22 / 165
まず謝罪だ、話はそれから聞こう。
しおりを挟む
「セシリア……君を初夜に放置したのはすまないと思っている。けど、それには事情があるんだ」
「すまないと思っている、ではありません。そこはきちんと謝罪を要求します」
話の途中で謝罪を要求され、エリオットは一瞬「え?」と呆気にとられた。
「え、いや……だから、事情があって……」
「それは謝罪の後に聞きます。まずは私への非礼を詫びてくださいませ。話はそれからです」
有無を言わせぬ妻の圧に負けてエリオットは小声で「も、申し訳ない……」と謝罪する。それを一瞥し、セシリアは「まあ、いいでしょう。続きをどうぞ」と促した。こちらに大変失礼な真似をしておいて、謝罪も無いなどセシリアにとっては到底許せることではない。
エリオットは外見だけで勝手に淑やかだと思っていた自分の妻がここまでの強者であることに驚愕し、信じられないものを見るような目をセシリアへと向けた。
「セシリア……君は、そんな女性だったのか?」
「エリオット様こそ、花嫁に恥をかかせて平然としているような不誠実な方だったのですね」
侮蔑の感情を隠さないセシリアの冷めた視線にエリオットはたじろいだ。
「……エリオット、くだらぬことを言ってないでさっさと“事情”とやらを説明しろ」
「……あ、はい。ええっと……」
公爵に促されエリオットはようやく話を戻した。
「あの日、本当は邸を出るつもりは無かったんだ……。結婚式の日に花嫁を置いてどこかへ行くなんて真似、本当はするつもりなかった。けど、披露宴の最中にキャサリンからの手紙を渡されて、そこに『貴方が他の人のものになるのなら、このまま命を絶ちます』と書いてあったから……」
「……待て、あの小娘からの手紙だと? 式にも披露宴にもあの小娘はおろか縁者のものも招待しておらぬはずだぞ?」
「え? そうだったのですか? 手紙を持ってきたのはキャサリンの侍女でしたが……」
「……チッ、どさくさに紛れてネズミが入り込んでいたか」
二人のやりとりから察するに、あの結婚式の采配は公爵が執り行っていたらしい。
結婚自体は気乗りしなかったが、式自体はセシリアも感動するほど良いものであった。
豪華でありながら細部まで気を配った素晴らしい式。こんな式を采配する夫はさぞかし出来る男性なのだと、あの時は感心したのを覚えている。
出来る男性が采配したという部分は間違っていないのだが……願わくばそれが夫となる男性であってほしかった。そうであればこんな拗れることも無かったのに。
「それで、手紙で脅されたから仕方なく会いに行ったのか? ……馬鹿馬鹿しい、そんな稚拙な罠に引っかかり、新妻との間に修復不可能なほどの亀裂を作るとは愚か極まりない」
「伯父上が他人事だからそうおっしゃいますが、キャサリンが本当に命を絶ったらどうするのですか!? それに修復不可能だなどとは大袈裟です!」
「大袈裟なものか。なあ、セシリア嬢?」
公爵が同意を求めるとセシリアは迷いなく頷いた。
その反応にエリオットは酷くショックを受けたように青褪める。
「え……そ、そんな……そこまでの話じゃないだろう?」
「いえ、そこまでの話です。そもそも婚約期間も無かったので、貴方と親交を深めてもおりません。ゼロの状態から始まってこれでは……」
何を当たり前のことを、と言わんばかりの目を向けるとエリオットは瞳に涙を滲ませた。美男子が泣く姿はなかなかに同情を誘うが、そんなものはセシリアには効かない。
「ところで、そのキャサリン様というのが元婚約者でよろしいですか?」
「……え? あ、ああ……そうだ」
「そうですか。エリオット様は私との結婚が決まったというのに、そのキャサリン様と関係を続けていたという認識で相違ないですか?」
「それは違う! 僕とキャサリンはそういう関係ではない!」
「では、何故結婚式の日にそのような狂言を綴った手紙が届くのです? どう考えましても関係が続いていたとしか思えないのですが……」
「いや、違う……。キャサリンとは婚約を破棄してから一切連絡を取っていなかった。だが、君との結婚が決まったと知ったキャサリンは酷くショックを受けて……精神が不安定になってしまった。そこから度々命を絶とうとするので、それを止める為に僕が呼ばれるようになったんだ……。不安定なキャサリンも僕を見ると落ち着いてくれるから、それで……」
迷惑そうに言うエリオットだが、セシリアは彼の顔に喜色が浮かんでいるのを見逃さない。どうやら彼は元婚約者に頼られて満更でもないらしい。
「すまないと思っている、ではありません。そこはきちんと謝罪を要求します」
話の途中で謝罪を要求され、エリオットは一瞬「え?」と呆気にとられた。
「え、いや……だから、事情があって……」
「それは謝罪の後に聞きます。まずは私への非礼を詫びてくださいませ。話はそれからです」
有無を言わせぬ妻の圧に負けてエリオットは小声で「も、申し訳ない……」と謝罪する。それを一瞥し、セシリアは「まあ、いいでしょう。続きをどうぞ」と促した。こちらに大変失礼な真似をしておいて、謝罪も無いなどセシリアにとっては到底許せることではない。
エリオットは外見だけで勝手に淑やかだと思っていた自分の妻がここまでの強者であることに驚愕し、信じられないものを見るような目をセシリアへと向けた。
「セシリア……君は、そんな女性だったのか?」
「エリオット様こそ、花嫁に恥をかかせて平然としているような不誠実な方だったのですね」
侮蔑の感情を隠さないセシリアの冷めた視線にエリオットはたじろいだ。
「……エリオット、くだらぬことを言ってないでさっさと“事情”とやらを説明しろ」
「……あ、はい。ええっと……」
公爵に促されエリオットはようやく話を戻した。
「あの日、本当は邸を出るつもりは無かったんだ……。結婚式の日に花嫁を置いてどこかへ行くなんて真似、本当はするつもりなかった。けど、披露宴の最中にキャサリンからの手紙を渡されて、そこに『貴方が他の人のものになるのなら、このまま命を絶ちます』と書いてあったから……」
「……待て、あの小娘からの手紙だと? 式にも披露宴にもあの小娘はおろか縁者のものも招待しておらぬはずだぞ?」
「え? そうだったのですか? 手紙を持ってきたのはキャサリンの侍女でしたが……」
「……チッ、どさくさに紛れてネズミが入り込んでいたか」
二人のやりとりから察するに、あの結婚式の采配は公爵が執り行っていたらしい。
結婚自体は気乗りしなかったが、式自体はセシリアも感動するほど良いものであった。
豪華でありながら細部まで気を配った素晴らしい式。こんな式を采配する夫はさぞかし出来る男性なのだと、あの時は感心したのを覚えている。
出来る男性が采配したという部分は間違っていないのだが……願わくばそれが夫となる男性であってほしかった。そうであればこんな拗れることも無かったのに。
「それで、手紙で脅されたから仕方なく会いに行ったのか? ……馬鹿馬鹿しい、そんな稚拙な罠に引っかかり、新妻との間に修復不可能なほどの亀裂を作るとは愚か極まりない」
「伯父上が他人事だからそうおっしゃいますが、キャサリンが本当に命を絶ったらどうするのですか!? それに修復不可能だなどとは大袈裟です!」
「大袈裟なものか。なあ、セシリア嬢?」
公爵が同意を求めるとセシリアは迷いなく頷いた。
その反応にエリオットは酷くショックを受けたように青褪める。
「え……そ、そんな……そこまでの話じゃないだろう?」
「いえ、そこまでの話です。そもそも婚約期間も無かったので、貴方と親交を深めてもおりません。ゼロの状態から始まってこれでは……」
何を当たり前のことを、と言わんばかりの目を向けるとエリオットは瞳に涙を滲ませた。美男子が泣く姿はなかなかに同情を誘うが、そんなものはセシリアには効かない。
「ところで、そのキャサリン様というのが元婚約者でよろしいですか?」
「……え? あ、ああ……そうだ」
「そうですか。エリオット様は私との結婚が決まったというのに、そのキャサリン様と関係を続けていたという認識で相違ないですか?」
「それは違う! 僕とキャサリンはそういう関係ではない!」
「では、何故結婚式の日にそのような狂言を綴った手紙が届くのです? どう考えましても関係が続いていたとしか思えないのですが……」
「いや、違う……。キャサリンとは婚約を破棄してから一切連絡を取っていなかった。だが、君との結婚が決まったと知ったキャサリンは酷くショックを受けて……精神が不安定になってしまった。そこから度々命を絶とうとするので、それを止める為に僕が呼ばれるようになったんだ……。不安定なキャサリンも僕を見ると落ち着いてくれるから、それで……」
迷惑そうに言うエリオットだが、セシリアは彼の顔に喜色が浮かんでいるのを見逃さない。どうやら彼は元婚約者に頼られて満更でもないらしい。
3,632
あなたにおすすめの小説
なぜ、私に関係あるのかしら?
シエル
ファンタジー
「初めまして、アシュフォード公爵家一女、セシリア・アシュフォードと申します」
彼女は、つい先日までこの国の王太子殿下の婚約者だった。
そして今日、このトレヴァント辺境伯家へと嫁いできた。
「…レオンハルト・トレヴァントだ」
非道にも自らの実妹を長年にわたり虐げ、婚約者以外の男との不適切な関係を理由に、王太子妃に不適格とされ、貴族学院の卒業式で婚約破棄を宣告された。
そして、新たな婚約者として、その妹が王太子本人から指名されたのだった。
「私は君と夫婦になるつもりはないし、辺境伯夫人として扱うこともない」
この判断によって、どうなるかなども考えずに…
※ 中世ヨーロッパ風の世界観です。
※ ご都合主義ですので、ご了承下さい、
※ 画像はAIにて作成しております
遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。
沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。
すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。
だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。
イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。
変わり果てた現実を前に、
夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。
深い後悔と悲しみに苛まれながら、
失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。
しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。
贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。
そして、母の心を知っていく子供たち。
イネスが求める愛とは、
そして、幸せとは――。
ローザリンデの第二の人生
梨丸
恋愛
伯爵令嬢、ローザリンデの夫はいつも彼女より仕事を優先させ、彼女を無碍にしている。
彼には今はもういない想い人がいた。
私と結婚したことにいい思いをしていないことは知っていた。
けれど、私の命が懸かっていた時でさえも、彼の精神は変わらなかった。
あなたが愛してくれないのなら、私は勝手に幸せになります。
吹っ切れたローザリンデは自分自身の幸せのために動くことにした。
※投稿してから、誤字脱字などの修正やわかりにくい部分の補足をすることがあります。(話の筋は変わらないのでご安心ください。)
1/10 HOTランキング1位、小説、恋愛3位ありがとうございます。
結婚しても別居して私は楽しくくらしたいので、どうぞ好きな女性を作ってください
シンさん
ファンタジー
サナス伯爵の娘、ニーナは隣国のアルデーテ王国の王太子との婚約が決まる。
国に行ったはいいけど、王都から程遠い別邸に放置され、1度も会いに来る事はない。
溺愛する女性がいるとの噂も!
それって最高!好きでもない男の子供をつくらなくていいかもしれないし。
それに私は、最初から別居して楽しく暮らしたかったんだから!
そんな別居願望たっぷりの伯爵令嬢と王子の恋愛ストーリー
最後まで書きあがっていますので、随時更新します。
表紙はエブリスタでBeeさんに描いて頂きました!綺麗なイラストが沢山ございます。リンク貼らせていただきました。
さようなら、お別れしましょう
椿蛍
恋愛
「紹介しよう。新しい妻だ」――夫が『新しい妻』を連れてきた。
妻に新しいも古いもありますか?
愛人を通り越して、突然、夫が連れてきたのは『妻』!?
私に興味のない夫は、邪魔な私を遠ざけた。
――つまり、別居。
夫と父に命を握られた【契約】で縛られた政略結婚。
――あなたにお礼を言いますわ。
【契約】を無効にする方法を探し出し、夫と父から自由になってみせる!
※他サイトにも掲載しております。
※表紙はお借りしたものです。
【完結】これをもちまして、終了とさせていただきます
楽歩
恋愛
異世界から王宮に現れたという“女神の使徒”サラ。公爵令嬢のルシアーナの婚約者である王太子は、簡単に心奪われた。
伝承に語られる“女神の使徒”は時代ごとに現れ、国に奇跡をもたらす存在と言われている。婚約解消を告げる王、口々にルシアーナの処遇を言い合う重臣。
そんな混乱の中、ルシアーナは冷静に状況を見据えていた。
「王妃教育には、国の内部機密が含まれている。君がそれを知ったまま他家に嫁ぐことは……困難だ。女神アウレリア様を祀る神殿にて、王家の監視のもと、一生を女神に仕えて過ごすことになる」
神殿に閉じ込められて一生を過ごす? 冗談じゃないわ。
「お話はもうよろしいかしら?」
王族や重臣たち、誰もが自分の思惑通りに動くと考えている中で、ルシアーナは静かに、己の存在感を突きつける。
※39話、約9万字で完結予定です。最後までお付き合いいただけると嬉しいですm(__)m
【完結】無自覚人たらしマシュマロ令嬢、王宮で崇拝される ――見た目はぽっちゃり、中身は只者じゃない !
恋せよ恋
ファンタジー
富豪にして美食家、オラニエ侯爵家の長女ステファニー。
もっちり体型から「マシュマロ令嬢」と陰口を叩かれる彼女だが、
本人は今日もご機嫌に美味しいものを食べている。
――ただし、この令嬢、人のオーラが色で見える。
その力をひけらかすこともなく、ただ「気になるから」と忠告した結果、
不正商会が摘発され、運気が上がり、気づけば周囲には信奉者が増えていく。
十五歳で王妃に乞われ、王宮へ『なんでも顧問』として迎えられたステファニー。
美食を愛し、人を疑わず、誰にでも礼を尽くすその姿勢は、
いつの間にか貴族たちの心を掴み、王子たちまで惹きつけていく。
これは、
見た目はぽっちゃり、されど中身は只者ではないマシュマロ令嬢が、
無自覚のまま王宮を掌握していく、もっちり系・人たらし王宮譚。
🔶登場人物・設定は筆者の創作によるものです。
🔶不快に感じられる表現がありましたらお詫び申し上げます。
🔶誤字脱字・文の調整は、投稿後にも随時行います。
🔶今後もこの世界観で物語を続けてまいります。
🔶 エール📣いいね❤️励みになります!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる