初夜に訪れたのは夫ではなくお義母様でした

わらびもち

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エリオットの戯言のせい

「なんですって……? どういうこと?」

 オニキス子爵家の惨事にエリオットが関わっていたという衝撃の事実に、セシリアは思わず身を乗り出した。
唇がわなないた。まるで冷たい風にさらされたかのように肩が震え出す。
 エリオットは確かに無責任で流されやすく、常識や立場を理解しない愚か者ではあるが……“そういうこと”からは最も遠い人間だと思っていた。そういった、他者を物理的に傷つける行為はしないものだと、そこまで堕ちた人間ではないと……。

「まさか、あの襲撃はエリオット様が指示した……?」

「いえ……直接的に指示したわけではございません。ただ、間接的に指示したようなものと言いますか……」

 使者は再び口をつぐんだ。その様子にセシリアは思わず固唾を飲む。
 重い沈黙の末、使者は目を伏せたままぽつりと語り出した。

「エリオット様は王女様に、キャサリン様のことをこんなふうに話していたそうです。『別れてからも執拗に言い寄られて困っている。あの押しの強さでは妻と別れたら即座に結婚を迫られるだろう』……と」

「は?」

「それと、『結婚式の夜にも脅されて仕方なく彼女の元へ行った。彼女は自分の命を盾にいつも僕を言いなりにしようとする。きっとこれから先も彼女から逃れられないのだろうな……』ともおっしゃったようで……」

「はあああ!? 自分も乗り気だったくせに、何を言っているの! キャサリンには僕がいないと駄目なんだとかぬかしていたくせに……!!」

 あまりにもふざけたエリオットの物言いに、セシリアは怒りを抑えきれず口調も荒く叫んだ。
 か弱い女に頼られて満更でもなかったくせに、何を被害者ぶっているのかと。

「まさか、その戯言を真に受けた王女がオニキス子爵家を……!?」

「はい、その通りでございます。どうやら王女様は『分不相応にもエリオット様を脅して言いなりにさせようとする卑しい女を始末したかった』と供述しているようで……」

「それはそうなるわよ……。私が邪魔というだけで屋敷に火を放つような頭のおかしい女だもの、王女は」

 皮肉にもキャサリン自身はセシリアが強制的にガーネット侯爵家の留め置いたおかげで難を逃れたというわけだ。
 火災には見舞われるという災難にはあったが、オニキス子爵家にいたらその命は確実に奪われていたはず。
 おそらくエリオットは、キャサリンがガーネット侯爵家にいることをわざと黙っていたのだろう。
「言い寄られて困っている相手が、なぜ屋敷にいるのか」と突っ込まれれば、さすがに言い訳ができない。

「火災の件についても、オニキス子爵家の件についても、原因はエリオット様が不必要に王女様と親しくし、王女様が想いを暴走させたことにあると、国王陛下は大層お怒りで……」

「それは怒るわよ……。私が陛下の立場ならエリオット様を極刑に処したいところだわ。しかもこれ……国際問題よね? 他国の王女が我が国の貴族家を二つも物理的に潰そうとしたのだもの。しかも、襲撃に慣れた暗殺者という危険な集団を我が国に連れてきていたことも発覚したわけだし……」

 ガーネット侯爵家への放火然り、オニキス子爵家の襲撃然り、そのどちらも実行犯は王女の手の者なら、王女は留学に必要のない暗殺者を引きつれて我が国に来たことになる。どう考えてもあちらの国からの宣戦布告ととれる。

「おっしゃる通りです。陛下が直ちにあちらの国へ抗議の使者を遣わされたところ、謝罪の意を示すためあちらの王自らが我が国を訪問される運びとなりました」

「王が自ら? しかも謝罪ということは……我が国と争う気はあちらに無いと?」

「どうやらそのようです。明日にはご到着なさるようで、陛下と諸卿は王宮にて会合を開かれるとのこと。エリオット様の命運もその場で決まるやもしれません……」

 悲痛な面持ちで唇を噛みしめる使者に、セシリアは何も言えなかった。
 エリオットの命運はこの際どうでもいいとして、この件によってガーネット家一門の名誉が失墜する可能性は高い。被害者とはいえ、妻の立場にあるセシリアもどうなるか……。

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