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反応
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(呆気ないわね。でも、考えてみれば当然だわ。いち使用人が王女に無礼を働くこと自体がおかしいもの……)
時戻り前、さも当然のようにジュリアーナを別邸へと閉じ込めたあの執事。
あの時はマーサ以外誰も味方がいなかったからあのような行動に出たのかと思ったのだが、護衛に囲まれた今の状況でも無礼を働こうとした。
どう考えても頭がおかしい。使用人が王族に無礼を働けば死罪も有り得るというのに、進んであのような行動に出るなど普通は考えられない。よほど頭が足りないのか、王族よりもダニエルの方が偉いと盛大な勘違いをしているのか。多分両方だろう。
使用人のしたことは主の責任になるのでオーガスタ家自体を処罰することも可能だが、罰したいのはダニエルでオーガスタ家ではない。だから家に責を問う事はしない、と言えば察しの良いラティーシャ夫人ならこの件を処理してくれるはすだ。多分あの執事は重い罰をうけるだろうが、可哀想だとは少しも思わない。
王族を害そうとするなら命を懸けるくらいの覚悟を持ってもらわねば。
おそらくそんな覚悟もないまま、何かを失う覚悟もないまま、愚か者達は王女を害そうとした。実に馬鹿馬鹿しい。
先のことが考えられない頭の足りない輩の集まりなのだろう。
ダニエルも、アニーも、ダニエルに迎合する執事たちも。そして……時戻り前の自分も。
「………………………………」
忌まわしい思い出が蘇り吐き気がする。
大嫌いだ。愚かで頭が弱いダニエルも、自分も。
鬱々とした気分のままジュリアーナは持参した荷物の中から古びた手鏡を取り出す。
鏡面部分にそっと手を振れると、まるで水面に広がる波のように揺らめきだした。
「こんばんは、姫君。呼んでくれて嬉しいよ」
鏡から煙のようなモヤが立ち込め、それが人の形を作り出す。
そこから声が聞こえたと思った瞬間、人ならざる美貌の青年魔女が姿を現した。
「こんばんは、魔女様。急にお呼び立てして申し訳ございません」
「いいって、僕も会いたかったからね」
青年は愛おしそうにジュリアーナを抱きしめ、髪に口づけを落とした。
「あれ? いつもと香りが違うね」
「ええ、王宮で使用している香油とは違う物を使いましたので」
先程湯浴みを済ませた時にラティーシャ夫人が用意してくれた香油を使用したので、いつもと髪の香りが違うのかもしれない。なんてことなくそう言うと青年はあからさまに不機嫌な顔を見せた。
「ふーん……なんか、嫌だな……」
青年が嫌がる意味が分からずジュリアーナは不思議そうな顔をした。
すると大きな手を頬にあてられ、そのまま唇を重ねられる。
「ん…………」
青年がこうしてくるのは今日が初めてではない。
何がきっかけになっているかは分からないが、時折彼はこうやってジュリアーナの唇を奪う。そして、それを嫌がることもせず、また恥ずかしがることもせずジュリアーナは黙って受け入れていた。
ひとしきりそうして満足したのか青年はジュリアーナと重ねていた唇を離し、また抱き締める。長かったせいか体が酸素を求めて呼吸を荒くした。
「姫君の吐息、煽情的だね……」
「そう、ですか……?」
お気に召したようで何よりです、と言うと青年はまた不満そうな顔に戻る。
「もっとこう、反応が欲しい……」
「反応? すみませんがそれは難しいかと……」
多分青年が求めているのは無垢な乙女の反応なのだろう。時戻り前の自分ならばそういう反応も出来ただろうが、心を壊した今はそれも無理な話だ。
あの頃の自分ならば美しい殿方からこのような行為をされたら頬を赤らめて恥ずかしがったことだろう。でも、今は心自体が機能していないので出来ない。
時戻り前、さも当然のようにジュリアーナを別邸へと閉じ込めたあの執事。
あの時はマーサ以外誰も味方がいなかったからあのような行動に出たのかと思ったのだが、護衛に囲まれた今の状況でも無礼を働こうとした。
どう考えても頭がおかしい。使用人が王族に無礼を働けば死罪も有り得るというのに、進んであのような行動に出るなど普通は考えられない。よほど頭が足りないのか、王族よりもダニエルの方が偉いと盛大な勘違いをしているのか。多分両方だろう。
使用人のしたことは主の責任になるのでオーガスタ家自体を処罰することも可能だが、罰したいのはダニエルでオーガスタ家ではない。だから家に責を問う事はしない、と言えば察しの良いラティーシャ夫人ならこの件を処理してくれるはすだ。多分あの執事は重い罰をうけるだろうが、可哀想だとは少しも思わない。
王族を害そうとするなら命を懸けるくらいの覚悟を持ってもらわねば。
おそらくそんな覚悟もないまま、何かを失う覚悟もないまま、愚か者達は王女を害そうとした。実に馬鹿馬鹿しい。
先のことが考えられない頭の足りない輩の集まりなのだろう。
ダニエルも、アニーも、ダニエルに迎合する執事たちも。そして……時戻り前の自分も。
「………………………………」
忌まわしい思い出が蘇り吐き気がする。
大嫌いだ。愚かで頭が弱いダニエルも、自分も。
鬱々とした気分のままジュリアーナは持参した荷物の中から古びた手鏡を取り出す。
鏡面部分にそっと手を振れると、まるで水面に広がる波のように揺らめきだした。
「こんばんは、姫君。呼んでくれて嬉しいよ」
鏡から煙のようなモヤが立ち込め、それが人の形を作り出す。
そこから声が聞こえたと思った瞬間、人ならざる美貌の青年魔女が姿を現した。
「こんばんは、魔女様。急にお呼び立てして申し訳ございません」
「いいって、僕も会いたかったからね」
青年は愛おしそうにジュリアーナを抱きしめ、髪に口づけを落とした。
「あれ? いつもと香りが違うね」
「ええ、王宮で使用している香油とは違う物を使いましたので」
先程湯浴みを済ませた時にラティーシャ夫人が用意してくれた香油を使用したので、いつもと髪の香りが違うのかもしれない。なんてことなくそう言うと青年はあからさまに不機嫌な顔を見せた。
「ふーん……なんか、嫌だな……」
青年が嫌がる意味が分からずジュリアーナは不思議そうな顔をした。
すると大きな手を頬にあてられ、そのまま唇を重ねられる。
「ん…………」
青年がこうしてくるのは今日が初めてではない。
何がきっかけになっているかは分からないが、時折彼はこうやってジュリアーナの唇を奪う。そして、それを嫌がることもせず、また恥ずかしがることもせずジュリアーナは黙って受け入れていた。
ひとしきりそうして満足したのか青年はジュリアーナと重ねていた唇を離し、また抱き締める。長かったせいか体が酸素を求めて呼吸を荒くした。
「姫君の吐息、煽情的だね……」
「そう、ですか……?」
お気に召したようで何よりです、と言うと青年はまた不満そうな顔に戻る。
「もっとこう、反応が欲しい……」
「反応? すみませんがそれは難しいかと……」
多分青年が求めているのは無垢な乙女の反応なのだろう。時戻り前の自分ならばそういう反応も出来ただろうが、心を壊した今はそれも無理な話だ。
あの頃の自分ならば美しい殿方からこのような行為をされたら頬を赤らめて恥ずかしがったことだろう。でも、今は心自体が機能していないので出来ない。
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