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愚か者に制裁を(アリスティアの父視点)②
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「だから言ったでしょう父上、ロビンをきつく罰するべきだと。あいつは『アリスティアの色香が増して我慢できなかった』などというふざけた言い訳しかしない。悍ましい欲を隠しもしない、ただの性犯罪者だ。一生地下牢に押し込んでいて然るべきだと」
エリックの息子、ペッパー伯爵家嫡男のロバートが自分の父親に蔑んだ視線を送る。
謝罪に本人ではなく嫡男を連れてきたことは訝しんだが、なるほど父親よりも道理を弁えているな。
「性犯罪者なんて……お前、自分の弟にそんな……」
「陛下の寵姫となるアリスティアを襲おうとした罪人と血がつながっていると考えるだけで悍ましい。陛下のモノに手出ししようとした時点で反逆の意志ありと捉えられますよ。ロビンがペッパー伯爵家を潰そうとしたと、父上はまだお解りでない?」
エリック、お前分かっていなかったのか?
駄目な奴だ。
亡くなった妻の両親が「出来ることなら息子でなく娘に家を継いでほしかった」と愚痴をこぼしていた気持ちがよく分かる。
「だが、未遂だったわけだし……」
「ええ、これが未遂でなかったらペッパー伯爵家は取り潰し。ロビンは処刑ですね。……伯父上、愚弟が誠に申し訳ございませんでした。アリスティアにも取り返しがつかないほど怖い想いをさせてしまい、申し訳ない。私も含め当家はどのような処分も受け入れます」
出来た嫡男だ。
リチャードもこれくらいの心構えがあればよかったのだがな。
「……そうだな、ならばエリック、すぐにでも当主の座をロバートに渡せ。それからロビンは知人の五十を過ぎた未亡人に婿入りさせる。それもすぐにだ」
「なっ……! そこまでしなくても「性犯罪を犯したロビンが婿になってその未亡人は大丈夫ですか?」」
エリックの言葉を遮りロバートが私にそう聞いてきた。
話が早い。父親に似なくてよかったな。
「ああ、構わん。相手は大農園の主で女性といえども腕っぷしがロビンよりも強い。亡くなった夫との間にすでに子供が10人もいる。末の子も嫁いでいったからそろそろ隠居し、新しい夫と余生を楽しみたいと言っている。結婚したらロビンはその地から出さないと約束してくれたしな」
先方は若い男が好きだからな。二つ返事で引き受けてくれた。
「なんと……性犯罪を犯した男を引き取ってくださるなんて、まるで女神のような女性だ! 父上、こんないい話はありません。とっとと縁組を進めてください。 まさか断るなんてしませんよね? 王家に知られるより先に愚弟を処分しておかないと、どんなお咎めを受けるか分かったもんじゃないですよ? 爵位剥奪くらいは覚悟してくださいね……」
息子に凄まれてエリックは小さく悲鳴を上げた。
本当に情けないなこいつ。
アリスティアに無体を働いたロビンの奴は出来れば処刑してやりたいが、それをすると他の貴族に今回のことを知られてしまう。
せっかくアイリーンが気を利かせて誰の目にも触れぬよう庭を通って馬車まで行ってくれたというのに。
しかしアイリーンがいてくれて本当によかった。
聞けば姿が見えないアリスティアを探すようリチャードに言ったのも彼女だという。
彼女がいなければアリスティアはあの場で汚され、もう陛下の公妾にはなれぬところだった。
今も王家の出方次第ではどうなるか分からないが……。
「わ、分かった……。すぐにロビンはそちらに婿入りさせる。当主の座もロバートに譲る。そうすれば爵位は剥奪されないだろうか……?」
「おそらくな。伯爵家の次男坊が婿入りしたくらいじゃ社交界は騒がないが、伯爵家自体が取り潰されては皆その原因を探ろうとする。そうしたら此度の件も知られ、アリスティアの名誉は失墜するだろう。陛下は思慮深く、それにアリスティアを大切に想ってらっしゃるから表立って伯爵家に責は問わぬだろうよ」
「そ、そうか……よかった」
お前はよくてもこっちは何もよくないんだがな。
お前の愚息のせいでアリスティアが目を覚まさないんだぞ?
「分かったらさっさと帰って爵位譲渡の手続きでも進めることだ。婿入りの書類はこちらで揃えて伯爵家に持っていってやる。それと今後はそちらとの交流は最低限控えさせてもらう。断絶すれば周囲に勘繰られるから最低限は付き合ってやる」
エリックは萎れた様子で力なく返事をしたが、ロバートは深々と礼を返した。
もうこの時点で器が違うな。
兄は優秀だが弟は愚かだな。
ロバートは父親に似なくてよかったな。
あとはアリスティアが目を覚ましてくれるのを待つばかり。
心に傷を負った娘に追い打ちをかけるようなことを言ってしまった。
だが、陛下の公妾となるにはそれくらいの心構えを持たねば務まらないんだ……。
エリックの息子、ペッパー伯爵家嫡男のロバートが自分の父親に蔑んだ視線を送る。
謝罪に本人ではなく嫡男を連れてきたことは訝しんだが、なるほど父親よりも道理を弁えているな。
「性犯罪者なんて……お前、自分の弟にそんな……」
「陛下の寵姫となるアリスティアを襲おうとした罪人と血がつながっていると考えるだけで悍ましい。陛下のモノに手出ししようとした時点で反逆の意志ありと捉えられますよ。ロビンがペッパー伯爵家を潰そうとしたと、父上はまだお解りでない?」
エリック、お前分かっていなかったのか?
駄目な奴だ。
亡くなった妻の両親が「出来ることなら息子でなく娘に家を継いでほしかった」と愚痴をこぼしていた気持ちがよく分かる。
「だが、未遂だったわけだし……」
「ええ、これが未遂でなかったらペッパー伯爵家は取り潰し。ロビンは処刑ですね。……伯父上、愚弟が誠に申し訳ございませんでした。アリスティアにも取り返しがつかないほど怖い想いをさせてしまい、申し訳ない。私も含め当家はどのような処分も受け入れます」
出来た嫡男だ。
リチャードもこれくらいの心構えがあればよかったのだがな。
「……そうだな、ならばエリック、すぐにでも当主の座をロバートに渡せ。それからロビンは知人の五十を過ぎた未亡人に婿入りさせる。それもすぐにだ」
「なっ……! そこまでしなくても「性犯罪を犯したロビンが婿になってその未亡人は大丈夫ですか?」」
エリックの言葉を遮りロバートが私にそう聞いてきた。
話が早い。父親に似なくてよかったな。
「ああ、構わん。相手は大農園の主で女性といえども腕っぷしがロビンよりも強い。亡くなった夫との間にすでに子供が10人もいる。末の子も嫁いでいったからそろそろ隠居し、新しい夫と余生を楽しみたいと言っている。結婚したらロビンはその地から出さないと約束してくれたしな」
先方は若い男が好きだからな。二つ返事で引き受けてくれた。
「なんと……性犯罪を犯した男を引き取ってくださるなんて、まるで女神のような女性だ! 父上、こんないい話はありません。とっとと縁組を進めてください。 まさか断るなんてしませんよね? 王家に知られるより先に愚弟を処分しておかないと、どんなお咎めを受けるか分かったもんじゃないですよ? 爵位剥奪くらいは覚悟してくださいね……」
息子に凄まれてエリックは小さく悲鳴を上げた。
本当に情けないなこいつ。
アリスティアに無体を働いたロビンの奴は出来れば処刑してやりたいが、それをすると他の貴族に今回のことを知られてしまう。
せっかくアイリーンが気を利かせて誰の目にも触れぬよう庭を通って馬車まで行ってくれたというのに。
しかしアイリーンがいてくれて本当によかった。
聞けば姿が見えないアリスティアを探すようリチャードに言ったのも彼女だという。
彼女がいなければアリスティアはあの場で汚され、もう陛下の公妾にはなれぬところだった。
今も王家の出方次第ではどうなるか分からないが……。
「わ、分かった……。すぐにロビンはそちらに婿入りさせる。当主の座もロバートに譲る。そうすれば爵位は剥奪されないだろうか……?」
「おそらくな。伯爵家の次男坊が婿入りしたくらいじゃ社交界は騒がないが、伯爵家自体が取り潰されては皆その原因を探ろうとする。そうしたら此度の件も知られ、アリスティアの名誉は失墜するだろう。陛下は思慮深く、それにアリスティアを大切に想ってらっしゃるから表立って伯爵家に責は問わぬだろうよ」
「そ、そうか……よかった」
お前はよくてもこっちは何もよくないんだがな。
お前の愚息のせいでアリスティアが目を覚まさないんだぞ?
「分かったらさっさと帰って爵位譲渡の手続きでも進めることだ。婿入りの書類はこちらで揃えて伯爵家に持っていってやる。それと今後はそちらとの交流は最低限控えさせてもらう。断絶すれば周囲に勘繰られるから最低限は付き合ってやる」
エリックは萎れた様子で力なく返事をしたが、ロバートは深々と礼を返した。
もうこの時点で器が違うな。
兄は優秀だが弟は愚かだな。
ロバートは父親に似なくてよかったな。
あとはアリスティアが目を覚ましてくれるのを待つばかり。
心に傷を負った娘に追い打ちをかけるようなことを言ってしまった。
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