フランチェスカ王女の婿取り

わらびもち

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侵入者の正体

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「姫様! 管理人から報告が届きました! 例の侵入者がまた邸を訪ねてきたそうです!」

「そう……! やっぱり来たわね」

 あれから数日後、また例の侵入者が邸へとやってきたとの報せが入る。
 管理人は私が指示した通り、敢えて侵入者を邸内に招き入れ、彼らの動向を監視したそうだ。

「女の方はまた例の空瓶が入った箱を邸内まで運んだそうです。そして男の方なのですが、女がそうしている間にある部屋まで向かったようでして……」

「それは、どこの部屋?」

「それが……二階にある、当主夫妻の寝室へ……」

「何ですって……!? 寝室へ?」

 まだベッドや調度品を設置していない空の部屋とはいえ、夫婦の為の寝室に得体の知れない者が入ったと聞くのはいい気がしない。それどころか気持ち悪くて怖気が走る。

「はい、男は何故か迷うことなくそこに行ったらしいです」

「まあ……! ……それで、その男は寝室で何をしていたの?」

「それが……扉を閉めて中から鍵をかけてしまったようで、何をしているかまでは分からなかったそうです。それで管理人が壁に耳を当てて部屋の中の様子を探ろうとしたところ、男は『どこだ、どこにある』と独り言を呟いていたとか」

「それって……寝室で何か探し物をしていた、ということかしら?」

 だが、まだ何も置いていない部屋で何を探すというのだろう。
 男の行動はどうも不可解だ。

「はい、管理人も”男は何かを探しているようだった”と申しておりました。それでしばらくした後、部屋から出てきたようなのですが……その際に『今日も見つからなかった』と呟いていたとか」

「ということは、探し物は見つからなかったということかしら……?」

「おそらくそうではないでしょうか。それにしても、まだ部屋には何も置いておりませんのに、何を探す物があるのでしょう……気味が悪いです」

「ええ、本当に……。でもそれならきっとまた来るでしょうね……」

 男の行動は鳥肌が立つほど気持ち悪いが、これでそいつの目的が分かった。
 そいつは寝室にある何かを探している。それが何かは不明だが。

「ローゼ、ベルとアンジェを呼んで頂戴」

 男の目的が分かったので次の行動に移るべく私は二人を呼んだ。



「コレを新居の寝室のある部屋へ飾って頂戴。他にも適当な調度品を設置し、コレを目立たせないようにしてね」

 私はベルとアンジェに水晶の置物カメラを新居の寝室へ設置するよう命じた。
 これがあれば男の顔を拝むことが出来るし、そいつが何を探しているのかを確認できる。

「畏まりました。お任せください、姫様」

 ベルもアンジェも私の命令に対して何の疑問も抱かず了承してくれるから有難い。
 この水晶が何なのか、どうして新居にこれを置くのかと聞かれても答えられないから。


 それから数日経ったある日、また件の男女が新居を訪れたとの報告が入る。
 
 私はそれを聞き、恐怖で体を震わせながら古いクローゼットを開けて鏡の前に立った。

「うん、ちゃんと映ってる」

 水晶の置物カメラと対の存在である鏡、それは録画された映像を映すモニターの役割を担っている。
 
 そこに映っていたのは下男のような服装をした帽子を目深に被った男。
 彼はひたすら壁や床に目を凝らし、必死に何かを探しているようだった。

 帽子のせいで顔がよく見えない。男の方も視界を遮られて鬱陶しかったのか、苛ついた様子でそれに手をかけた。

「……っ!? これって……」

 男は乱暴な手つきで帽子を脱ぎ、床に落とす。
 そうして現れた男の顔に浮かんでいた表情は、ついこの間まで定期的に見ていたものと全く同じ。

 大嫌いな元婚約者セレスタンの、眉をしかめた顔がそこに映っていた。

「やっぱりセレスタンが犯人だったのね……」

 勘でしかなかった私の予想は見事に当たっていたようだ。
 だが、当たったところで何も嬉しくない。

 帽子をとり、視界が広くなったセレスタンは再び何かを探すように動き始めた。
 壁や床に耳を当てたり、手で触ってみたり叩いてみたりと不審な動きを繰り返す。

 いったい何をしているのだろう……。

 そう不気味に思いながらもセレスタンの動向を眺めていると、不意に彼の動きがピタリと止まった。

「ん? え? な、なにそれ……!?」

 セレスタンの手が置いてある部分の床がいきなり隆起した。
 見るとそれは取っ手の形をしており、そこを掴むと床板の一部分が持ち上がる。

「は……? なに? 隠し扉……?」

 床板の一部がどうやら隠し扉の入り口になっていたようで、その下には石造りの階段が設置されていた。
 セレスタンはニヤリと醜悪な笑みを浮かべ、おもむろにその階段を降りていく。

 どれくらい経っただろうか。画面にはずっと無人の空間だけが映し出され、しばらくすると階段を上ってセレスタンが部屋へと戻ってきた。

 彼は慎重な手つきで入り口を閉め、取っ手をグッと押す。
 するとそこには隠し扉など存在しなかったかのように、精緻な模様の床板だけが残される。

 セレスタンはニヤニヤとした顔のまま床に落とした帽子を拾い、再びそれを頭に被せた。
 そして扉を少し開け、外に誰もいないかを確認するとそのまま部屋を出た。

「何……何でそこに隠し扉が……? しかもそれをどうしてセレスタンが知っているの……?」

 そこまで言って私はハッと気づいた。
 そういえば以前、貴族の邸には”隠し扉”が必ず存在すると聞いたことがある。

 領民の反乱や敵国の襲撃があった場合、その隠し扉を通って外へと脱出する為のものだと。

 ちなみに私が住まう王宮にも隠し扉は
 だがそこを通って間者が王宮内へ侵入する事態が多かった為、私が産まれる前には封鎖されたそうだ。

 セレスタンとアンヌマリーが逢瀬に使ったあの隠し扉も大昔に造られたもの。
 本来であれば封鎖されるべきものだったのだろうが、外と繋がっているわけではなく隣室と繋がっているだけのものだから見過ごされたのかもしれない。

 そもそも家主である私に許可なく勝手に隠し扉を造るなんて……と怒りが沸々湧いてくる。

「いや、今は先にセレスタンをどうにかすることを考えましょう……」

 元婚約者が勝手に新居に侵入して隠し扉を物色している。
 そんなとんでもない事態をどう対処すればいいのかと、私は頭を抱えた
 
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