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察しのいいセシリア
「私にとってお義母様は恩人ですが、邸の者達は初手で敵意を見せた反逆者です。どちらの味方になるか、どちらを沈めるかは言わずもがな……でしょう?」
「沈めるってなに!? そんなことは望んでいないわよ!」
“沈める”と聞いたイザベラはすぐに“床に”という単語を連想してしまった。
あの日、女主人となったセシリアに反抗的な態度をとった家令にそうしたように……。
「まあ……お義母様は本当にお優しい。無礼な態度の使用人や当主など痛みで躾けてしまえばいいものを……」
「そういうやり方は好きじゃないの……。……ん? 今、当主もって言ったかしら……?」
「ええ、結婚式の夜に花嫁を放置して元婚約者を優先するような歪んだ優先順位の駄目男を矯正するには、それしかないのかと……」
「大分エリオットに対して不満が溜まっているのね……無理もないけど」
「私のことはいいのです。それよりお義母様の話に戻りましょう。察するに、邸のゴミ共から無下に扱われてきたお義母様は、私が嫁いできたことで貴女に敵意を向ける人間がまた一人増えるのでは、と怯えてしまったのですね? それで自棄になってしまい、あのような態度をとってしまったと」
「怖いくらい察しがいいわね!?」
「あ、違いましたか?」
「いや……あっているわ。怖い程にね。……そうよ、やんごとなきご令嬢にとって亡き先代を誘惑し地位を得た若い後妻など、ただただ目障りな存在だろうと思ったの。でも、今思えばそれはただの被害妄想よね、恥ずかしいし貴女に申し訳なかったわ……」
自分の思い込みだったと、イザベラは恥じ入るように視線を落とした。
「いいえ、そういう扱いを受けていたなら自分の心を守るためにあのような態度をとったとしても致し方ないかと。ほら、子猫も己の身を守ろうと見知らぬ人間を威嚇しますし」
「その例えを持ってくる必要ある!? ……とにかく、申し訳なかったわ。初対面で失礼な態度をとってしまって……」
「いえ、これっぽっちも気にしていないので大丈夫ですよ。それに私を“やんごとなき令嬢”だなんて買いかぶり過ぎですわ」
「何を言っているの。王家に仕える騎士を輩出する侯爵家のご令嬢は十分やんごとないと言えるでしょう?」
「そうですかね……。どちらかといえば我が家は高位貴族とは名ばかり脳筋一族と言われておりますし、やんごとないとは無縁の家かと」
「すごい言われようね!?」
それでもあながち間違いとは思えない。現に目の前の少女は細い身体の何処にそんな力を秘めているのかと疑うほどの怪力の持ち主だ。そして大体を力で解決しようとする。
「話を戻しますが、お義母様が邸に留まるのは理由がございますよね? 公爵様のお話では、本来お義母様に渡るはずだった先代様の遺産をエリオット様が奪ってしまった──そのせいで貴女はここを離れることができなかったのだと。そう聞いております」
「……ガーネット公爵が貴女にそんな話を?」
なぜ公爵がセシリアに過去の遺産相続について話をしているのか、イザベラにはその意図がまるで掴めなかった。彼女にとって公爵は亡き夫の兄──それ以上でも以下でもない存在だ。そんな彼が自分を庇うようなことを言うなんて、考えたこともなかった。
「ええ。公爵様はお義母様を案じておられましたよ。エリオット様が遺産を奪うようなさもしい真似をしなければ、今頃貴女は海辺でのんびり暮らしていただろうと。ここから察するに、先代様は自分亡き後貴女が不自由なく暮らせるようにと海辺に別荘を用意しておられたということでしょうか?」
「本当に察しがよすぎるわね……。何なの、その心を見透かすような勘の鋭さは……」
貴族家の夫人を止めて探偵にでもなったほうがいいのではないかと思うほどのセシリアの優れた洞察力に、イザベラは心の中を覗き込まれたような心地がした。
「沈めるってなに!? そんなことは望んでいないわよ!」
“沈める”と聞いたイザベラはすぐに“床に”という単語を連想してしまった。
あの日、女主人となったセシリアに反抗的な態度をとった家令にそうしたように……。
「まあ……お義母様は本当にお優しい。無礼な態度の使用人や当主など痛みで躾けてしまえばいいものを……」
「そういうやり方は好きじゃないの……。……ん? 今、当主もって言ったかしら……?」
「ええ、結婚式の夜に花嫁を放置して元婚約者を優先するような歪んだ優先順位の駄目男を矯正するには、それしかないのかと……」
「大分エリオットに対して不満が溜まっているのね……無理もないけど」
「私のことはいいのです。それよりお義母様の話に戻りましょう。察するに、邸のゴミ共から無下に扱われてきたお義母様は、私が嫁いできたことで貴女に敵意を向ける人間がまた一人増えるのでは、と怯えてしまったのですね? それで自棄になってしまい、あのような態度をとってしまったと」
「怖いくらい察しがいいわね!?」
「あ、違いましたか?」
「いや……あっているわ。怖い程にね。……そうよ、やんごとなきご令嬢にとって亡き先代を誘惑し地位を得た若い後妻など、ただただ目障りな存在だろうと思ったの。でも、今思えばそれはただの被害妄想よね、恥ずかしいし貴女に申し訳なかったわ……」
自分の思い込みだったと、イザベラは恥じ入るように視線を落とした。
「いいえ、そういう扱いを受けていたなら自分の心を守るためにあのような態度をとったとしても致し方ないかと。ほら、子猫も己の身を守ろうと見知らぬ人間を威嚇しますし」
「その例えを持ってくる必要ある!? ……とにかく、申し訳なかったわ。初対面で失礼な態度をとってしまって……」
「いえ、これっぽっちも気にしていないので大丈夫ですよ。それに私を“やんごとなき令嬢”だなんて買いかぶり過ぎですわ」
「何を言っているの。王家に仕える騎士を輩出する侯爵家のご令嬢は十分やんごとないと言えるでしょう?」
「そうですかね……。どちらかといえば我が家は高位貴族とは名ばかり脳筋一族と言われておりますし、やんごとないとは無縁の家かと」
「すごい言われようね!?」
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「ええ。公爵様はお義母様を案じておられましたよ。エリオット様が遺産を奪うようなさもしい真似をしなければ、今頃貴女は海辺でのんびり暮らしていただろうと。ここから察するに、先代様は自分亡き後貴女が不自由なく暮らせるようにと海辺に別荘を用意しておられたということでしょうか?」
「本当に察しがよすぎるわね……。何なの、その心を見透かすような勘の鋭さは……」
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