初夜に訪れたのは夫ではなくお義母様でした

わらびもち

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恨みは忘れていない

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「あのように情緒が不安定で、考え無しに人の邸に突撃するようなイノシシ娘の言動をお義母様が気にする必要はありませんよ。イノシシの専門家でもないのですから」

「イノシシ!? ええ……エリオットの元婚約者ってそういうお嬢さんなの?」

「ええ、つい先程会ったというか……いきなり突撃してきました。淑女としての礼儀も品位もない、感情のままに行動するイノシシのような女性でしたね。エリオット様はあれの何がよくて婚約したのか……趣味が悪うございますわ。お義母様はお会いしたことないのですか?」

「実は一度も無いのよ。どこのお嬢さんなのかも知らないし、顔も見たことがないの」

 義理とはいえイザベラはエリオットの母にあたる存在。
 それなのに婚約者を紹介していないという状況に、エリオットがいかにイザベラを軽んじているかが分かる。年の離れていない義理の母子という関係性に複雑な思いがあるのかもしれないが、セシリアにそれを慮る気はない。初手でこちらに配慮ゼロだった相手にこちらが配慮する義理などこれっぽっちもない。

「……ふむ、ということはイノシシ娘は会ったこともないお義母様を嫌がったと……。それは無礼にも程がありますね。そんな獣とは二度と関わり合いにならない方がよろしいでしょう。ということで、お義母様が本来受け取るはずだった別荘を取り返しましょう。そしてそこに移り住んだ方がよろしいかと」

「え? え……? なんでそんな話になるの……?」

 セシリアが元婚約者のことを“イノシシ娘”と呼称するようになったことも驚きだが、そこから別荘の話まで飛躍する方が驚きだ。意味が分からない。

「だって、多分高確率でエリオット様はイノシシ娘とやり直しますよ? そうしたら今度はお義母様がエリオット様から着の身着のまま邸から追い出される可能性も高い。理由は知りませんが、イノシシ娘はお義母様に出て行ってほしいと思っているのでしょう? そうならないうちにさっさと住む場所を貰って、移り住んだ方がよろしいかと」

「え、え……ちょっとまって、エリオットが元婚約者とやり直す……? いくらなんでもそれはないでしょう……」

「おや、どうしてそう思われるので?」

「だって、そんなことすれば貴女とは離婚になるのよね? 加えてガーネット公爵からの支援も受けられなくなる。エリオットにとって不利益なことばかりじゃない。そんな状況で元婚約者とやり直す利益なんてある?」

「ないでしょうね。愛しているというわけでもなさそうですし、そうなると何一つ利益はありません」

 驚いた様子のイザベラに対し、セシリアは「ですが……」と話を続ける。

「悪い意味で損得を考えず、その時々で強い意見に流される風見鶏のエリオット様はそう遠くないうちに必ず元婚約者と接触します。なんでしたら実家の全財産を賭けてもいいくらいです」

 勝手に実家の財産を賭けでは駄目でしょう、という指摘すら頭に浮かばないほどイザベラは呆気にとられてしまった。
 そこまでの交流は無かったとはいえ、エリオットのことは他人の意見に流されやすい子だとは思っていたのは確かだ。しかし、まさかそれほど筋の通らない、愚かな行動をとる人物だと思われているとは……。

 ここでイザベラは唐突に思い出した。そうだ、エリオットは結婚式の初夜で花嫁を放置するという非常識で配慮に欠けた愚かな行動を実際にしたではないか。
 そういうことを平気でする人間なら、常人では考えられないような行動に出てもおかしくない。

「エリオット様との交渉に自信がないようでしたら、わたくしがお義母様に弁護士をつけることも出来ます。いつでもおっしゃってください」

「セシリア……貴女は、どうしてそこまでしてくれるの?」

 唖然とした表情でイザベラが問いかけると、セシリアはフッと笑った。

「あの夜、お義母様が私に救いの手を差し伸べてくださったように、私もお義母様を救いたいと思っているからですよ。それと、エリオット様のことが嫌いだからです。あの夜の恨みを忘れていませんし、報いを受けさせてやりたいという思いは未だにありますから」

 凄絶なほど凶悪な表情で嗤うセシリアを前に、イザベラはエリオットがとんでもない相手を敵に回したのだと悟った。
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