フランチェスカ王女の婿取り

わらびもち

文字の大きさ
45 / 84

新居に現れた不審人物①

しおりを挟む
「ルイ、今度の週末にもう一度新居を見に行きませんか?」

「いいですね、そろそろフランの部屋も完成した頃でしょうし」

 あれからルイとは幾度となく逢瀬を重ね、今では名前を愛称と呼び捨てで言い合う仲となった。
 
 があってからもうヨーク公爵家に訪問することはなくなり、ルイとは王宮や街で会うようにしている。侍女の非礼を公爵夫人は可哀想になるくらい平身低頭して詫びてくれたものの、公爵家のためにもこれ以上何かあっては困ると訪問しない事を決めた。

 セレスタンの一件、そして侍女の非礼の一件でヨーク公爵家はもう反逆罪を言い渡されてもおかしくないところまできている。正直もうギリギリ一歩手前だ。これ以上非礼を重ねてしまうと公爵家の存続自体も危うくなる。

 婚約者の生家を没落させるわけにはいかないので、もう極力関わらないようにするしかない。
 幸いにしてあれ以降は何もなく、平和な毎日を過ごしている。
 
「そろそろ家具なども決めませんとね」

 私が治める予定の領地には、私とルイが住むための新居が建てられている。
 外観は完成しているので、今は内装工事の真っ最中だ。

 二人で住む邸の内装を、こうして話し合う時間はとても楽しい。
 早くルイと一緒に暮らしたいという願望が沸き上がってくる。

「ええ、そうですね。早くフランと一緒に暮らしたいです」

「まあ、ルイったら……」

 同じ気持ちでいてくれることが嬉しい。
 この人が婚約者でよかった。



 週末、私とルイは馬車に乗り領地までやってきた。
 新居の管理人が私達を恭しく出迎え、中を案内してくれる。

「内装工事は全て完了しました。運んでいただいた荷物は一つの場所に纏めて置いておりますので、確認をお願いします」

「え? 荷物?」

 管理人の言葉に私は首を傾げた。
 彼は今”運んだ荷物”と言ったが、私はここに荷物を運ぶよう指示した覚えはない。

「ルイ、ここに何か荷物を運んだ覚えはある?」

「え? いいえ、私は何も……」

 ルイに聞いても覚えがないと言う。
 なら一体誰が、何の荷物を運んだというのだろう……。

「姫様とルイ様が指示したわけではない……? も、申し訳ございません! 得体の知れない荷物を邸内に入れていたなんて……すぐに回収しますので!」

 慌てた管理人が得体の知れない荷物を外に出すべく動き出す。
 ただならぬ事態に私は騎士に荷物を確認するよう指示を出した。

「フラン、一体何が……」

「……どうやら、私やルイ以外の誰かがこの邸内に何らかの荷物を運び入れたようです」

「何ですって!? 一体誰がそんなことを……。いや、とりあえずフラン、外に出ましょう。ここにいては危険です!」

 そうルイに促され、私達は邸の外に出ることにした。
 もし荷物の中に危険な物など入っていたら確かに危ない。

 馬車の中で青褪める私をルイは守るように抱きしめてくれていた。
 その温もりが心地よく、段々と落ち着きを取り戻した。

「失礼します。姫様、荷物の中身を全て確認致しました。ご報告させていただいてもよろしいでしょうか?」

「ええ……お願い」

「畏まりました。ではまず中身なのですが、全てワインの空き瓶が詰められておりました」

「え……? ワインの空き瓶が?」

 騎士の報告によると荷物は全て四角い木箱で、その中身は全てワインの空き瓶が詰められていたという。

「どうしてそんな物が……。この荷物を運んだ者はどういう人物だったのかしら?」

「はっ、はいっ! 確か男女二人組でした! 王宮からだと伺ったので、そのまま受け入れてしまいまして……」

 私の質問に真っ青を通り越して土気色に染まった顔の管理人が口を開いた。
 得体の知れない者を王女の新居に招き入れてしまったのだから彼の責任は重い。
 それを自覚しているのだろう、彼は可哀想になるほど恐怖で体を震わせている。

「どうしてそんな得体の知れない者を入れてしまったの?」

「す、すみません! 女の方がを身に着けていたので、てっきり姫様の侍女かと……!」

「え……? エメラルドのブローチですって?」

 確かに私は専属と定めた侍女にエメラルドのブローチを贈っている。
 だが………

「そのブローチはをしていたかしら?」

 私が贈ったブローチは全てユリを象った物だ。
 本当にその女が私の侍女ならば、ユリの形をしたブローチを身に着けていないのはおかしい。

「へっ? ユリ、ですか……? いえ、そういったものではなく、普通のブローチでしたね。こう……四角い形の台座の中央に丸い石がはめ込まれていました。パッと見でもエメラルドだと分かるくらい大きめの石だったと思います」

「大きめのエメラルドをはめ込んだブローチを、その怪しい人物が? だとしたら……」

 大きめのエメラルドのブローチなんて資産に余裕のある者でないと買えない。
 だけどそんな人物がわざわざ酒の空き瓶を持ってくる理由って何だろう……。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

八年間の恋を捨てて結婚します

abang
恋愛
八年間愛した婚約者との婚約解消の書類を紛れ込ませた。 無関心な彼はサインしたことにも気づかなかった。 そして、アルベルトはずっと婚約者だった筈のルージュの婚約パーティーの記事で気付く。 彼女がアルベルトの元を去ったことをーー。 八年もの間ずっと自分だけを盲目的に愛していたはずのルージュ。 なのに彼女はもうすぐ別の男と婚約する。 正式な結婚の日取りまで記された記事にアルベルトは憤る。 「今度はそうやって気を引くつもりか!?」

【完結】私を捨てた皆様、どうぞその選択を後悔なさってください 〜婚約破棄された令嬢の、遅すぎる謝罪はお断りです〜

くろねこ
恋愛
王太子の婚約者として尽くしてきた公爵令嬢エリシアは、ある日突然、身に覚えのない罪で断罪され婚約破棄を言い渡される。 味方だと思っていた家族も友人も、誰一人として彼女を庇わなかった。 ――けれど、彼らは知らなかった。 彼女こそが国を支えていた“本当の功労者”だったことを。 すべてを失ったはずの令嬢が選んだのは、 復讐ではなく「関わらない」という選択。 だがその選択こそが、彼らにとって最も残酷な“ざまぁ”の始まりだった。

乙女ゲームの悪役令嬢の兄の婚約者に転生しましたが傷物になったので退場を希望します!

ユウ
恋愛
平凡な伯爵令嬢のリネットは優しい婚約者と妹と穏やかで幸福な日々を送っていた。 相手は公爵家の嫡男であり第一王子殿下の側近で覚えもめでたく社交界の憧れの漆黒の騎士と呼ばれる貴族令息だった。 結婚式前夜、婚約者の妹に会いに学園に向かったが、そこで事件が起きる。 現在学園で騒動を起こしている第二王子とその友人達に勘違いから暴行を受け階段から落ちてしまう… その時に前世の記憶を取り戻すのだった… 「悪役令嬢の兄の婚約者って…」 なんとも微妙なポジション。 しかも結婚前夜で傷物になる失態を犯してしまったリネットは婚約解消を望むのだが、悪役令嬢の義妹が王子に婚約破棄を突きつける事件に発展してしまう。

花嫁に「君を愛することはできない」と伝えた結果

藍田ひびき
恋愛
「アンジェリカ、君を愛することはできない」 結婚式の後、侯爵家の騎士のレナード・フォーブズは妻へそう告げた。彼は主君の娘、キャロライン・リンスコット侯爵令嬢を愛していたのだ。 アンジェリカの言葉には耳を貸さず、キャロラインへの『真実の愛』を貫こうとするレナードだったが――。 ※ 他サイトにも投稿しています。

《完結》「パパはいますか?」ある日、夫に似た子供が訪ねて来た。

ヴァンドール
恋愛
嫁いですぐに夫は戦地に赴いた。すると突然一人の男の子が訪ねて来た「パパはいますか?」 その子供の顔は戦地に行った夫にそっくりだった。

【完結】婚約者の義妹と恋に落ちたので婚約破棄した処、「妃教育の修了」を条件に結婚が許されたが結果が芳しくない。何故だ?同じ高位貴族だろう?

つくも茄子
恋愛
国王唯一の王子エドワード。 彼は婚約者の公爵令嬢であるキャサリンを公の場所で婚約破棄を宣言した。 次の婚約者は恋人であるアリス。 アリスはキャサリンの義妹。 愛するアリスと結婚するには「妃教育を修了させること」だった。 同じ高位貴族。 少し頑張ればアリスは直ぐに妃教育を終了させると踏んでいたが散々な結果で終わる。 八番目の教育係も辞めていく。 王妃腹でないエドワードは立太子が遠のく事に困ってしまう。 だが、エドワードは知らなかった事がある。 彼が事実を知るのは何時になるのか……それは誰も知らない。 他サイトにも公開中。

愛すべきマリア

志波 連
恋愛
幼い頃に婚約し、定期的な交流は続けていたものの、互いにこの結婚の意味をよく理解していたため、つかず離れずの穏やかな関係を築いていた。 学園を卒業し、第一王子妃教育も終えたマリアが留学から戻った兄と一緒に参加した夜会で、令嬢たちに囲まれた。 家柄も美貌も優秀さも全て揃っているマリアに嫉妬したレイラに指示された女たちは、彼女に嫌味の礫を投げつける。 早めに帰ろうという兄が呼んでいると知らせを受けたマリアが発見されたのは、王族の居住区に近い階段の下だった。 頭から血を流し、意識を失っている状態のマリアはすぐさま医務室に運ばれるが、意識が戻ることは無かった。 その日から十日、やっと目を覚ましたマリアは精神年齢が大幅に退行し、言葉遣いも仕草も全て三歳児と同レベルになっていたのだ。 体は16歳で心は3歳となってしまったマリアのためにと、兄が婚約の辞退を申し出た。 しかし、初めから結婚に重きを置いていなかった皇太子が「面倒だからこのまま結婚する」と言いだし、予定通りマリアは婚姻式に臨むことになった。 他サイトでも掲載しています。 表紙は写真ACより転載しました。

【完結】旦那様、その真実の愛とお幸せに

おのまとぺ
恋愛
「真実の愛を見つけてしまった。申し訳ないが、君とは離縁したい」 結婚三年目の祝いの席で、遅れて現れた夫アントンが放った第一声。レミリアは驚きつつも笑顔を作って夫を見上げる。 「承知いたしました、旦那様。その恋全力で応援します」 「え?」 驚愕するアントンをそのままに、レミリアは宣言通りに片想いのサポートのような真似を始める。呆然とする者、訝しむ者に見守られ、迫りつつある別れの日を二人はどういった形で迎えるのか。 ◇真実の愛に目覚めた夫を支える妻の話 ◇元サヤではありません ◇全56話完結予定

処理中です...