やりなおしジュリアーナ姫の復讐劇

わらびもち

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処罰

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「お前はどういうつもりであんな真似をしたの! オーガスタ家を潰すつもり!?」

 ラティーシャ夫人は自分が滞在する部屋に使用人を全員集め、彼等の目の前で王女に無礼を働いた執事を責め立てた。執事は夫人が生家より連れてきた騎士によって囚人のように縄をかけられている。

「王族の御前で頭を下げることなど常識でしょう? 子供でも分かるわよ! それともお前は王族よりも立場が上だとでも言うつもり?」

 夫人が激高する様は使用人達全員を震わせるほど凄まじかった。
 華奢な貴婦人のどこにこんな迫力が備わっているのかと驚くほど怖い。
 ジュリアーナには高圧的だった執事も夫人の迫力に恐れおののいて上手く話せない。

「あ、あの……私は、旦那様とアニー様の為に……」

「お前は自分が何を言っているか分かっているの!? 平民の愛人の為に王女殿下に暴言を吐くつもりだったというわけ? やっていい事と悪い事の区別もつかないの!」

「ひいっ……!? す、すみません……」

「謝って済む問題じゃないわよ! 王族の方相手に喧嘩を売るなんて正気とは思えないわ! この家を潰すつもりなの? 建国当初から続いた歴史あるオーガスタ家をお前の愚行一つで潰すなど許されると思って?」

「いえ……そんな、家を潰すなんて……! そんなつもりはありません……!」

「そんなつもりがなくともお前がした行為はそういうことなのよ! お前も貴族よね? なんでそれくらいのことが分からないの? ふざけないで!」

 夫人は手に持つ扇子を勢いよく振り下ろし執事の頭を打つ。
 痛みで蹲る執事を恐ろしい程の形相で睨みつける様に見ていた者は震えあがった。

「そもそも愛人と主人の仲を応援して何になるというの? お前達はそれで何の恩恵を受けられるというの? 答えなさい!」

 打ったことにより先の方が欠けてしまった扇子を執事の顎へと当て、顔を持ち上げる。
 その際、欠けた扇子の先が刺さりそこからうっすらと血が滲んだ。

「恩恵などと……そのような低俗な考えは持ち合わせておりません。私はただ、が幸せであればそれで……」

「馬鹿なの? お前の愚かな行動一つでそのの立場が危険に晒されるのよ? お前はオーガスタ辺境伯位がどなたから授けられたか理解していて?」

「え…………ど、どなた、とは……」

「国王陛下よ。我々貴族は皆陛下より爵位と領地を与えられているの。つまり陛下のお心ひとつでそれらを取り上げられる可能性もあるということよ。で、お前が無礼を働いたジュリアーナ王女殿下は?」

 理解していない様子の執事に夫人はよく通る声で囁いた。
 それは目の前の男だけではなく、愚かにも当主と愛人の恋を応援する不心得者に向けて忠告しているのだろう。傍観者の中には顔を真っ青にしている者が伺える。

「こ、国王陛下のご息女です……」

「そうね、その通りよ。で? お前が愛人と坊ちゃまの為とかいうくだらない理由で何一つ罪の無い王女殿下に暴言を吐こうとしたのは誰?」

「わ……私、です……」

「そうよ! この、愚か者が……! いいこと? 使用人の失態の責任は一時的とはいえ女主人の役割を担うわたくしにあります。ですが、この邸で起きたことは当主の責任。お前が大切に想うダニエル卿も責任をとらねばなりません。貴族籍を剥奪され平民落ち、なんてことも十分有り得ますね……」

 低く、地を這うような声で言い聞かせると執事はここでようやく自分のしでかしたことを自覚した。己の主の命運を握る君主の娘に対してなんてことをしてしまったのかと。

「あ、あ……私は、なんてことを……」

「今更反省したところで遅いわ。寛大にも王女殿下はとおっしゃってくださいました。お優しく慈悲深い王女殿下に感謝なさい。本来でしたらこの家や当主にも累が及ぶほどのことですよ?」

 ダニエルが責任を取らなくてもよいと知った執事は安堵の表情を見せた。
 しかし、夫人の口から放たれた宣告に一瞬で絶望に落とされる。

「お前は斬首刑に処します。これより刑を執行する日まで牢屋で己の罪を神に懺悔なさい」

「なっ……!? そんな! それはあまりにも酷すぎます! ちょっと暴言を吐こうと舌だけではありませんか!?」

「……はあ、まだ分からないの? 王族に盾突いたお前に甘い処分を下せばオーガスタ家が王家に対して叛意有りと疑われるのよ。お前のせいで痛くもない腹を探られ、最悪はオーガスタ家一族全員が反逆罪に問われる可能性もある。わたくしはオーガスタ子爵夫人よ。オーガスタ家を守る義務があるの」

 夫人の言葉に執事はそこで初めて自分が貴族の在り方を甘く見ていたことを自覚する。
 家門を守る為なら使用人一人くらい簡単に切り捨てる。これこそ貴族の正しい在り方だと知っていたはずなのに……何故忘れていたのか。

 連れて行きなさい、と命じると騎士が恭しく一礼して執事の腕を乱暴に掴みあげる。

「痛い! 離せ! 夫人、どうかご慈悲を……!」

泣き喚く執事に目を向けることなく夫人は折れた扇子を専属侍女へと渡した。

「これは処分してちょうだい」

「はい、奥様」

 淡々としたやり取りをオーガスタ家の使用人達は血の気が引く思いで見ていた。
 当主が平民を寵愛し王女を蔑ろにするという貴族らしからぬ言動ばかりしていたせいで失念していたが、本来これが正しい貴族の在り方だ。

 貴族にとって使用人の命など砂粒の価値も無い。
 ましてや王家に盾突いて家の名に泥を塗ろうとした愚かな使用人など処分されて当然なのだ。

 忘れていた貴族の恐ろしさを思い出し、身に覚えのある数人は小刻みに震えだした。
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