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そんなつもりはなかった①
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「え! やっと隠し扉を見つけたんですか!?」
「ああ、やっとだ。中々骨の折れる作業だったがな」
「よかった~……。これでもう、あの重い箱を運ばずに済みますね……」
馬車の中で若い女がほっと胸を撫でおろす。
その様子を向かいの席に座っている男がつまらなそうに眺めた。
「ふん、お前はただ馬鹿みたいに荷物を運んだだけじゃないか。それなのに一丁前に文句を言うなんて、これだから頭の悪い女は嫌なんだ」
「……はは、すみませんね~……」
女は沸き上がる殺意を必死に抑え、こめかみに青筋を立てながら心にもない謝罪をした。
(腹立つ! イチイチ言い方が嫌味ったらしいのよ! それに頭がいい女も嫌で、悪い女も嫌だとか何様なの!?)
口を開けば嫌味ばかりを零す男を女は心の中で思い切り罵倒した。
本当ならばこんな嫌な男と一緒に行動などしたくないが、自分の目的を果たすために必要だからこそ我慢している。
「後はいつフランチェスカがあの邸に来るかだな。その日に合わせてこちらも動くから、その情報は掴んでおけよ」
「……は~い、分かりました~」
いくら高位貴族の子息といえども、ここまで他人を奴隷のように扱う男に苛つくなという方が無理だ。
女は頭の中で目の前の男をしこたま殴る想像をして何とか怒りを抑える。
「私がフランチェスカと結ばれたのならルイはお払い箱だ。あいつは所詮私の代替品、偽物でしかないのだからな。偽物にはお前のような安っぽい女がお似合いだ」
(キイイイイ!! 殴りたい! もう、ワインボトルでしこたま殴ってしまいたい……!!)
本当に嫌な奴、と女は歯を食いしばって耐える。
「それと、事が終わり次第そのエメラルドのブローチは返してもらうぞ。それは元々アンに贈るはずのものだからな」
「え? いいですけど、返したらその”アン”さんに贈るんですか?」
「そうだ。よくよく考えたのだが、やはり私はアンを諦めきれない……。だから一度の裏切りくらい許そうと思ってな」
「ううん……? でも、セレスタン様は王女様と結ばれるつもりなのですよね?」
意味が分からない、と女は首を傾げた。
「そうだ。フランチェスカが正妻、アンを愛人として囲えば何の問題もない」
(うわ~……クズだぁ……)
男のあまりにも傲慢な考えに女は絶句した。
こんなに堂々と不誠実な発言をする奴なんて初めてだ。
「はあ……。まあ、セレスタン様が王女様と結ばれてくれるのなら、アタシはそれでいいですけど……」
「うむ、そのつもりだ。婚約者を奪われて傷心のルイをお前が慰めてやればいいぞ、ジュリー」
「……セレスタン様、アタシの名はジェーンです……」
「ん? そうだったか? まあ、名前なんぞどうでもいい。とにかく全てが終わったらそのブローチを返すんだぞ」
「ああ、はい……分かりました」
”隠し扉”を探し当て、ご機嫌な様子のセレスタンにジェーンはウンザリとする。
自分の目的を果たすため、利用しようと思った男は予想を超えた馬鹿で屑だった。
こいつを協力者として選んだのは間違いだったかな……。
そういう考えが何度も頭をよぎったものの、もう引き返せないところまで来てしまっている。
ジェーンの目的は”ルイと結ばれる事”、ただそれだけだった。
それだけのためにセレスタンを懐柔し王女にけしかけようと企んだのだが、今になって引き返したい気持ちで一杯になっている。
*
今から数日前、トムから王女の新居の場所を聞き出したジェーンは早速そこにセレスタンを連れていこうと考えた。
軟禁されているとはいえ、やる気のない緩い警備をかい潜ることは容易い。脱出も簡単だろう。
セレスタンと王女の婚約解消の経緯をよく知らないジェーンは、二人を再会させれば元鞘に戻るだろうと単純に考えた。そのための舞台として王女が建設中の新居を選び、セレスタンに周辺をウロウロさせて偶然を装い再会させれば完璧だと、本気で思っていたのだ。
そのためにセレスタンに嘘を吹き込み、アンを諦めさせて王女に気持ちが傾くようにしたのに、何をどう間違ったのか分からないが事態はとんでもない方向に走り出した。
「新居に侵入し、フランチェスカと一夜を共にする」
「は………………?」
いきなりセレスタンがこう宣言したものだから、ジェーンは本気で訳が分からないという顔を晒してしまった。
「え……? え? 何でそんな話になるんです……?」
「ふん、分からないのか? これだから察しが悪い女は嫌なんだ。いいか、王侯貴族の女は貞節を重んじる。つまりはそれを奪ってしまえば、フランチェスカは私と結婚せざるを得ないというわけだ」
「え? つまりそれって……」
この男は王女を襲うと宣言している。それを理解した瞬間ジェーンは戦慄し、震えあがった。
「いやいやいや……! ちょっと待ってくださいよ! 駄目でしょう、そんなの!」
「は? 駄目だと? 貴様は誰に向かってそんな口を……」
「いや、だって犯罪ですよ、それ!? そんなの駄目に決まっているじゃないですか!!」
「犯罪ではない。単なる婚前交渉だ」
「ええ……? それも……そう、かな?」
「そうだ。初夜で行うことを先にするだけだ。何の問題もない」
「うーん……それも、そうですよね……」
流石に犯罪は駄目だとセレスタンを止めようとしたジェーンだが、逆に丸め込まれてしまった。
セレスタンのやろうとしていることは婚前交渉ではなく婦女暴行で、裁かれるべき犯罪だ。
だが阿呆なジェーンは『犯罪ではない』と判断し、セレスタンの協力者としてこれに加担しようとしている。
ここが破滅への入り口だったと、ここで引き返せばよかったと、ジェーンがひどく後悔する日はそう遠くない。
「ああ、やっとだ。中々骨の折れる作業だったがな」
「よかった~……。これでもう、あの重い箱を運ばずに済みますね……」
馬車の中で若い女がほっと胸を撫でおろす。
その様子を向かいの席に座っている男がつまらなそうに眺めた。
「ふん、お前はただ馬鹿みたいに荷物を運んだだけじゃないか。それなのに一丁前に文句を言うなんて、これだから頭の悪い女は嫌なんだ」
「……はは、すみませんね~……」
女は沸き上がる殺意を必死に抑え、こめかみに青筋を立てながら心にもない謝罪をした。
(腹立つ! イチイチ言い方が嫌味ったらしいのよ! それに頭がいい女も嫌で、悪い女も嫌だとか何様なの!?)
口を開けば嫌味ばかりを零す男を女は心の中で思い切り罵倒した。
本当ならばこんな嫌な男と一緒に行動などしたくないが、自分の目的を果たすために必要だからこそ我慢している。
「後はいつフランチェスカがあの邸に来るかだな。その日に合わせてこちらも動くから、その情報は掴んでおけよ」
「……は~い、分かりました~」
いくら高位貴族の子息といえども、ここまで他人を奴隷のように扱う男に苛つくなという方が無理だ。
女は頭の中で目の前の男をしこたま殴る想像をして何とか怒りを抑える。
「私がフランチェスカと結ばれたのならルイはお払い箱だ。あいつは所詮私の代替品、偽物でしかないのだからな。偽物にはお前のような安っぽい女がお似合いだ」
(キイイイイ!! 殴りたい! もう、ワインボトルでしこたま殴ってしまいたい……!!)
本当に嫌な奴、と女は歯を食いしばって耐える。
「それと、事が終わり次第そのエメラルドのブローチは返してもらうぞ。それは元々アンに贈るはずのものだからな」
「え? いいですけど、返したらその”アン”さんに贈るんですか?」
「そうだ。よくよく考えたのだが、やはり私はアンを諦めきれない……。だから一度の裏切りくらい許そうと思ってな」
「ううん……? でも、セレスタン様は王女様と結ばれるつもりなのですよね?」
意味が分からない、と女は首を傾げた。
「そうだ。フランチェスカが正妻、アンを愛人として囲えば何の問題もない」
(うわ~……クズだぁ……)
男のあまりにも傲慢な考えに女は絶句した。
こんなに堂々と不誠実な発言をする奴なんて初めてだ。
「はあ……。まあ、セレスタン様が王女様と結ばれてくれるのなら、アタシはそれでいいですけど……」
「うむ、そのつもりだ。婚約者を奪われて傷心のルイをお前が慰めてやればいいぞ、ジュリー」
「……セレスタン様、アタシの名はジェーンです……」
「ん? そうだったか? まあ、名前なんぞどうでもいい。とにかく全てが終わったらそのブローチを返すんだぞ」
「ああ、はい……分かりました」
”隠し扉”を探し当て、ご機嫌な様子のセレスタンにジェーンはウンザリとする。
自分の目的を果たすため、利用しようと思った男は予想を超えた馬鹿で屑だった。
こいつを協力者として選んだのは間違いだったかな……。
そういう考えが何度も頭をよぎったものの、もう引き返せないところまで来てしまっている。
ジェーンの目的は”ルイと結ばれる事”、ただそれだけだった。
それだけのためにセレスタンを懐柔し王女にけしかけようと企んだのだが、今になって引き返したい気持ちで一杯になっている。
*
今から数日前、トムから王女の新居の場所を聞き出したジェーンは早速そこにセレスタンを連れていこうと考えた。
軟禁されているとはいえ、やる気のない緩い警備をかい潜ることは容易い。脱出も簡単だろう。
セレスタンと王女の婚約解消の経緯をよく知らないジェーンは、二人を再会させれば元鞘に戻るだろうと単純に考えた。そのための舞台として王女が建設中の新居を選び、セレスタンに周辺をウロウロさせて偶然を装い再会させれば完璧だと、本気で思っていたのだ。
そのためにセレスタンに嘘を吹き込み、アンを諦めさせて王女に気持ちが傾くようにしたのに、何をどう間違ったのか分からないが事態はとんでもない方向に走り出した。
「新居に侵入し、フランチェスカと一夜を共にする」
「は………………?」
いきなりセレスタンがこう宣言したものだから、ジェーンは本気で訳が分からないという顔を晒してしまった。
「え……? え? 何でそんな話になるんです……?」
「ふん、分からないのか? これだから察しが悪い女は嫌なんだ。いいか、王侯貴族の女は貞節を重んじる。つまりはそれを奪ってしまえば、フランチェスカは私と結婚せざるを得ないというわけだ」
「え? つまりそれって……」
この男は王女を襲うと宣言している。それを理解した瞬間ジェーンは戦慄し、震えあがった。
「いやいやいや……! ちょっと待ってくださいよ! 駄目でしょう、そんなの!」
「は? 駄目だと? 貴様は誰に向かってそんな口を……」
「いや、だって犯罪ですよ、それ!? そんなの駄目に決まっているじゃないですか!!」
「犯罪ではない。単なる婚前交渉だ」
「ええ……? それも……そう、かな?」
「そうだ。初夜で行うことを先にするだけだ。何の問題もない」
「うーん……それも、そうですよね……」
流石に犯罪は駄目だとセレスタンを止めようとしたジェーンだが、逆に丸め込まれてしまった。
セレスタンのやろうとしていることは婚前交渉ではなく婦女暴行で、裁かれるべき犯罪だ。
だが阿呆なジェーンは『犯罪ではない』と判断し、セレスタンの協力者としてこれに加担しようとしている。
ここが破滅への入り口だったと、ここで引き返せばよかったと、ジェーンがひどく後悔する日はそう遠くない。
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