初夜に訪れたのは夫ではなくお義母様でした

わらびもち

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未練も興味もないのね

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 その夜、ガーネット侯爵家の本邸の食堂でセシリアとエリオットは向かい合って食事をしていた。
豪奢なテーブルにはスパイスが香る鴨のローストや白い皿に美しく盛られた野菜のグリルが載っている。両者ともナイフとフォークをきっちりと正しい角度で持ちながら沈黙の中で食事を進めていた。
 セシリアの視線は皿の上から決して動かない。彼女の様子からは会話をする気など微塵も感じられず、冷たい拒絶の空気が漂っていた。
 向かいに座るエリオットは銀のフォークを手にしたまま、ちらりと妻をうかがう。口を開くべきか、開かざるべきか。迷いが、そのまま表情に浮かんでいた。

「……その、セシリア、色々すまなかった……」

 低く控えめな声。それは謝罪というより、空気をほぐすための小手先の言葉だった。
 それに対してセシリアは気のない声で「はあ……」とだけ答える。

 再び訪れる沈黙。ナイフが肉を切る音が微かに響き、それにかぶさるようにワイングラスがテーブルに置かれる音が続いた。

「キャサリンに未練があるわけじゃない。それは信じて欲しい。ただ、彼女が自ら命を絶ってしまったらどうしようと心配になっただけなんだ」

 未練はないと言いながら元婚約者を気遣うエリオットの矛盾した言葉に、その場の使用人たちは冷ややかな視線を向けた。彼の戯言にもセシリアだけは表情ひとつ変えず「そういえば……」と静かに口を開いた。

「昼間、キャサリン様が邸にお見えになりましたよ」

「えっ…………!!?」

 驚いて、エリオットは手に持っていたフォークを床に落としてしまった。
 金属が硬い大理石の床に当たる「カツン」という鋭い音が部屋中に響き渡る。

「どうしてキャサリンがここへ…………」

「さあ? あなたとお話がしたかったようですけど……何のお話かまでは聞いておりませんわ」

「僕と話って……ここに来てはいけないと、昼間、伯父上があちらへ直接忠告しに行ったばかりだぞ!」

「そうだったのですか」

 どうやらエリオットが接触しないようにと、公爵自ら元婚約者の家を訪問し、直接釘をさしたようだ。公爵という高位の相手にそこまでされたのなら、普通はもう関わろうとはしない。だが、どうもキャサリンには逆効果だったようだ。

「あの様子ですと、近いうちにまたいらっしゃるかと思いますよ」

「そんな……それは困る! だって、そんなことをしたら……」

 何かを訴えかけるようにチラチラとこちらを見てくる夫にセシリアは若干の殺意を覚えた。鬱陶しい、と思わず口にしかけそうになるのを必死に飲み込む。

「とにかく、接触したくないようでしたらご自分でどうにかしてください。私にはどうすることもできませんので」

 キャサリンを二度と邸に寄せつけないなど、セシリアにとっては造作もない。
 だが、彼女にその気は微塵もなかった。むしろ早く接触してくれればいいとすら思う。

「どうにかと言われても……接触しては駄目なのだろう? だったらどうすれば……」

 情けない声を出すエリオットにセシリアの殺意がますます募る。
 よくそんなことを聞けるものだと呆れてしまう。

「別に直接どうにかしなくとも、人を使えばよろしいのではなくて? 公爵様があなたに代わってあちらの家へ抗議されたように、誰か代理を立てれば済む話でしょう」

 助言を名案と思ったのか、ぱあっと顔を輝かせるエリオットをセシリアは冷めた視線で見ていた。
 それをすれば、おそらくキャサリンは再びこの邸に訪れるだろうことを彼はちっとも分かっていない。

 セシリアの目にはキャサリンが何よりも感情を優先する人物に映った。
 公爵の意向に逆らうことより、自分の望みが通らないことのほうを嫌う。
 だから、エリオットに少しでも拒絶されたと感じれば、懲りもせずまたこの邸を訪ねてくるに違いない。

 一目会っただけのセシリアでも分かることなのに、長年の付き合いがあるエリオットが何故分からないのか不思議だ。もしかすると、彼の元婚約者への興味はその程度なのかもしれない。
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