初夜に訪れたのは夫ではなくお義母様でした

わらびもち

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まず謝罪だ、話はそれから聞こう。

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「セシリア……君を初夜に放置したのはすまないと思っている。けど、それには事情があるんだ」

「すまないと思っている、ではありません。そこはきちんと謝罪を要求します」

 話の途中で謝罪を要求され、エリオットは一瞬「え?」と呆気にとられた。

「え、いや……だから、事情があって……」

「それは謝罪の後に聞きます。まずは私への非礼を詫びてくださいませ。話はそれからです」

 有無を言わせぬ妻の圧に負けてエリオットは小声で「も、申し訳ない……」と謝罪する。それを一瞥し、セシリアは「まあ、いいでしょう。続きをどうぞ」と促した。こちらに大変失礼な真似をしておいて、謝罪も無いなどセシリアにとっては到底許せることではない。

 エリオットは外見だけで勝手に淑やかだと思っていた自分の妻がここまでの強者つわものであることに驚愕し、信じられないものを見るような目をセシリアへと向けた。

「セシリア……君は、そんな女性だったのか?」

「エリオット様こそ、花嫁に恥をかかせて平然としているような不誠実な方だったのですね」

 侮蔑の感情を隠さないセシリアの冷めた視線にエリオットはたじろいだ。
 
「……エリオット、くだらぬことを言ってないでさっさと“事情”とやらを説明しろ」

「……あ、はい。ええっと……」

 公爵に促されエリオットはようやく話を戻した。

「あの日、本当は邸を出るつもりは無かったんだ……。結婚式の日に花嫁を置いてどこかへ行くなんて真似、本当はするつもりなかった。けど、披露宴の最中にキャサリンからの手紙を渡されて、そこに『貴方が他の人のものになるのなら、このまま命を絶ちます』と書いてあったから……」

「……待て、あの小娘からの手紙だと? 式にも披露宴にもあの小娘はおろか縁者のものも招待しておらぬはずだぞ?」

「え? そうだったのですか? 手紙を持ってきたのはキャサリンの侍女でしたが……」

「……チッ、どさくさに紛れてネズミが入り込んでいたか」

 二人のやりとりから察するに、あの結婚式の采配は公爵が執り行っていたらしい。
 結婚自体は気乗りしなかったが、式自体はセシリアも感動するほど良いものであった。
 豪華でありながら細部まで気を配った素晴らしい式。こんな式を采配する夫はさぞかし出来る男性なのだと、あの時は感心したのを覚えている。

 出来る男性公爵が采配したという部分は間違っていないのだが……願わくばそれが夫となる男性であってほしかった。そうであればこんな拗れることも無かったのに。
 
「それで、手紙で脅されたから仕方なく会いに行ったのか? ……馬鹿馬鹿しい、そんな稚拙な罠に引っかかり、新妻との間に修復不可能なほどの亀裂を作るとは愚か極まりない」

「伯父上が他人事だからそうおっしゃいますが、キャサリンが本当に命を絶ったらどうするのですか!? それに修復不可能だなどとは大袈裟です!」

「大袈裟なものか。なあ、セシリア嬢?」

 公爵が同意を求めるとセシリアは迷いなく頷いた。
 その反応にエリオットは酷くショックを受けたように青褪める。

「え……そ、そんな……そこまでの話じゃないだろう?」

「いえ、そこまでの話です。そもそも婚約期間も無かったので、貴方と親交を深めてもおりません。ゼロの状態から始まってこれでは……」

 何を当たり前のことを、と言わんばかりの目を向けるとエリオットは瞳に涙を滲ませた。美男子が泣く姿はなかなかに同情を誘うが、そんなものはセシリアには効かない。

「ところで、そのキャサリン様というのが元婚約者でよろしいですか?」

「……え? あ、ああ……そうだ」

「そうですか。エリオット様は私との結婚が決まったというのに、そのキャサリン様と関係を続けていたという認識で相違ないですか?」

「それは違う! 僕とキャサリンはそういう関係ではない!」

「では、何故結婚式の日にそのような狂言を綴った手紙が届くのです? どう考えましても関係が続いていたとしか思えないのですが……」

「いや、違う……。キャサリンとは婚約を破棄してから一切連絡を取っていなかった。だが、君との結婚が決まったと知ったキャサリンは酷くショックを受けて……精神が不安定になってしまった。そこから度々命を絶とうとするので、それを止める為に僕が呼ばれるようになったんだ……。不安定なキャサリンも僕を見ると落ち着いてくれるから、それで……」

 迷惑そうに言うエリオットだが、セシリアは彼の顔に喜色が浮かんでいるのを見逃さない。どうやら彼は元婚約者に頼られて満更でもないらしい。
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