それはこっちの台詞だ。今、ルルに何をしようとした? 俺の妻に危害を加えることは決して許さない」
「はあ!? 私だってアンタの妻でしょう? その女が生意気だから立場を分からせてやろうとしただけよ! 邪魔しないで!」
激高するアリーを夫はじろりと睨みつける。
敵意剥き出しのそれに恐れをなしたアリーは「ひっ……!?」と小さく悲鳴をあげて後ずさった。
「立場を分かっていないのはお前だ。ルルは正妻、お前は妻という名の借金奴隷だと忘れたか? ここではルルの方が立場は上だ。ここに来た時に散々説明したのにもう忘れたのか?」
「それを認めたつもりはないわ! だって貴族の私が平民よりも下だなんて有り得ない!」
アリーの発言に夫はウンザリしたようにため息をついた。
「いつまで貴族のつもりだ? とっくに平民になったってのに……いつまでも現実を受け入れられないなんて哀れなもんだ。話の通じない奴とこれ以上話しても時間の無駄だな。ルル、行こうか」
ルルを促しその場から立ち去る夫の背中に向かいアリーは暴言を吐き続ける。
しかし、何を言っても夫が立ち止まることはなかった。
「なによ……なんなのよ! もう! 何もかもウンザリ……!」
怒りが収まらないアリーはそのまま家とは反対方向に走り出した。
行く宛てなどない。だが、こんな場所にいつまでもいられないし、いたくもない。
自分に無関心な夫、下賤な身分の分際でこちらを見下す若い正妻、嫁イビリをしてくる姑と小姑、そして今までの生活とは比べ物にならないほど貧しい暮らし。そのどれもこれもが耐えられない。
悪事を働いたせいでこのような目に遭っている、という前提をアリーは少しも理解していない。そもそも悪い事をしたという概念がないのだ。
確かに商品購入の代金を勝手にフレン家宛てに請求はしたが、無理なら別に断ってくれればよかったのだ。そうすれば買った物を返すだけで済んだのに、それをせず黙って支払ってくれたのならそれをしてもいいと思うじゃないか。そもそも何年も前のことを蒸し返して今更罪を償わせようとするなんて間違っている。
「あの女が悪いのよ……! レイモンドを奪っただけでも最悪なのに、私をこんな目に遭わせるなんて許せない……!!」
反省などこれっぽっちもしていないアリーはどうにかして自分をこんな目に遭わせたシスティーナへ報復出来ないかを考えていた。他責志向の強いアリーは今の状況は自分が招いたことだと少しも思わない。システィーナが全て悪いのだと本気で信じていた。
とはいえ、思うだけではどうしようもない。
何処かへ行こうと走り出したはいいが、温室育ちの令嬢の体力などたかがしれている。
少しの距離を走っただけでもう息切れし、その場にへたり込んでしまった。
「ハア……ハア、息が苦しい……。何で私がこんな目に……覚えてなさいよ、あの女……」
道の真ん中でしゃがみ込んでいると、不意に背後からゴトゴトという音が聞こえた。
「……アンタ、そこで何してんのよ? 邪魔だからどいて」
アリーが振り向くとそこには夫の姉が嫌そうに顔を顰めていた。
畑で採れたであろう作物をいっぱいに積んだ荷車を引いており、整地されていない道では車輪が石にぶつかりゴトゴトと音をたてている。
「うるさいわね……! 私は疲れているのよ。アンタが避ければいいでしょう!」
「この道幅でどうやって避けろっていうのよ? いいからさっさとどきなさいよ」
鬱陶しいと言わんばかりの夫の姉……義姉の態度にアリーの精神に限界が来た。
ここに来てから会う人すべてが冷たい態度ばかりをとるし、下働きがやるような事ばかりやらされる。父親に甘やかされ、邸で何もせず好きに暮らしていたアリーにはもう耐えられなかった。
「うるさい! うるさい! もうウンザリ……! そんなに私を邪魔者扱いするならお望み通り出て行ってやるわよ!」
疲れた体で立ち上がったアリーはそのままふらふらと歩きだした。
だが、それを後ろから伸びてきた義姉の手によって阻まれる。
「出て行くって何処へ? 他に行く所なんてあるの?」
「うるさいわね! アンタに関係ないでしょう!? 放っておいてよ!」
「関係あるわよ。アンタの借金を肩代わりしたのは誰? うちの家でしょう? だったら借金返すまで働いてもらわなくちゃ道理が通らないわ」
「知らないわよ、そんなの! 揃いも揃って私のことを邪魔者扱いして……。私なんていない方がいいんでしょう!? だったら別に私が何処に行こうが勝手じゃない!」
「駄目よ。アンタは役立たずだけど、いる意味はあるわ。アンタはルルの生贄なんだから」
「………………は? 何言ってるの?」
意味の分からぬ発言にアリーは怒りを忘れて呆気にとられるのだった。
ルルの肩を掴もうとしたその瞬間、横から伸びてきた大きな手に阻止される。
「痛っ……! ちょっと! 何すんのよ!?」
「それはこっちの台詞だ。今、ルルに何をしようとした? 俺の妻に危害を加えることは決して許さない」
「はあ!? 私だってアンタの妻でしょう? その女が生意気だから立場を分からせてやろうとしただけよ! 邪魔しないで!」
激高するアリーを夫はじろりと睨みつける。
敵意剥き出しのそれに恐れをなしたアリーは「ひっ……!?」と小さく悲鳴をあげて後ずさった。
「立場を分かっていないのはお前だ。ルルは正妻、お前は妻という名の借金奴隷だと忘れたか? ここではルルの方が立場は上だ。ここに来た時に散々説明したのにもう忘れたのか?」
「それを認めたつもりはないわ! だって貴族の私が平民よりも下だなんて有り得ない!」
アリーの発言に夫はウンザリしたようにため息をついた。
「いつまで貴族のつもりだ? とっくに平民になったってのに……いつまでも現実を受け入れられないなんて哀れなもんだ。話の通じない奴とこれ以上話しても時間の無駄だな。ルル、行こうか」
ルルを促しその場から立ち去る夫の背中に向かいアリーは暴言を吐き続ける。
しかし、何を言っても夫が立ち止まることはなかった。
「なによ……なんなのよ! もう! 何もかもウンザリ……!」
怒りが収まらないアリーはそのまま家とは反対方向に走り出した。
行く宛てなどない。だが、こんな場所にいつまでもいられないし、いたくもない。
自分に無関心な夫、下賤な身分の分際でこちらを見下す若い正妻、嫁イビリをしてくる姑と小姑、そして今までの生活とは比べ物にならないほど貧しい暮らし。そのどれもこれもが耐えられない。
悪事を働いたせいでこのような目に遭っている、という前提をアリーは少しも理解していない。そもそも悪い事をしたという概念がないのだ。
確かに商品購入の代金を勝手にフレン家宛てに請求はしたが、無理なら別に断ってくれればよかったのだ。そうすれば買った物を返すだけで済んだのに、それをせず黙って支払ってくれたのならそれをしてもいいと思うじゃないか。そもそも何年も前のことを蒸し返して今更罪を償わせようとするなんて間違っている。
「あの女が悪いのよ……! レイモンドを奪っただけでも最悪なのに、私をこんな目に遭わせるなんて許せない……!!」
反省などこれっぽっちもしていないアリーはどうにかして自分をこんな目に遭わせたシスティーナへ報復出来ないかを考えていた。他責志向の強いアリーは今の状況は自分が招いたことだと少しも思わない。システィーナが全て悪いのだと本気で信じていた。
とはいえ、思うだけではどうしようもない。
何処かへ行こうと走り出したはいいが、温室育ちの令嬢の体力などたかがしれている。
少しの距離を走っただけでもう息切れし、その場にへたり込んでしまった。
「ハア……ハア、息が苦しい……。何で私がこんな目に……覚えてなさいよ、あの女……」
道の真ん中でしゃがみ込んでいると、不意に背後からゴトゴトという音が聞こえた。
「……アンタ、そこで何してんのよ? 邪魔だからどいて」
アリーが振り向くとそこには夫の姉が嫌そうに顔を顰めていた。
畑で採れたであろう作物をいっぱいに積んだ荷車を引いており、整地されていない道では車輪が石にぶつかりゴトゴトと音をたてている。
「うるさいわね……! 私は疲れているのよ。アンタが避ければいいでしょう!」
「この道幅でどうやって避けろっていうのよ? いいからさっさとどきなさいよ」
鬱陶しいと言わんばかりの夫の姉……義姉の態度にアリーの精神に限界が来た。
ここに来てから会う人すべてが冷たい態度ばかりをとるし、下働きがやるような事ばかりやらされる。父親に甘やかされ、邸で何もせず好きに暮らしていたアリーにはもう耐えられなかった。
「うるさい! うるさい! もうウンザリ……! そんなに私を邪魔者扱いするならお望み通り出て行ってやるわよ!」
疲れた体で立ち上がったアリーはそのままふらふらと歩きだした。
だが、それを後ろから伸びてきた義姉の手によって阻まれる。
「出て行くって何処へ? 他に行く所なんてあるの?」
「うるさいわね! アンタに関係ないでしょう!? 放っておいてよ!」
「関係あるわよ。アンタの借金を肩代わりしたのは誰? うちの家でしょう? だったら借金返すまで働いてもらわなくちゃ道理が通らないわ」
「知らないわよ、そんなの! 揃いも揃って私のことを邪魔者扱いして……。私なんていない方がいいんでしょう!? だったら別に私が何処に行こうが勝手じゃない!」
「駄目よ。アンタは役立たずだけど、いる意味はあるわ。アンタはルルの生贄なんだから」
「………………は? 何言ってるの?」
意味の分からぬ発言にアリーは怒りを忘れて呆気にとられるのだった。
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