初夜に訪れたのは夫ではなくお義母様でした

わらびもち

文字の大きさ
34 / 165

父親と息子でこうも違う

しおりを挟む
「貴女が想像した通りよ。亡くなった夫はお金とは別に海辺にある別荘をわたくしに遺してくれたの。そこは二人で行った思い出の場所でね……」

 イザベラは亡き夫との思い出に心を馳せ、どこか遠くを見つめていた。
 恋い慕う想いを憂いににじませたような表情はひときわ美しく、そして切なげだ。
 彼女が亡き先代を深く愛していたことはそれだけで十分に伝わってくる。

「自分の死後、わたくしがここに残れば肩身の狭い想いをすると分かっていたのよ。わたくしにはもう帰る場所がないと知っていたからこそ、せめて穏やかに過ごせるように二人の思い出の場所を遺してくれたのでしょう……」

「先代様はお義母様のことを深く愛していらっしゃったのですね」

「ええ……夫はわたくしのことをとても大切にしてくださったわ。わたくしはね、とある下位貴族が愛人に産ませた庶子なの。亡くなった母に似て見目がいいというだけの理由で引き取られ、金持ちの貴族の後妻にするつもりで最低限の淑女教育だけを施されたのよ。希望など微塵も抱かぬまま嫁いだというのに、夫は思いがけず誠実で優しい人だった。わたくしはすぐにあの人に恋をしてしまったの。嬉しいことに夫も同じ気持ちをわたくしに抱いてくださった。結婚生活は今までの人生の中で一番幸せで満ち足りたものだったわ……」

 うっとりと語るイザベラは恋する乙女そのものだった。
 彼女にこんな表情をさせるほど先代は素敵な男性だったのだと分かる。

(先代様はとても素敵な方のようだけど……息子のエリオット様はどうしてああなのかしら。素敵な要素が微塵も見当たらないわ……)

 父親が素敵だからといって、その息子まで同じとは限らない。セシリアはどこか落胆を覚えた。息子は妻を大切にするどころか、新婚初日から前代未聞の無礼な態度を取ったというのに。もしもエリオットが先代のように妻を大切にする人であったなら、セシリアもこの家に骨を埋める覚悟を保てたはずだ。

 義母が羨ましい、と素直に思う。そんな素敵な人と添い遂げることが出来て。

「何もなければわたくしは夫の遺言に従いこの家を出たはずなのよ。そして今頃はその別荘で夫との思い出に浸りながら暮らしていたはずなの。でも、エリオットが『その別荘は侯爵家の持ち物だから、あなたが貰うのはおかしい』って、待ったをかけてきたのよ」

「……それ、公爵様もおっしゃっていましたけど、おかしいことは何もありませんね。後妻といえども先代様の正式な奥方なのですから、お義母様は立派な侯爵家の一員です。先代様の遺産を相続する権利はございます。エリオット様の言い分ですと、侯爵家の血を継ぐ者もしくは次代の当主が全てを受け継ぐようもの。かつてはそれが成立していた時代もございますが、現行法では認められておりません。妻にも正当な相続分がきちんと定められております」

 エリオット様は法律にあまりお詳しくないようですね、とため息交じりにそう言い放つセシリアにイザベラは目を見開いて驚いた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

なぜ、私に関係あるのかしら?

シエル
ファンタジー
「初めまして、アシュフォード公爵家一女、セシリア・アシュフォードと申します」 彼女は、つい先日までこの国の王太子殿下の婚約者だった。 そして今日、このトレヴァント辺境伯家へと嫁いできた。 「…レオンハルト・トレヴァントだ」 非道にも自らの実妹を長年にわたり虐げ、婚約者以外の男との不適切な関係を理由に、王太子妃に不適格とされ、貴族学院の卒業式で婚約破棄を宣告された。 そして、新たな婚約者として、その妹が王太子本人から指名されたのだった。 「私は君と夫婦になるつもりはないし、辺境伯夫人として扱うこともない」 この判断によって、どうなるかなども考えずに… ※ 中世ヨーロッパ風の世界観です。 ※ ご都合主義ですので、ご了承下さい、 ※ 画像はAIにて作成しております

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。 すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。 だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。 イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。 変わり果てた現実を前に、 夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。 深い後悔と悲しみに苛まれながら、 失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。 しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。 贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。 そして、母の心を知っていく子供たち。 イネスが求める愛とは、 そして、幸せとは――。

ローザリンデの第二の人生

梨丸
恋愛
伯爵令嬢、ローザリンデの夫はいつも彼女より仕事を優先させ、彼女を無碍にしている。 彼には今はもういない想い人がいた。 私と結婚したことにいい思いをしていないことは知っていた。 けれど、私の命が懸かっていた時でさえも、彼の精神は変わらなかった。 あなたが愛してくれないのなら、私は勝手に幸せになります。 吹っ切れたローザリンデは自分自身の幸せのために動くことにした。 ※投稿してから、誤字脱字などの修正やわかりにくい部分の補足をすることがあります。(話の筋は変わらないのでご安心ください。) 1/10 HOTランキング1位、小説、恋愛3位ありがとうございます。

【完結済】王女に夢中な婚約者様、さようなら 〜自分を取り戻したあとの学園生活は幸せです! 〜

鳴宮野々花@書籍4作品発売中
恋愛
王立学園への入学をきっかけに、領地の屋敷から王都のタウンハウスへと引っ越した、ハートリー伯爵家の令嬢ロザリンド。婚約者ルパートとともに始まるはずの学園生活を楽しみにしていた。 けれど現実は、王女殿下のご機嫌を取るための、ルパートからの理不尽な命令の連続。 「かつらと黒縁眼鏡の着用必須」「王女殿下より目立つな」「見目の良い男性、高位貴族の子息らと会話をするな」……。 ルパートから渡された「禁止事項一覧表」に縛られ、ロザリンドは期待とは真逆の、暗黒の学園生活を送ることに。 そんな日々の中での唯一の救いとなったのは、友人となってくれた冷静で聡明な公爵令嬢、ノエリスの存在だった。 学期末、ロザリンドはついにルパートの怒りを買い、婚約破棄を言い渡される。 けれど、深く傷つきながら長期休暇を迎えたロザリンドのもとに届いたのは、兄の友人であり王国騎士団に属する公爵令息クライヴからの婚約の申し出だった。 暗黒の一学期が嘘のように、幸せな長期休暇を過ごしたロザリンド。けれど新学期を迎えると、エメライン王女が接触してきて……。 ※10万文字超えそうなので長編に変更します。 ※この作品は小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。

結婚しても別居して私は楽しくくらしたいので、どうぞ好きな女性を作ってください

シンさん
ファンタジー
サナス伯爵の娘、ニーナは隣国のアルデーテ王国の王太子との婚約が決まる。 国に行ったはいいけど、王都から程遠い別邸に放置され、1度も会いに来る事はない。 溺愛する女性がいるとの噂も! それって最高!好きでもない男の子供をつくらなくていいかもしれないし。 それに私は、最初から別居して楽しく暮らしたかったんだから! そんな別居願望たっぷりの伯爵令嬢と王子の恋愛ストーリー 最後まで書きあがっていますので、随時更新します。 表紙はエブリスタでBeeさんに描いて頂きました!綺麗なイラストが沢山ございます。リンク貼らせていただきました。

皆様ありがとう!今日で王妃、やめます!〜十三歳で王妃に、十八歳でこのたび離縁いたしました〜

百門一新
恋愛
セレスティーヌは、たった十三歳という年齢でアルフレッド・デュガウスと結婚し、国王と王妃になった。彼が王になる多には必要な結婚だった――それから五年、ようやく吉報がきた。 「君には苦労をかけた。王妃にする相手が決まった」 ということは……もうつらい仕事はしなくていいのねっ? 夫婦だと偽装する日々からも解放されるのね!? ありがとうアルフレッド様! さすが私のことよく分かってるわ! セレスティーヌは離縁を大喜びで受け入れてバカンスに出かけたのだが、夫、いや元夫の様子が少しおかしいようで……? サクッと読める読み切りの短編となっていります!お楽しみいただけましたら嬉しく思います! ※他サイト様にも掲載

さようなら、お別れしましょう

椿蛍
恋愛
「紹介しよう。新しい妻だ」――夫が『新しい妻』を連れてきた。  妻に新しいも古いもありますか?  愛人を通り越して、突然、夫が連れてきたのは『妻』!?  私に興味のない夫は、邪魔な私を遠ざけた。  ――つまり、別居。 夫と父に命を握られた【契約】で縛られた政略結婚。  ――あなたにお礼を言いますわ。 【契約】を無効にする方法を探し出し、夫と父から自由になってみせる! ※他サイトにも掲載しております。 ※表紙はお借りしたものです。

処理中です...