初夜に訪れたのは夫ではなくお義母様でした

わらびもち

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ついに、離婚が成立

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「それで奥様、こちらを公爵様より預かって参りました……」

 使者が差し出した手紙をセシリアはためらいがちに受け取った。
 一拍の沈黙のあと、覚悟を決めるように封を開ける。

「これは……”離婚決定通知書”……?」

 同封されていたのはセシリアとエリオットの離婚成立を示す正式な通知書。
 国王の印が押されたその紙をじっと見つめたあと、セシリアはそっと顔を上げ、無言で使者を見た。

「公爵様は、せめて奥様を巻き込まぬよう離婚の手続きを急いでお進めになりました。それと、こちらも……」

 次いで渡された手紙を開くと、そこには家門の長である公爵の印が押された除籍通知書が入っていた。
 そこにはイザベラの名が記載されており、それを見たセシリアは驚いて再び顔を使者の方へと向ける。

「これって……」

「はい。義理とはいえエリオット様の母というお立場では、連座で何らかの処罰を加えられる恐れがございます。イザベラ様をお守りするためには、こうするしかないと……。それで……恐縮ではございますが、ひとつ不躾なお願いをお伝えしなければなりません。奥様……いえ、セシリア様。公爵様が、イザベラ様をあなたに託したいと」

 エリオットの不始末により、今後ガーネット家全体がどのような処罰を受けるかは予測がつかない。
 公爵は、せめてセシリアとイザベラだけでも家から除籍し、処罰の影響から逃れさせようとしている。
 セシリアとは違い、帰る家のないイザベラの身の振り方が問題となる。公爵はその行く末をセシリアに託そうとしているのだ。

「ええ、任せて。お義母様……いえ、イザベラ様はサフィー家で預かります」

「ありがとうございます……。流石はセシリア様、公爵様もお喜びになられることでしょう」

 深々と頭を下げる使者をセシリアはただ静かに見つめる。
 こうしてセシリアは結婚以来の悲願であった離縁を果たし、ついにエリオットとの関係に終止符を打った。
 わずか一年にも満たない結婚生活だったが、思い返せば信じられないほど多くの出来事があった。
 未だ終わっていない問題もあり、これから関係者として王宮に呼び出される可能性すらある。
 それでも――エリオットと決別できたことはセシリアにとって何よりの喜びだった。


 その後、離婚が成立して”ガーネット侯爵夫人”から”サフィー侯爵令嬢”となったセシリアはイザベラを連れて実家へと戻った。ガーネット侯爵家の領地経営と災害復興については公爵が責任を持って引き継ぐという。それを聞いてセシリアはほっと胸を撫で下ろした。エリオットの処遇についてはどうでもいいが、領民のことは気がかりだったから。

 セシリアがサフィー家に戻ると、父は玄関先で彼女を出迎え、いきなり頭を床にこすりつけた。

「すまん……あんな縁談を受けたばかりに、お前にとんでもない苦労をさせてしまった……」
 
 その背中を母がひどく冷たい目で見下ろしている。

「まったくですよ。わたくしの娘をここまで愚弄するなんて、なんて酷い男なのでしょうガーネット侯爵というのは。屋敷を焼失させ、自分は犯罪の片棒を担いだというではありませんか。ごめんねセシリア、そんな屑に嫁がせてしまって……」

 セシリアの両親がエリオットの非道を知ったのはつい最近のことだった。
 セシリアが離婚を終えて実家に戻ることを案じた公爵が、結婚当初からの出来事を記した手紙をサフィー家へ送ってきたのである。
 そこでようやく、彼らは娘がどれほど苦しい結婚生活を強いられていたのかを知ることとなった。

「お父様もお母様もどうかお気になさらないでくださいませ。私自身、それほど辛いと思ったことはありませんでしたから」

 腹は立ったが、辛いとは思わなかった。
 セシリアの感情はいつも悲しみより先に怒りが湧いてくるから。

「……これを辛いと思わないなんて、あなたくらいよ。本当に……我が娘ながら、強いわね。婚家で火災が起きても助けすら求めなかったなんて――。ガーネット侯爵家が火事で焼け落ちたと、公爵様からの手紙がなければ知りようもなかったわ」

 どうやらガーネット侯爵家の火災については情報規制がされているのか、実家のサフィー家のもとにすら情報が届かなかったらしい。セシリア自身も実家に助けを求めるという発想するなかったし、忙しくて報せるという頭もなかった。だから両親が知ったのはつい最近のこと。公爵からの手紙によるものだという。
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