35 / 165
セシリアの怒り
しおりを挟む
「驚いた。貴女は法律に詳しいのね? わたくしは疎いからそれを知ったのはずっと後のことだったのよ。とはいえ……知っていたとしても強く出ることはできなかったでしょうけど」
イザベラはずいぶんとエリオットに遠慮しているように見える。
いくら後妻とはいえ、義母なのだからもう少し強く出てもいいのに。
「今からでも遅くはありませんよ? なんでしたら裁判をおこすと脅せばあの気弱な鶏野郎のことです、すぐにでも本来のお義母様の取り分を渡すでしょう」
「鶏野郎……!? い、いえ、今更いいわ。エリオットがわたくしに侯爵家の物を渡したくないという気持ちは分かるもの。いくら義理とはいえ、自分と年の変わらない女が母だなんて嫌だったのでしょう……。エリオットにとってわたくしは父親を誑かした女も同然だもの」
「あの男の気持ちなど、どうでもいいですよ。亡き父君の気持ちを無視し、己の欲だけを優先させるような屑の気持ちなど考える義理はございません。それに、どうせあの屑はお義母様のことを父親を誑かした女だとか何とか嘘を使用人にまで吹き込んだのでしょう? だから使用人まで本来は敬うべき立場の貴女に冷たくあたった。違いますか?」
「……見ていたの、というくらい当たっているわ。なんでそんなに勘が鋭いの? いや、もう勘で済む話ではないような……」
実際に見てきたと言っても過言はないほど自分の境遇を言い当てるセシリアにイザベラは驚愕した。
「許せませんね……。やはり今からでも使用人を躾け直さなくては。まずは自分の立場を分からせてやります」
「い、いえ、その必要はないわ! 貴女が脅したあの日から使用人の態度がガラリと変わって、怖いくらい丁寧になったから」
「脅した? はて……いつそんなことをしましたかね?」
「え……自覚ないの? 嘘でしょう……」
使用人の心に消えない恐怖を刻み込んだあの朝のことをセシリアは本気で覚えていないようだった。それくらい彼女の中ではどうでもいいことなのかもしれない。
「そんなことより、お義母様が理不尽な目に遭われていることが納得できません。受け取るはずだった遺産を訳の分からない理由でエリオット様に奪われ、他に行く場所がないからここにいるしかないのに邪魔者扱いされているなど理不尽にも程があります。おまけにエリオット様と元婚約者との破談の理由にまでさせられて、こんな酷い話がありますか!」
「ええ!? どうして貴女が元婚約者とエリオットの破談の理由まで知っているの……」
「話し合いの際、公爵様とエリオット様がそんなことを言っておりました。公爵様はそれについてエリオット様と元婚約者に怒っておりましたが、私も怒りを覚えましたね。エリオット様は自分がお義母様の行く宛てを潰したくせに被害者面、元婚約者はお義母様がいることを分かったうえで婚約したでしょうに土壇場になって被害者面。本当にお似合いの二人ですこと。腹が立ちます」
セシリアが自分の怒りを代弁してくれたので、イザベラは何も言えず呆気にとられた。
夫を亡くし、彼との思い出の場所まで奪われて、すべてを諦めていたイザベラだったが、セシリアが自分の代わりに怒ってくれたことで、不思議と胸がすく思いがした。
「そう……ね。本当にその通りだわ。エリオットの婚約がわたくしのせいで破談になって、申し訳なく思っていたけれど……あちらは最初からわたくしの存在を知っていたはずなのよね。それなのにどうして土壇場になって急にそんなことを言い出したのかしら……」
ずっと自分が悪いと思い込んでいたイザベラだったが、セシリアに言われて初めて違和感を覚えた。
イザベラはずいぶんとエリオットに遠慮しているように見える。
いくら後妻とはいえ、義母なのだからもう少し強く出てもいいのに。
「今からでも遅くはありませんよ? なんでしたら裁判をおこすと脅せばあの気弱な鶏野郎のことです、すぐにでも本来のお義母様の取り分を渡すでしょう」
「鶏野郎……!? い、いえ、今更いいわ。エリオットがわたくしに侯爵家の物を渡したくないという気持ちは分かるもの。いくら義理とはいえ、自分と年の変わらない女が母だなんて嫌だったのでしょう……。エリオットにとってわたくしは父親を誑かした女も同然だもの」
「あの男の気持ちなど、どうでもいいですよ。亡き父君の気持ちを無視し、己の欲だけを優先させるような屑の気持ちなど考える義理はございません。それに、どうせあの屑はお義母様のことを父親を誑かした女だとか何とか嘘を使用人にまで吹き込んだのでしょう? だから使用人まで本来は敬うべき立場の貴女に冷たくあたった。違いますか?」
「……見ていたの、というくらい当たっているわ。なんでそんなに勘が鋭いの? いや、もう勘で済む話ではないような……」
実際に見てきたと言っても過言はないほど自分の境遇を言い当てるセシリアにイザベラは驚愕した。
「許せませんね……。やはり今からでも使用人を躾け直さなくては。まずは自分の立場を分からせてやります」
「い、いえ、その必要はないわ! 貴女が脅したあの日から使用人の態度がガラリと変わって、怖いくらい丁寧になったから」
「脅した? はて……いつそんなことをしましたかね?」
「え……自覚ないの? 嘘でしょう……」
使用人の心に消えない恐怖を刻み込んだあの朝のことをセシリアは本気で覚えていないようだった。それくらい彼女の中ではどうでもいいことなのかもしれない。
「そんなことより、お義母様が理不尽な目に遭われていることが納得できません。受け取るはずだった遺産を訳の分からない理由でエリオット様に奪われ、他に行く場所がないからここにいるしかないのに邪魔者扱いされているなど理不尽にも程があります。おまけにエリオット様と元婚約者との破談の理由にまでさせられて、こんな酷い話がありますか!」
「ええ!? どうして貴女が元婚約者とエリオットの破談の理由まで知っているの……」
「話し合いの際、公爵様とエリオット様がそんなことを言っておりました。公爵様はそれについてエリオット様と元婚約者に怒っておりましたが、私も怒りを覚えましたね。エリオット様は自分がお義母様の行く宛てを潰したくせに被害者面、元婚約者はお義母様がいることを分かったうえで婚約したでしょうに土壇場になって被害者面。本当にお似合いの二人ですこと。腹が立ちます」
セシリアが自分の怒りを代弁してくれたので、イザベラは何も言えず呆気にとられた。
夫を亡くし、彼との思い出の場所まで奪われて、すべてを諦めていたイザベラだったが、セシリアが自分の代わりに怒ってくれたことで、不思議と胸がすく思いがした。
「そう……ね。本当にその通りだわ。エリオットの婚約がわたくしのせいで破談になって、申し訳なく思っていたけれど……あちらは最初からわたくしの存在を知っていたはずなのよね。それなのにどうして土壇場になって急にそんなことを言い出したのかしら……」
ずっと自分が悪いと思い込んでいたイザベラだったが、セシリアに言われて初めて違和感を覚えた。
3,598
あなたにおすすめの小説
なぜ、私に関係あるのかしら?
シエル
ファンタジー
「初めまして、アシュフォード公爵家一女、セシリア・アシュフォードと申します」
彼女は、つい先日までこの国の王太子殿下の婚約者だった。
そして今日、このトレヴァント辺境伯家へと嫁いできた。
「…レオンハルト・トレヴァントだ」
非道にも自らの実妹を長年にわたり虐げ、婚約者以外の男との不適切な関係を理由に、王太子妃に不適格とされ、貴族学院の卒業式で婚約破棄を宣告された。
そして、新たな婚約者として、その妹が王太子本人から指名されたのだった。
「私は君と夫婦になるつもりはないし、辺境伯夫人として扱うこともない」
この判断によって、どうなるかなども考えずに…
※ 中世ヨーロッパ風の世界観です。
※ ご都合主義ですので、ご了承下さい、
※ 画像はAIにて作成しております
無自覚人たらしマシュマロ令嬢、王宮で崇拝される ――見た目はぽっちゃり、中身は只者じゃない !
恋せよ恋
ファンタジー
富豪にして美食家、オラニエ侯爵家の長女ステファニー。
もっちり体型から「マシュマロ令嬢」と陰口を叩かれる彼女だが、
本人は今日もご機嫌に美味しいものを食べている。
――ただし、この令嬢、人のオーラが色で見える。
その力をひけらかすこともなく、ただ「気になるから」と忠告した結果、
不正商会が摘発され、運気が上がり、気づけば周囲には信奉者が増えていく。
十五歳で王妃に乞われ、王宮へ『なんでも顧問』として迎えられたステファニー。
美食を愛し、人を疑わず、誰にでも礼を尽くすその姿勢は、
いつの間にか貴族たちの心を掴み、王子たちまで惹きつけていく。
これは、
見た目はぽっちゃり、されど中身は只者ではないマシュマロ令嬢が、
無自覚のまま王宮を掌握していく、もっちり系・人たらし王宮譚。
🔶登場人物・設定は筆者の創作によるものです。
🔶不快に感じられる表現がありましたらお詫び申し上げます。
🔶誤字脱字・文の調整は、投稿後にも随時行います。
🔶今後もこの世界観で物語を続けてまいります。
🔶 エール📣いいね❤️励みになります!
ローザリンデの第二の人生
梨丸
恋愛
伯爵令嬢、ローザリンデの夫はいつも彼女より仕事を優先させ、彼女を無碍にしている。
彼には今はもういない想い人がいた。
私と結婚したことにいい思いをしていないことは知っていた。
けれど、私の命が懸かっていた時でさえも、彼の精神は変わらなかった。
あなたが愛してくれないのなら、私は勝手に幸せになります。
吹っ切れたローザリンデは自分自身の幸せのために動くことにした。
※投稿してから、誤字脱字などの修正やわかりにくい部分の補足をすることがあります。(話の筋は変わらないのでご安心ください。)
1/10 HOTランキング1位、小説、恋愛3位ありがとうございます。
婚約破棄で悪役令嬢を辞めたので、今日から素で生きます。
黒猫かの
恋愛
「エリー・オルブライト! 貴様との婚約を破棄する!」
豪華絢爛な夜会で、ウィルフレッド王子から突きつけられた非情な宣告。
しかし、公爵令嬢エリーの心境は……「よっしゃあ! やっと喋れるわ!!」だった。
遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。
沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。
すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。
だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。
イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。
変わり果てた現実を前に、
夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。
深い後悔と悲しみに苛まれながら、
失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。
しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。
贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。
そして、母の心を知っていく子供たち。
イネスが求める愛とは、
そして、幸せとは――。
《完結》金貨5000枚で売られた王太子妃
ぜらちん黒糖
恋愛
「愛している。必ず迎えに行くから待っていてくれ」
甘い言葉を信じて、隣国へ「人質」となった王太子妃イザベラ。
旅立ちの前の晩、二人は愛し合い、イザベラのお腹には新しい命が宿った。すぐに夫に知らせた イザベラだったが、夫から届いた返信は、信じられない内容だった。
「それは本当に私の子供なのか?」
学園では婚約者に冷遇されていますが、有能なので全く気になりません。〜学園でお山の大将されてても、王宮では私の方が有能ですから〜
織り子
恋愛
王都カラディナにある国立魔術学園では、満十六歳の生徒たちの社交界デビューを兼ねた盛大なパーティーが開かれていた。
侯爵令嬢タレイア・オルトランは、婚約者である第二王子アスラン・オグセリアの迎えを待つも、結局ひとりで会場へ向かうことになる。
学園では身分の差がないとはいえ、アスランが公然とタレイアを侮辱し続けてきたことで、彼女は生徒たちから冷笑と蔑視の的となっていた。しかしタレイアは、王城で政務を担ってきた聡明さと矜持を失わず、毅然と振る舞う。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる