17 / 43
彼女と最低な男
しおりを挟む
「それで話を戻すんだけど、アタシはダニエルが母さんに仕送りをしてくれていると思ってたの。だってそういう約束だったし、ちゃんと家の住所も伝えたのよ?」
「その話の流れ……もしかして伯爵は貴女のお母さんに仕送りをしてなかった、ということになるのかしら?」
「そうなのよ! 虫の知らせっていうのかしら、夢に母さんが出てきてね。その姿がひどく衰弱してて……起きたらなんだかひどい胸騒ぎがしたの。それで居ても立っても居られなくて、馬車で母さんの家まで行ったのよ。そうしたら……」
「……倒れてたの?」
「うん、そう……。ひどく衰弱しててね……。病弱なのに無理して働いて、それで体を壊しちゃったみたい。近所のおばさんに怒られたよ。『どうして一度も様子を見に来なかったんだ!?』って。本当……その通りだよね、アタシはなんで一度も家に帰らなかったんだろう、情けないよ……」
俯くマリアナにジュリエッタはどう声をかけたらいいか分からなかった。
彼女は今、自分の行いを死ぬほど後悔している。
ジュリエッタも大切な母がいるから気持ちはよく分かる。
だからこそかける言葉が何も見つからない。
「それでもさ、ダニエルが仕送りをしてくれてたら、こうはならなかったのにって恨みが湧くんだよね……。様子を見に行かなかったアタシが悪いんだけど、どうしても許せない……!」
「そんなの当然よ! 伯爵はどうして貴女のお母さんに仕送りをしなかったの!?」
あの伯爵は屑だがマリアナに対して金銭を惜しむことはしなかったはず。
その証拠に彼女が望むままに様々な贈り物を貢いでいた。
ならば彼女の母に金銭を送ることなど造作もないはずなのに。
「……あの人ね、アタシが聞いたらこう言ったのよ。『君の母親はもう亡くなっているだろう?』って……」
「はあぁん? 意味が分からないわ……!?」
亡くなっているとはどういう意味か。
マリアナの母親は病院に入院中、つまりは生きてるからこそ治療を受けているというのに。
「うん、アタシも意味が分からなかったわ。現在進行形で母さんは生きているのに何おかしなこと言ってんのよって頬を打ってやった。そしたらあいつ、オロオロしながらこう言ったのよ……。『母親とは自分を産んだ人間のことを言うのであって、育てた人間は乳母と言うんだぞ?』って」
「はあぁ? 頭おかしいんじゃないあの人? 何でそこで乳母が出てくるのよ? それに貴女がずっと“母さん”って言ってんじゃないの?」
「そうなのよ……! 何でそういう発想になったか知らないけど、アタシは母さんを“母親”だってずっと言ってんのによ!? その理屈ならアタシは“乳母に仕送りをしたい”って言わなきゃダメだったわけ?」
「いやそれもおかしいでしょ!? お母さんはお母さんであって、乳母じゃないんだし! それに乳母とも思っていないんだから! それ絶対あの伯爵がおかしいわよ! それに貴女は一言もお母さんを乳母だなんて言ってないんでしょう?」
「もちろんよ! なのにダニエルの思考がさっぱり分からないわ……。当然のように言うし、何が悪いか分からなくてキョトンとした顔するし……。怒りを通り越してもう、恐ろしいわ……」
吐き捨てるようにそう言ったマリアナの顔は嫌悪に満ちていた。
頭がおかしい男だとは思っていたがここまでとは。
やはり結婚初日に新妻に向かってお飾り宣言をするような奴はろくでもない。
「その話の流れ……もしかして伯爵は貴女のお母さんに仕送りをしてなかった、ということになるのかしら?」
「そうなのよ! 虫の知らせっていうのかしら、夢に母さんが出てきてね。その姿がひどく衰弱してて……起きたらなんだかひどい胸騒ぎがしたの。それで居ても立っても居られなくて、馬車で母さんの家まで行ったのよ。そうしたら……」
「……倒れてたの?」
「うん、そう……。ひどく衰弱しててね……。病弱なのに無理して働いて、それで体を壊しちゃったみたい。近所のおばさんに怒られたよ。『どうして一度も様子を見に来なかったんだ!?』って。本当……その通りだよね、アタシはなんで一度も家に帰らなかったんだろう、情けないよ……」
俯くマリアナにジュリエッタはどう声をかけたらいいか分からなかった。
彼女は今、自分の行いを死ぬほど後悔している。
ジュリエッタも大切な母がいるから気持ちはよく分かる。
だからこそかける言葉が何も見つからない。
「それでもさ、ダニエルが仕送りをしてくれてたら、こうはならなかったのにって恨みが湧くんだよね……。様子を見に行かなかったアタシが悪いんだけど、どうしても許せない……!」
「そんなの当然よ! 伯爵はどうして貴女のお母さんに仕送りをしなかったの!?」
あの伯爵は屑だがマリアナに対して金銭を惜しむことはしなかったはず。
その証拠に彼女が望むままに様々な贈り物を貢いでいた。
ならば彼女の母に金銭を送ることなど造作もないはずなのに。
「……あの人ね、アタシが聞いたらこう言ったのよ。『君の母親はもう亡くなっているだろう?』って……」
「はあぁん? 意味が分からないわ……!?」
亡くなっているとはどういう意味か。
マリアナの母親は病院に入院中、つまりは生きてるからこそ治療を受けているというのに。
「うん、アタシも意味が分からなかったわ。現在進行形で母さんは生きているのに何おかしなこと言ってんのよって頬を打ってやった。そしたらあいつ、オロオロしながらこう言ったのよ……。『母親とは自分を産んだ人間のことを言うのであって、育てた人間は乳母と言うんだぞ?』って」
「はあぁ? 頭おかしいんじゃないあの人? 何でそこで乳母が出てくるのよ? それに貴女がずっと“母さん”って言ってんじゃないの?」
「そうなのよ……! 何でそういう発想になったか知らないけど、アタシは母さんを“母親”だってずっと言ってんのによ!? その理屈ならアタシは“乳母に仕送りをしたい”って言わなきゃダメだったわけ?」
「いやそれもおかしいでしょ!? お母さんはお母さんであって、乳母じゃないんだし! それに乳母とも思っていないんだから! それ絶対あの伯爵がおかしいわよ! それに貴女は一言もお母さんを乳母だなんて言ってないんでしょう?」
「もちろんよ! なのにダニエルの思考がさっぱり分からないわ……。当然のように言うし、何が悪いか分からなくてキョトンとした顔するし……。怒りを通り越してもう、恐ろしいわ……」
吐き捨てるようにそう言ったマリアナの顔は嫌悪に満ちていた。
頭がおかしい男だとは思っていたがここまでとは。
やはり結婚初日に新妻に向かってお飾り宣言をするような奴はろくでもない。
761
あなたにおすすめの小説
願いの代償
らがまふぃん
恋愛
誰も彼もが軽視する。婚約者に家族までも。
公爵家に生まれ、王太子の婚約者となっても、誰からも認められることのないメルナーゼ・カーマイン。
唐突に思う。
どうして頑張っているのか。
どうして生きていたいのか。
もう、いいのではないだろうか。
メルナーゼが生を諦めたとき、世界の運命が決まった。
*ご都合主義です。わかりづらいなどありましたらすみません。笑って読んでくださいませ。本編15話で完結です。番外編を数話、気まぐれに投稿します。よろしくお願いいたします。
※ありがたいことにHOTランキング入りいたしました。たくさんの方の目に触れる機会に感謝です。本編は終了しましたが、番外編も投稿予定ですので、気長にお付き合いくださると嬉しいです。たくさんのお気に入り登録、しおり、エール、いいねをありがとうございます。R7.1/31
*らがまふぃん活動三周年周年記念として、R7.11/4に一話お届けいたします。楽しく活動させていただき、ありがとうございます。
旦那様には愛人がいますが気にしません。
りつ
恋愛
イレーナの夫には愛人がいた。名はマリアンヌ。子どものように可愛らしい彼女のお腹にはすでに子どもまでいた。けれどイレーナは別に気にしなかった。彼女は子どもが嫌いだったから。
※表紙は「かんたん表紙メーカー」様で作成しました。
「身分が違う」って言ったのはそっちでしょ?今さら泣いても遅いです
ほーみ
恋愛
「お前のような平民と、未来を共にできるわけがない」
その言葉を最後に、彼は私を冷たく突き放した。
──王都の学園で、私は彼と出会った。
彼の名はレオン・ハイゼル。王国の名門貴族家の嫡男であり、次期宰相候補とまで呼ばれる才子。
貧しい出自ながら奨学生として入学した私・リリアは、最初こそ彼に軽んじられていた。けれど成績で彼を追い抜き、共に課題をこなすうちに、いつしか惹かれ合うようになったのだ。
貴方が側妃を望んだのです
cyaru
恋愛
「君はそれでいいのか」王太子ハロルドは言った。
「えぇ。勿論ですわ」婚約者の公爵令嬢フランセアは答えた。
誠の愛に気がついたと言われたフランセアは微笑んで答えた。
※2022年6月12日。一部書き足しました。
※架空のお話です。現実世界の話ではありません。
史実などに基づいたものではない事をご理解ください。
※話の都合上、残酷な描写がありますがそれがざまぁなのかは受け取り方は人それぞれです。
表現的にどうかと思う回は冒頭に注意喚起を書き込むようにしますが有無は作者の判断です。
※更新していくうえでタグは幾つか増えます。
※作者都合のご都合主義です。
※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。
※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
愛せないですか。それなら別れましょう
黒木 楓
恋愛
「俺はお前を愛せないが、王妃にはしてやろう」
婚約者バラド王子の発言に、 侯爵令嬢フロンは唖然としてしまう。
バラド王子は、フロンよりも平民のラミカを愛している。
そしてフロンはこれから王妃となり、側妃となるラミカに従わなければならない。
王子の命令を聞き、フロンは我慢の限界がきた。
「愛せないですか。それなら別れましょう」
この時バラド王子は、ラミカの本性を知らなかった。
王太子妃は離婚したい
凛江
恋愛
アルゴン国の第二王女フレイアは、婚約者であり、幼い頃より想いを寄せていた隣国テルルの王太子セレンに嫁ぐ。
だが、期待を胸に臨んだ婚姻の日、待っていたのは夫セレンの冷たい瞳だった。
※この作品は、読んでいただいた皆さまのおかげで書籍化することができました。
綺麗なイラストまでつけていただき感無量です。
これまで応援いただき、本当にありがとうございました。
レジーナのサイトで番外編が読めますので、そちらものぞいていただけると嬉しいです。
https://www.regina-books.com/extra/login
融資できないなら離縁だと言われました、もちろん快諾します。
音爽(ネソウ)
恋愛
無能で没落寸前の公爵は富豪の伯爵家に目を付けた。
格下ゆえに逆らえずバカ息子と伯爵令嬢ディアヌはしぶしぶ婚姻した。
正妻なはずが離れ家を与えられ冷遇される日々。
だが伯爵家の事業失敗の噂が立ち、公爵家への融資が停止した。
「期待を裏切った、出ていけ」とディアヌは追い出される。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる