初夜に訪れたのは夫ではなくお義母様でした

わらびもち

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エリオットの主義

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「ロベール、二人はまだ一線を越えていないの?」

「はい……実はそうなのです。キャサリンお嬢様にその覚悟はあるのですが……エリオット様は婚前にそういうことをする気はないようでして……」

「……なんてことなの。まさか、そんなところで貞操観念が固いなんて思わなかったわ」

 あれからしばらく経ち、中々二人が一線を越えたという報告が来ないのでセシリアはやきもきしていた。
 当初はエリオットがすぐにキャサリンに手を出すと思っていたのだが、意外にも、彼は婚前交渉には応じない主義らしい。妻のことは平気で寝込みを襲おうとしたくせに、なんとも解せない。

 セシリアを襲おうとした前科があるから、性欲がないというわけではないはずだ。
 いくら婚前交渉に応じない主義だとしても、あの風見鶏のようにころころ意見を変えるエリオットのことだ、何らかのキッカケさえあればキャサリンに手を出すはず。

「いっそ媚薬のひとつでも仕込んでみたらどうかしら? それなら否応なしに関係を結ぶと思うのだけれど」

「いえ、奥様。それをすれば、エリオット様は冷静さを失い、理性を捨てた獣のようになってしまうでしょう。そうなればおそらくキャサリンお嬢様は怖がって逃げ出すかもしれません。それでは本末転倒かと」

 ロベールの発言を聞き、セシリアはそれもあり得るかもしれないと思った。
 夢見がちな性格をしてそうなキャサリンが思い描く好きな人との初夜は、きっと甘く優しいものなのかもしれない。いくら好いた相手とはいえ、理性を失くした獣の姿を見れば恋心よりも恐怖心が勝る可能性は十分にある。

「まったく、随分と繊細なご令嬢だこと……」

「あの……お言葉ですが、大半のご令嬢はそうだと思いますよ? 荒事などとは無縁ですし、周囲におります貴公子は当然のように紳士的ですから……」

「そうなの……?」

 自分の考え方の方が少数派だと知らされてセシリアは目を丸くした。
 考えてみれば、荒々しい騎士に囲まれ育ってきた自分が特殊なのかもしれない。
 大半の令嬢は荒事とは無縁であり、エリオットのように中身はどうあれ表向きは紳士的な貴公子にとしか接したことのないことが普通であるはず。

「でも……そうなると、どうしたらいいのかしら? 期限は半年しかないの。半年間エリオット様がキャサリン様と接触しなければ、私達は正式な夫婦となってしまうのよ。そうなればもう離婚は難しいわ。公爵様がきっと許してくださらないもの」

 一度正式な夫婦となれば、たとえキャサリンとの関係がどれほど深まろうとも、妻の座はセシリアのものであり続けるだろう。たとえ本人がそれを望まなくとも。

「わたしめにお任せください。いくつか案がございますので、それを試してみようと思います」

「案、ね……。それはいったいどういうもの?」

「はい、それは……」

 ロベールの口から語られたその案に、セシリアは思わず顔をしかめた。
 それというのも、あまりにも荒唐無稽で無理があるからだ。

「いや……それは、大丈夫なの……?」

 セシリアの不安げな表情を見て、ロベールは拳を胸に当て、「必ずやお任せください」と力強く言い切った。
 そこまで自信満々な態度を取られては、それ以上は何も言えず、ひとまず任せることにした。
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