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エリオットの処遇
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「しかし……まあ、こちらとしても助かった。ここまでのことをしでかした犯罪者を、ただ他国の王女という理由で母国へ送還するだけの処罰で済ませては諸外国から侮られよう。さりとて、他国の王族が我が国で罪を犯すなど前代未聞のことである。罰したくとも前例がない故、如何に処すべきかと陛下もお悩みであったからな。あちらの王太子が事を進めてくれたのはまことに重畳であった」
「ええ、おっしゃる通りですね。王女様の行為はさすがに度を越しておられます。留学中に他国の貴族家を二軒も襲撃されるなど、前代未聞です。正直に申しまして尋常とは思えません。私は今なお、ガーネット侯爵家が焼け落ちたことが夢であったのではないかと思ってしまうのですよ……」
あの日、茶会で王女の狂言を耳にし、急ぎ屋敷へ戻って目にした光景が夢であったのではないかと、セシリアはいまだに現実感を持てずにいる。後処理に奔走した記憶は確かにあるのに、未だにガーネット侯爵領に行けばあのままの屋敷がそこにあるような気がしてしまう。
本当にすべてが燃えてしまったのだろうか、という問いがふとした瞬間胸に浮かぶ。目を閉じれば、今でも荘厳で歴史ある屋敷の姿が脳裏に蘇る。石造りの階段も、暖炉も、美しい花々が咲き乱れる庭も、灰になって消えてしまったと信じられないでいる。義母……イザベラが綺麗な音を奏でていた思い出のピアノも、まだあそこにあるのではと思えてならない。
その度に「馬鹿なことを……」と我に返る。屋敷の全てが灰になり消えてしまった様を自分はしっかりとこの目で確認しているというのに。そして、それを考えると嫁いだ相手は最悪でも、あの屋敷での日々はそれほど悪いものでもなかったのだと実感する。
「そうだな……。それは儂も同じだ。思い出深い屋敷が、こうも呆気なく消えてしまうとは……夢にも思わなんだ」
公爵にとってはあの屋敷はセシリア以上に思い出深い場所だったのだろう。そのぶん、胸に迫る悲しみもひとしおのはずだ。哀愁漂う公爵の顔をセシリアはただじっと見つめていた。
「それと、エリオットの処遇だが……」
静けさがしばし部屋を包んだ後、出されたまま冷めかけた紅茶を一口飲み、公爵は語りだした。
「今回の事件に直接関わってはいないにせよ、既婚の身でありながら王女に勘違いさせるような態度を取ったのは、あまりにも誠実さに欠けている。エリオットが余計なことを王女に吹き込まなければ、少なくともオニキス子爵家は被害を免れていただろうに……」
そこまで話すと公爵はふうと息をつき、眉間を指で揉んだ。
「王女の共犯者……とまではいかないが、王女を誑かしたと言っても過言はない。国王は厳しき沙汰を下し、当主の座と爵位を剥奪のうえ、強制労働に処せされた。今のあいつはすでにガーネット侯爵ではない。ただのエリオットとなった」
「爵位剥奪に強制労働ですか……。陛下は随分と厳しい沙汰をくだされたのですね。当主でいられなくなることは予想していましたが、まさか犯罪者のように強制労働を課されるとは……」
まさかエリオットが犯罪者のような扱いを受けるとは予想していなかった。てっきり、当主の座を剥奪されるだけですむものかと。
「これだけ多方面に迷惑をかけたのだ。それは当然だろう。あいつも……せめて最後くらいは当主としての責任を取らねばなるまい。それに、刑に服してた方が女と関わらずにすむだろう。あれは関わる女を不幸にするとんだ男だった。セシリア嬢……あのような男との縁を結ばせてしまい、まことにすまぬことをした。改めて謝罪させてくれ……」
「いえ、もう謝らないでくださいませ公爵様。結婚を決めたのは私自身の意志でもあるのですから。それに……あの屋敷での生活はなかなか楽しいものでしたわ」
自信に満ちた笑みを浮かべるセシリアに、公爵は思わず頬をほころばせた。
「……はは、本当に強い女性だ。あれほどの仕打ちを受けながら、何事もなかったかのように語れるのは君くらいのものだろう。君ほどガーネット侯爵家の女主人にふさわしい人物もいなかったはずだ……。本当に……惜しい」
哀愁漂わせた表情で公爵はそう呟いた。
彼がセシリアをガーネット侯爵家の夫人に選んだのは、まさしく賢明かつ正しい選択であった。
間違っていたとすれば、甥があそこまで度を越した馬鹿だったことを見抜けなかったこと。ただ、それだけ。
「女主人といえば……オニキス子爵令嬢はその後どうなったのでしょうか?」
肝心のエリオットが平民になってしまったのでは、キャサリンが侯爵夫人となることは叶わない。
それに両親が凶事に巻き込まれてしまったのは、エリオットが王女に余計なことを吹き込んだせい。加害者も同然のエリオットに嫁ごうなどとは、もはや考え難いことではないだろうか。
その問いかけに公爵はどこか遠くを見つめるような眼差しを浮かべ、「あの娘は……」と低く呟いた。
「ええ、おっしゃる通りですね。王女様の行為はさすがに度を越しておられます。留学中に他国の貴族家を二軒も襲撃されるなど、前代未聞です。正直に申しまして尋常とは思えません。私は今なお、ガーネット侯爵家が焼け落ちたことが夢であったのではないかと思ってしまうのですよ……」
あの日、茶会で王女の狂言を耳にし、急ぎ屋敷へ戻って目にした光景が夢であったのではないかと、セシリアはいまだに現実感を持てずにいる。後処理に奔走した記憶は確かにあるのに、未だにガーネット侯爵領に行けばあのままの屋敷がそこにあるような気がしてしまう。
本当にすべてが燃えてしまったのだろうか、という問いがふとした瞬間胸に浮かぶ。目を閉じれば、今でも荘厳で歴史ある屋敷の姿が脳裏に蘇る。石造りの階段も、暖炉も、美しい花々が咲き乱れる庭も、灰になって消えてしまったと信じられないでいる。義母……イザベラが綺麗な音を奏でていた思い出のピアノも、まだあそこにあるのではと思えてならない。
その度に「馬鹿なことを……」と我に返る。屋敷の全てが灰になり消えてしまった様を自分はしっかりとこの目で確認しているというのに。そして、それを考えると嫁いだ相手は最悪でも、あの屋敷での日々はそれほど悪いものでもなかったのだと実感する。
「そうだな……。それは儂も同じだ。思い出深い屋敷が、こうも呆気なく消えてしまうとは……夢にも思わなんだ」
公爵にとってはあの屋敷はセシリア以上に思い出深い場所だったのだろう。そのぶん、胸に迫る悲しみもひとしおのはずだ。哀愁漂う公爵の顔をセシリアはただじっと見つめていた。
「それと、エリオットの処遇だが……」
静けさがしばし部屋を包んだ後、出されたまま冷めかけた紅茶を一口飲み、公爵は語りだした。
「今回の事件に直接関わってはいないにせよ、既婚の身でありながら王女に勘違いさせるような態度を取ったのは、あまりにも誠実さに欠けている。エリオットが余計なことを王女に吹き込まなければ、少なくともオニキス子爵家は被害を免れていただろうに……」
そこまで話すと公爵はふうと息をつき、眉間を指で揉んだ。
「王女の共犯者……とまではいかないが、王女を誑かしたと言っても過言はない。国王は厳しき沙汰を下し、当主の座と爵位を剥奪のうえ、強制労働に処せされた。今のあいつはすでにガーネット侯爵ではない。ただのエリオットとなった」
「爵位剥奪に強制労働ですか……。陛下は随分と厳しい沙汰をくだされたのですね。当主でいられなくなることは予想していましたが、まさか犯罪者のように強制労働を課されるとは……」
まさかエリオットが犯罪者のような扱いを受けるとは予想していなかった。てっきり、当主の座を剥奪されるだけですむものかと。
「これだけ多方面に迷惑をかけたのだ。それは当然だろう。あいつも……せめて最後くらいは当主としての責任を取らねばなるまい。それに、刑に服してた方が女と関わらずにすむだろう。あれは関わる女を不幸にするとんだ男だった。セシリア嬢……あのような男との縁を結ばせてしまい、まことにすまぬことをした。改めて謝罪させてくれ……」
「いえ、もう謝らないでくださいませ公爵様。結婚を決めたのは私自身の意志でもあるのですから。それに……あの屋敷での生活はなかなか楽しいものでしたわ」
自信に満ちた笑みを浮かべるセシリアに、公爵は思わず頬をほころばせた。
「……はは、本当に強い女性だ。あれほどの仕打ちを受けながら、何事もなかったかのように語れるのは君くらいのものだろう。君ほどガーネット侯爵家の女主人にふさわしい人物もいなかったはずだ……。本当に……惜しい」
哀愁漂わせた表情で公爵はそう呟いた。
彼がセシリアをガーネット侯爵家の夫人に選んだのは、まさしく賢明かつ正しい選択であった。
間違っていたとすれば、甥があそこまで度を越した馬鹿だったことを見抜けなかったこと。ただ、それだけ。
「女主人といえば……オニキス子爵令嬢はその後どうなったのでしょうか?」
肝心のエリオットが平民になってしまったのでは、キャサリンが侯爵夫人となることは叶わない。
それに両親が凶事に巻き込まれてしまったのは、エリオットが王女に余計なことを吹き込んだせい。加害者も同然のエリオットに嫁ごうなどとは、もはや考え難いことではないだろうか。
その問いかけに公爵はどこか遠くを見つめるような眼差しを浮かべ、「あの娘は……」と低く呟いた。
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