76 / 136
知らない、は通らない
しおりを挟む
「ルルは性根が腐ってんのよ。あの女は自分よりも立場の低い者を貶める悪癖があるの。だからアンタを弟の嫁として受け入れることにしたの。ルルへの生贄としてね」
「は……? どういうこと……?」
アリーは義姉の言葉に眉をひそめた。何を言っているのかさっぱり分からず首を傾げる。
「ルルは立場が下の人間を貶めて傷つく姿を見て優越感に浸る屑よ。うちに嫁いでからは使用人がその対象だったわ。嫌がらせを受けて全員辞めてしまったの。注意しようにもルルはこの辺では影響力が強い地主の娘だから下手なことは言えなくてね」
アリーは唖然としながら黙って義姉の話に耳を傾けていた。
ルルの性格が悪いというのは分かったが、それが自分に何の関係があるのか分からない。
ただ、漠然と嫌な予感だけはする。
「使用人がいなくなると今度は農場の従業員にまで嫌がらせをするようになったのよ。流石にそこに行くとは思わなかったわ。だってルルは農業には一切手を出していないのに。いくら経営主である弟の嫁だからって、関わったこともない従業員に嫌がらせをするなんて思いもしなかった。てっきりアタシや母さんに矛先が来ると思っていたのにね。流石に焦ったわ、このままじゃ使用人の時みたいに従業員が皆辞めてしまうかもしれないって。人がいなくなれば経営は立ちいかなくなるし、どうにかしないといけないって頭を悩ませたわ」
「……なによ、それ? そんなのあのルルとかいう小娘を追い出せば済む話じゃないの。それくらいで悩むなんて馬鹿みたい」
馬鹿にするような言葉を投げかけられても義姉は怒ることもなくただ溜息をついた。
冷ややかな目でアリーを一瞥し、話を続ける。
「アンタ本当に人の話を聞かないのね……。ルルは地主の娘だって言ったでしょう? いくらうちが大きな農場を経営していると言ってもこの辺じゃルルの父親の権力が上なの。下手に注意して父親に泣きつかれたら面倒なことになるのよ。それで頭を悩ませている時にたまたまアンタとの縁談を持ちかけられてね。アタシも母さんも『これだ!』と閃いたわよ」
「これだって……何がよ。さっぱり意味が分からないわ……」
「分からない? つまりアンタを嫌がらせの相手としてルルに差し出せばいいってこと。アンタという立場が下の人間が常に近くにいれば、ルルはアンタに嫌がらせを集中させるはずと考えたわ。結果は予想通り、おかげで農場に平和が戻ったわよ。分かる? つまりアンタはルルへの生贄よ」
その言葉が耳に入った瞬間、アリーの体が一瞬固まった。
生贄という言葉が頭の中で何度も反響する。目の前の相手が何を言っているのか理解した瞬間、アリーの目が一気に鋭くなる。
「はああ!? バッカじゃないの! 貴族の私が平民の小娘への生贄? ふざけるのもいい加減にして! 何様のつもりよ!」
「アンタはもう貴族じゃないでしょう? 貴族の恐ろしいところは権力を持って報復されるところだけど、アンタにはその権力が無いじゃない。家族にも見放されて金と引き換えにここに押し込められたのだから。それにアンタは弟さんの許嫁に散々嫌がらせをして結婚を駄目にしたらしいじゃない? だったら今度は自分が嫌がらせを受けても文句は言えないでしょう?」
「なっ……!? なんで、それを知ってるのよ!」
「知ってるも何もアンタの家からアンタに関する報告書が事前に届いているからよ。流石に何の罪も無い人を生贄にするのは良心が痛むけどさ、弟の許嫁に嫌がらせをするような性根の腐った女相手ならちっとも痛まないや。むしろ因果応報じゃない」
「知ったような口をきかないで! そんな昔の事は知らないわよ!」
その発言に義姉の顔からスッと表情が消えた。
軽蔑の色を隠さないその顔にアリーは一瞬言葉を詰まらせる。
「……アンタはさ、何でもかんでも“知らない”で済ませようとするけど人生そんなに甘くないよ? どんな気持ちで弟さんの許嫁に嫌がらせをして結婚まで駄目にしたのかは知りたくも無いけど、相当屑な所業だよそれ。アタシは弟の結婚を駄目にしたら罪悪感でいっぱいになるよ。それとうちがアンタの借金を肩代わりしたことも“知らない”で通すけどさ、嫌ならその分の金を返しなよ。文句言うのはまずそれからでしょう?」
義姉の正論にアリーは何も言い返せない。
今までも正論を説いてくる奴はいたけれど聞く耳は持たなかった。なのに、この義理の姉の言葉がやけに胸に突き刺さる。
「は……? どういうこと……?」
アリーは義姉の言葉に眉をひそめた。何を言っているのかさっぱり分からず首を傾げる。
「ルルは立場が下の人間を貶めて傷つく姿を見て優越感に浸る屑よ。うちに嫁いでからは使用人がその対象だったわ。嫌がらせを受けて全員辞めてしまったの。注意しようにもルルはこの辺では影響力が強い地主の娘だから下手なことは言えなくてね」
アリーは唖然としながら黙って義姉の話に耳を傾けていた。
ルルの性格が悪いというのは分かったが、それが自分に何の関係があるのか分からない。
ただ、漠然と嫌な予感だけはする。
「使用人がいなくなると今度は農場の従業員にまで嫌がらせをするようになったのよ。流石にそこに行くとは思わなかったわ。だってルルは農業には一切手を出していないのに。いくら経営主である弟の嫁だからって、関わったこともない従業員に嫌がらせをするなんて思いもしなかった。てっきりアタシや母さんに矛先が来ると思っていたのにね。流石に焦ったわ、このままじゃ使用人の時みたいに従業員が皆辞めてしまうかもしれないって。人がいなくなれば経営は立ちいかなくなるし、どうにかしないといけないって頭を悩ませたわ」
「……なによ、それ? そんなのあのルルとかいう小娘を追い出せば済む話じゃないの。それくらいで悩むなんて馬鹿みたい」
馬鹿にするような言葉を投げかけられても義姉は怒ることもなくただ溜息をついた。
冷ややかな目でアリーを一瞥し、話を続ける。
「アンタ本当に人の話を聞かないのね……。ルルは地主の娘だって言ったでしょう? いくらうちが大きな農場を経営していると言ってもこの辺じゃルルの父親の権力が上なの。下手に注意して父親に泣きつかれたら面倒なことになるのよ。それで頭を悩ませている時にたまたまアンタとの縁談を持ちかけられてね。アタシも母さんも『これだ!』と閃いたわよ」
「これだって……何がよ。さっぱり意味が分からないわ……」
「分からない? つまりアンタを嫌がらせの相手としてルルに差し出せばいいってこと。アンタという立場が下の人間が常に近くにいれば、ルルはアンタに嫌がらせを集中させるはずと考えたわ。結果は予想通り、おかげで農場に平和が戻ったわよ。分かる? つまりアンタはルルへの生贄よ」
その言葉が耳に入った瞬間、アリーの体が一瞬固まった。
生贄という言葉が頭の中で何度も反響する。目の前の相手が何を言っているのか理解した瞬間、アリーの目が一気に鋭くなる。
「はああ!? バッカじゃないの! 貴族の私が平民の小娘への生贄? ふざけるのもいい加減にして! 何様のつもりよ!」
「アンタはもう貴族じゃないでしょう? 貴族の恐ろしいところは権力を持って報復されるところだけど、アンタにはその権力が無いじゃない。家族にも見放されて金と引き換えにここに押し込められたのだから。それにアンタは弟さんの許嫁に散々嫌がらせをして結婚を駄目にしたらしいじゃない? だったら今度は自分が嫌がらせを受けても文句は言えないでしょう?」
「なっ……!? なんで、それを知ってるのよ!」
「知ってるも何もアンタの家からアンタに関する報告書が事前に届いているからよ。流石に何の罪も無い人を生贄にするのは良心が痛むけどさ、弟の許嫁に嫌がらせをするような性根の腐った女相手ならちっとも痛まないや。むしろ因果応報じゃない」
「知ったような口をきかないで! そんな昔の事は知らないわよ!」
その発言に義姉の顔からスッと表情が消えた。
軽蔑の色を隠さないその顔にアリーは一瞬言葉を詰まらせる。
「……アンタはさ、何でもかんでも“知らない”で済ませようとするけど人生そんなに甘くないよ? どんな気持ちで弟さんの許嫁に嫌がらせをして結婚まで駄目にしたのかは知りたくも無いけど、相当屑な所業だよそれ。アタシは弟の結婚を駄目にしたら罪悪感でいっぱいになるよ。それとうちがアンタの借金を肩代わりしたことも“知らない”で通すけどさ、嫌ならその分の金を返しなよ。文句言うのはまずそれからでしょう?」
義姉の正論にアリーは何も言い返せない。
今までも正論を説いてくる奴はいたけれど聞く耳は持たなかった。なのに、この義理の姉の言葉がやけに胸に突き刺さる。
4,830
あなたにおすすめの小説
兄にいらないと言われたので勝手に幸せになります
毒島醜女
恋愛
モラハラ兄に追い出された先で待っていたのは、甘く幸せな生活でした。
侯爵令嬢ライラ・コーデルは、実家が平民出の聖女ミミを養子に迎えてから実の兄デイヴィッドから冷遇されていた。
家でも学園でも、デビュタントでも、兄はいつもミミを最優先する。
友人である王太子たちと一緒にミミを持ち上げてはライラを貶めている始末だ。
「ミミみたいな可愛い妹が欲しかった」
挙句の果てには兄が婚約を破棄した辺境伯家の元へ代わりに嫁がされることになった。
ベミリオン辺境伯の一家はそんなライラを温かく迎えてくれた。
「あなたの笑顔は、どんな宝石や星よりも綺麗に輝いています!」
兄の元婚約者の弟、ヒューゴは不器用ながらも優しい愛情をライラに与え、甘いお菓子で癒してくれた。
ライラは次第に笑顔を取り戻し、ベミリオン家で幸せになっていく。
王都で聖女が起こした騒動も知らずに……
継子いじめで糾弾されたけれど、義娘本人は離婚したら私についてくると言っています〜出戻り夫人の商売繁盛記〜
野生のイエネコ
恋愛
後妻として男爵家に嫁いだヴィオラは、継子いじめで糾弾され離婚を申し立てられた。
しかし当の義娘であるシャーロットは、親としてどうしようもない父よりも必要な教育を与えたヴィオラの味方。
義娘を連れて実家の商会に出戻ったヴィオラは、貴族での生活を通じて身につけた知恵で新しい服の開発をし、美形の義娘と息子は服飾モデルとして王都に流行の大旋風を引き起こす。
度々襲来してくる元夫の、借金の申込みやヨリを戻そうなどの言葉を躱しながら、事業に成功していくヴィオラ。
そんな中、伯爵家嫡男が、継子いじめの疑惑でヴィオラに近づいてきて?
※小説家になろうで「離婚したので幸せになります!〜出戻り夫人の商売繁盛記〜」として掲載しています。
戻る場所がなくなったようなので別人として生きます
しゃーりん
恋愛
医療院で目が覚めて、新聞を見ると自分が死んだ記事が載っていた。
子爵令嬢だったリアンヌは公爵令息ジョーダンから猛アプローチを受け、結婚していた。
しかし、結婚生活は幸せではなかった。嫌がらせを受ける日々。子供に会えない日々。
そしてとうとう攫われ、襲われ、森に捨てられたらしい。
見つかったという遺体が自分に似ていて死んだと思われたのか、別人とわかっていて死んだことにされたのか。
でももう夫の元に戻る必要はない。そのことにホッとした。
リアンヌは別人として新しい人生を生きることにするというお話です。
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
私を追い出した結果、飼っていた聖獣は誰にも懐かないようです
天宮有
恋愛
子供の頃、男爵令嬢の私アミリア・ファグトは助けた小犬が聖獣と判明して、飼うことが決まる。
数年後――成長した聖獣は家を守ってくれて、私に一番懐いていた。
そんな私を妬んだ姉ラミダは「聖獣は私が拾って一番懐いている」と吹聴していたようで、姉は侯爵令息ケドスの婚約者になる。
どうやらラミダは聖獣が一番懐いていた私が邪魔なようで、追い出そうと目論んでいたようだ。
家族とゲドスはラミダの嘘を信じて、私を蔑み追い出そうとしていた。
三年の想いは小瓶の中に
月山 歩
恋愛
結婚三周年の記念日だと、邸の者達がお膳立てしてくれた二人だけのお祝いなのに、その中心で一人夫が帰らない現実を受け入れる。もう彼を諦める潮時かもしれない。だったらこれからは自分の人生を大切にしよう。アレシアは離縁も覚悟し、邸を出る。
※こちらの作品は契約上、内容の変更は不可であることを、ご理解ください。
【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる