2 / 25
夫に想いを寄せる女性
しおりを挟む
ロザリンドが夫のライアスに差し入れをする女の存在を知ったのは、もう数か月も前のことだった。
所用で夫の職場を訪れた際、偶然その現場を目にしてしまい、あまりのショックで呆然としてしまったほどだ。
「ライアス隊長~! これ差し入れです、食べてください!」
まるで小動物のような小柄な少女が夫に可愛らしい小袋を渡していた。
頬を赤く染め、恋する乙女の眼差しを送る彼女。それを見たロザリンドは全身の血が抜けるような感覚に襲われた。
軍人である夫は若くして高い地位について出世頭なので言い寄る女がいてもおかしくない。
そう自分に言い聞かせるも、夫が次にした行為は更にロザリンドを驚かせるものであった。
「お~、ありがとう。これガキのころの好物でさ、たまーに食べたくなるんだわ」
なんと夫は女から貰った物をその場で食べ始めたのだ。
女が作ったであろうそれを、何の躊躇もなく口にする夫にロザリンドは驚愕した。
「旦那様……! 何をしてらっしゃるの!!」
慌ててロザリンドは夫の元に駆け寄った。
ここにいるはずのない妻の登場に、ライアスもその女も目を見開く。
「ロザリンド!? どうしてここに?」
「本日は師団長様と会う用事がございましたの。それよりも旦那様、こちらの方は?」
こちらの方、とロザリンドに聞かれて肩をビクッとさせる女。
その姿は怯えた小動物のようだが、目はしっかりとロザリンドを見据えていた。
「あ、ああ……この子は事務方の新人で、俺と同じ村出身なんだ。名前はアニーっていう」
「アニーです、初めまして」
アニーという少女はまだ子供と言えるような外見だが、目はしっかり女の目をしていた。
愛する男を慕うドロリとした欲を孕んだ茶色の瞳は、敵対する女に向けて挑戦的な眼差しを送っている。
どう考えてもこの少女は夫に気がある。
だからこそ危ない。そう思ったロザリンドは先手を打つことにした。
「まあ、可愛らしいお嬢さんですこと。……ところで、先ほどわたくしの夫に何か差し入れていたようですが?」
ロザリンドは他者を圧倒する声音でアニーにそう問いかける。
生粋の貴族令嬢である彼女の声には有無を言わさぬ力がある。
「えっ……こ、これはその、アタシやライアス隊長の故郷のお菓子です……!」
「まあ、そうなのですか? 夫にお気遣いいただきありがとうございます。こちらはお礼ですので是非お受け取り下さいまし」
ロザリンドは専属のメイドに目配せし、アニーにお礼として銀貨を一袋分渡した。
「えっ? え? いや、こんなに貰うわけには……」
「お気持ちですので、気にしないでくださいませ。それではわたくしは約束がありますのでこれで失礼します。旦那様、お仕事頑張ってくださいましね?」
優美な所作でお辞儀をし、ロザリンドはその場から離れた。
横目で周囲を見ると、何の騒ぎかと他の軍人たちが野次馬と化しているのが分かる。
大勢の人間が見ている場で、好意を寄せる男の妻にここまでされたらもう同じことは繰り返さないだろう。
そう考えたロザリンドだが、それが甘かったと後に知ることとなる……。
所用で夫の職場を訪れた際、偶然その現場を目にしてしまい、あまりのショックで呆然としてしまったほどだ。
「ライアス隊長~! これ差し入れです、食べてください!」
まるで小動物のような小柄な少女が夫に可愛らしい小袋を渡していた。
頬を赤く染め、恋する乙女の眼差しを送る彼女。それを見たロザリンドは全身の血が抜けるような感覚に襲われた。
軍人である夫は若くして高い地位について出世頭なので言い寄る女がいてもおかしくない。
そう自分に言い聞かせるも、夫が次にした行為は更にロザリンドを驚かせるものであった。
「お~、ありがとう。これガキのころの好物でさ、たまーに食べたくなるんだわ」
なんと夫は女から貰った物をその場で食べ始めたのだ。
女が作ったであろうそれを、何の躊躇もなく口にする夫にロザリンドは驚愕した。
「旦那様……! 何をしてらっしゃるの!!」
慌ててロザリンドは夫の元に駆け寄った。
ここにいるはずのない妻の登場に、ライアスもその女も目を見開く。
「ロザリンド!? どうしてここに?」
「本日は師団長様と会う用事がございましたの。それよりも旦那様、こちらの方は?」
こちらの方、とロザリンドに聞かれて肩をビクッとさせる女。
その姿は怯えた小動物のようだが、目はしっかりとロザリンドを見据えていた。
「あ、ああ……この子は事務方の新人で、俺と同じ村出身なんだ。名前はアニーっていう」
「アニーです、初めまして」
アニーという少女はまだ子供と言えるような外見だが、目はしっかり女の目をしていた。
愛する男を慕うドロリとした欲を孕んだ茶色の瞳は、敵対する女に向けて挑戦的な眼差しを送っている。
どう考えてもこの少女は夫に気がある。
だからこそ危ない。そう思ったロザリンドは先手を打つことにした。
「まあ、可愛らしいお嬢さんですこと。……ところで、先ほどわたくしの夫に何か差し入れていたようですが?」
ロザリンドは他者を圧倒する声音でアニーにそう問いかける。
生粋の貴族令嬢である彼女の声には有無を言わさぬ力がある。
「えっ……こ、これはその、アタシやライアス隊長の故郷のお菓子です……!」
「まあ、そうなのですか? 夫にお気遣いいただきありがとうございます。こちらはお礼ですので是非お受け取り下さいまし」
ロザリンドは専属のメイドに目配せし、アニーにお礼として銀貨を一袋分渡した。
「えっ? え? いや、こんなに貰うわけには……」
「お気持ちですので、気にしないでくださいませ。それではわたくしは約束がありますのでこれで失礼します。旦那様、お仕事頑張ってくださいましね?」
優美な所作でお辞儀をし、ロザリンドはその場から離れた。
横目で周囲を見ると、何の騒ぎかと他の軍人たちが野次馬と化しているのが分かる。
大勢の人間が見ている場で、好意を寄せる男の妻にここまでされたらもう同じことは繰り返さないだろう。
そう考えたロザリンドだが、それが甘かったと後に知ることとなる……。
752
あなたにおすすめの小説
婚約破棄の代償
nanahi
恋愛
「あの子を放って置けないんだ。ごめん。婚約はなかったことにしてほしい」
ある日突然、侯爵令嬢エバンジェリンは婚約者アダムスに一方的に婚約破棄される。破局に追い込んだのは婚約者の幼馴染メアリという平民の儚げな娘だった。
エバンジェリンを差し置いてアダムスとメアリはひと時の幸せに酔うが、婚約破棄の代償は想像以上に大きかった。
わたしは婚約者の不倫の隠れ蓑
岡暁舟
恋愛
第一王子スミスと婚約した公爵令嬢のマリア。ところが、スミスが魅力された女は他にいた。同じく公爵令嬢のエリーゼ。マリアはスミスとエリーゼの密会に気が付いて……。
もう終わりにするしかない。そう確信したマリアだった。
本編終了しました。
フッてくれてありがとう
nanahi
恋愛
「子どもができたんだ」
ある冬の25日、突然、彼が私に告げた。
「誰の」
私の短い問いにあなたは、しばらく無言だった。
でも私は知っている。
大学生時代の元カノだ。
「じゃあ。元気で」
彼からは謝罪の一言さえなかった。
下を向き、私はひたすら涙を流した。
それから二年後、私は偶然、元彼と再会する。
過去とは全く変わった私と出会って、元彼はふたたび──
家出したとある辺境夫人の話
あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』
これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。
※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。
※他サイトでも掲載します。
学生のうちは自由恋愛を楽しもうと彼は言った
mios
恋愛
学園を卒業したらすぐに、私は婚約者と結婚することになる。
学生の間にすることはたくさんありますのに、あろうことか、自由恋愛を楽しみたい?
良いですわ。学生のうち、と仰らなくても、今後ずっと自由にして下さって良いのですわよ。
9話で完結
もう愛は冷めているのですが?
希猫 ゆうみ
恋愛
「真実の愛を見つけたから駆け落ちするよ。さよなら」
伯爵令嬢エスターは結婚式当日、婚約者のルシアンに無残にも捨てられてしまう。
3年後。
父を亡くしたエスターは令嬢ながらウィンダム伯領の領地経営を任されていた。
ある日、金髪碧眼の美形司祭マクミランがエスターを訪ねてきて言った。
「ルシアン・アトウッドの居場所を教えてください」
「え……?」
国王の命令によりエスターの元婚約者を探しているとのこと。
忘れたはずの愛しさに突き動かされ、マクミラン司祭と共にルシアンを探すエスター。
しかしルシアンとの再会で心優しいエスターの愛はついに冷め切り、完全に凍り付く。
「助けてくれエスター!僕を愛しているから探してくれたんだろう!?」
「いいえ。あなたへの愛はもう冷めています」
やがて悲しみはエスターを真実の愛へと導いていく……
◇ ◇ ◇
完結いたしました!ありがとうございました!
誤字報告のご協力にも心から感謝申し上げます。
皇太子夫妻の歪んだ結婚
夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。
その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。
本編完結してます。
番外編を更新中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる