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彼女と公爵夫人
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公爵の執務室を出たジュリエッタはそのまま自分に宛がわれた部屋へと向かう。
ダニエルと離婚し、ハルバード公爵家へと戻ったジュリエッタに公爵夫人が用意してくれた部屋だ。
年頃の娘が喜ぶような可愛らしく上品な調度品で設えられており、夫人の細やかな心遣いが感じられる。
せっかく用意してくれたこの部屋を出るのはやや心苦しい。
だがジュリエッタは元夫のダニエルと父親である公爵に別れを告げたら邸を出る、と最初から決めていた。
持っていく荷物はほとんどない。
元々着の身着のまま連れてこられただけあって、ジュリエッタの私物というものはこの邸にはない。
着ているドレスを脱ぎ、宝飾品も外し、それを丁寧に仕舞う。
ここで買い与えられた物は全て置いていくと決めていた。
豪華で煌めくそれらはジュリエッタの今後の人生に不要なものだから。
流石に裸で出ていくわけにはいかないので、用意してもらったワンピースに袖を通し、ハイヒールの靴から平たい靴に履き替える。
着替えが終わったあたりで公爵夫人が部屋に訪れた。
「ジュリエッタ、この邸を出るそうね?」
「はい、夫人には色々お世話になりました。このご恩は生涯忘れません」
「気にすることないわ。わたくしが好きでやってたことだもの。それより貴女に餞別の品を持ってきたのよ」
夫人がそう言うと、彼女の横にいた侍女が一つの大きな化粧箱を差し出した。
開けてご覧なさい、と夫人に促され、上質な箱の蓋を開ける。
すると中には純白に煌めく花嫁衣裳が収められていた。
「夫人……これは……」
「貴女の花嫁支度よ。乙女にとって結婚とはとても大切なもの。今度こそ好きな人と幸せな結婚をなさい。差し出がましいようだけど、ここではわたくしは貴女の母のようなもの。娘に与える最初で最後の贈り物としてどうか受け取って頂戴」
繊細なレースや小粒の宝石をふんだんにあしらい、精緻な刺繍が施されたその衣装はどう見ても既製品ではなくオーダーメイドの品だ。夫人がジュリエッタのために時間をかけて準備してくれただろうことがよく分かる。
「夫人……ですが、こんな高価な物を頂くわけには……」
「いいえ、貴女にはこれを受け取る権利があるわ。望まなかったとはいえ、旦那様の目的の為に数年間の人生を捧げてきた貴女だもの。旦那様から謝礼金は出たのでしょうけど、それとは別にこれはハルバード公爵夫人としての礼の品でもあるわ。本当は、貴女の労力はこんなものじゃ足りないくらいよ。だからどうか受け取って」
「そんな……! 勿体ないお言葉です……!」
「ふふ、これは貴女の恋人に持ってもらいなさい。荷物になるでしょうしね? だからこれは、こちらからシロに渡しておくわ」
「えええ!? 夫人、何故それを……?」
離婚が成立した後、シロと晴れて恋人同士になったことは誰にも言っていない。
なのに何故夫人が知っているのかとジュリエッタは驚愕した。
「何故って、リサから聞いたのよ? ねえ?」
夫人が悪戯っぽく隣にいる侍女に笑いかける。
するとずっと俯いていた侍女が顔を上げて微笑んだ。
「え? リサ……? どうしてここに?」
「いやですわ、お嬢様。わたくしめはハルバード公爵家の侍女なのですから、ここにいても何の不思議もありませんでしょう?」
夫人の傍に控えていた侍女はリサだった。
彼女はジュリエッタに柔らかい笑みを向け、茶目っ気を含んだ口調でそう言った。
「リサは元々わたくしの侍女なの。貴女が伯爵家へ嫁ぐと決まった時、わたくしから旦那様にお願いして彼女を付けてもらったのよ」
「え……? 夫人がリサを?」
「ええ。リサなら安心して任せられるからね」
どうしてそこまでしてくれるのか。
ジュリエッタは夫人の心遣いに驚きと感謝で自然と涙が零れた。
ダニエルと離婚し、ハルバード公爵家へと戻ったジュリエッタに公爵夫人が用意してくれた部屋だ。
年頃の娘が喜ぶような可愛らしく上品な調度品で設えられており、夫人の細やかな心遣いが感じられる。
せっかく用意してくれたこの部屋を出るのはやや心苦しい。
だがジュリエッタは元夫のダニエルと父親である公爵に別れを告げたら邸を出る、と最初から決めていた。
持っていく荷物はほとんどない。
元々着の身着のまま連れてこられただけあって、ジュリエッタの私物というものはこの邸にはない。
着ているドレスを脱ぎ、宝飾品も外し、それを丁寧に仕舞う。
ここで買い与えられた物は全て置いていくと決めていた。
豪華で煌めくそれらはジュリエッタの今後の人生に不要なものだから。
流石に裸で出ていくわけにはいかないので、用意してもらったワンピースに袖を通し、ハイヒールの靴から平たい靴に履き替える。
着替えが終わったあたりで公爵夫人が部屋に訪れた。
「ジュリエッタ、この邸を出るそうね?」
「はい、夫人には色々お世話になりました。このご恩は生涯忘れません」
「気にすることないわ。わたくしが好きでやってたことだもの。それより貴女に餞別の品を持ってきたのよ」
夫人がそう言うと、彼女の横にいた侍女が一つの大きな化粧箱を差し出した。
開けてご覧なさい、と夫人に促され、上質な箱の蓋を開ける。
すると中には純白に煌めく花嫁衣裳が収められていた。
「夫人……これは……」
「貴女の花嫁支度よ。乙女にとって結婚とはとても大切なもの。今度こそ好きな人と幸せな結婚をなさい。差し出がましいようだけど、ここではわたくしは貴女の母のようなもの。娘に与える最初で最後の贈り物としてどうか受け取って頂戴」
繊細なレースや小粒の宝石をふんだんにあしらい、精緻な刺繍が施されたその衣装はどう見ても既製品ではなくオーダーメイドの品だ。夫人がジュリエッタのために時間をかけて準備してくれただろうことがよく分かる。
「夫人……ですが、こんな高価な物を頂くわけには……」
「いいえ、貴女にはこれを受け取る権利があるわ。望まなかったとはいえ、旦那様の目的の為に数年間の人生を捧げてきた貴女だもの。旦那様から謝礼金は出たのでしょうけど、それとは別にこれはハルバード公爵夫人としての礼の品でもあるわ。本当は、貴女の労力はこんなものじゃ足りないくらいよ。だからどうか受け取って」
「そんな……! 勿体ないお言葉です……!」
「ふふ、これは貴女の恋人に持ってもらいなさい。荷物になるでしょうしね? だからこれは、こちらからシロに渡しておくわ」
「えええ!? 夫人、何故それを……?」
離婚が成立した後、シロと晴れて恋人同士になったことは誰にも言っていない。
なのに何故夫人が知っているのかとジュリエッタは驚愕した。
「何故って、リサから聞いたのよ? ねえ?」
夫人が悪戯っぽく隣にいる侍女に笑いかける。
するとずっと俯いていた侍女が顔を上げて微笑んだ。
「え? リサ……? どうしてここに?」
「いやですわ、お嬢様。わたくしめはハルバード公爵家の侍女なのですから、ここにいても何の不思議もありませんでしょう?」
夫人の傍に控えていた侍女はリサだった。
彼女はジュリエッタに柔らかい笑みを向け、茶目っ気を含んだ口調でそう言った。
「リサは元々わたくしの侍女なの。貴女が伯爵家へ嫁ぐと決まった時、わたくしから旦那様にお願いして彼女を付けてもらったのよ」
「え……? 夫人がリサを?」
「ええ。リサなら安心して任せられるからね」
どうしてそこまでしてくれるのか。
ジュリエッタは夫人の心遣いに驚きと感謝で自然と涙が零れた。
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