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もしかして……

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「衛兵を派遣しなくともよい、ですか……? 姫様、それは何故……」

 王宮に戻り、私は侍女のローゼに”衛兵を新居に派遣せずともよい”と命じた。

「今騒げば侵入者はしばらくの間邸には現れないと思うの。それだともう、正体も目的も分からずじまいよ。それじゃ困るわ」

 多分、あの侵入者はまた邸を訪れると思う。
 その時に沢山の衛兵がいたとしたら、危険を感じて逃げ帰ってしまいかねない。
 
 それだといつまた侵入者が現れるか分からず、ずっと不安なまま過ごすことになるだろう。
 そんなのは御免だ。ルイとの新婚生活を、訳の分からない輩に邪魔されたくない。

「ですが……衛兵が調査をすれば侵入者の正体も分かるのでは……?」

「一度しか現れず、管理人しかその顔を見ていないのよ? 調査しても無駄に終わる可能性が高いわ」

 侵入者の痕跡である指紋や足跡は残っているだろうが、この時代の技術でそこから犯人を割り出すなんてほぼ不可能だ。それに防犯カメラすらないから侵入者の顔も分からない。分かるのはエメラルドのブローチをしているということくらいだ。

 エメラルドのブローチを持っている人物なんて、国内だけでも沢山いるだろう。
 その全てを容疑者にして捜査するなどほぼ無理に近い。

「では、どうなさるおつもりで?」

「そうね……まず、管理人はそのまま新居に留まるよう指示を。そして件の男女が来た場合、邸内の何処に入ったかを確認して報告するよう伝えなさい」

「えっ……!? 侵入者をまた邸内に入れるのですか?」

「ええ、敢えて泳がせるつもりよ。そうしないと侵入者の目的も分からないだろうし……。ああ、念のため変装させた護衛を数人邸に配置させて。侵入者が管理人に何らかの危害を加えないとも限らないし」

「畏まりました。あの……管理人への処罰はなさらないのですか?」

 王女が住む邸を管理する身でありながら、易々と侵入者を招き入れてしまった罪は重いだろう。
 だが今は彼を罰している場合ではない。

「それは全てが終わった後よ、侵入者の顔を知っているのは管理人だけだもの」

「確かにそうですね……。では、直ちに指示を出して参ります」

 そう言ってローゼが下がった後、私は誰もいなくなった部屋の中で深く息を吐いた。

「ああ~もう、どうしてこう次から次へと厄介なことが起きるのよ……」

 セレスタンという屑な婚約者と縁が切れ、やっと幸せになれると思ったらこれだ。
 この世界はよほどフランチェスカを幸せにしたくないのか、物語のような厄介事ばかり運んでくる。

「いや、確かにここは物語の世界だろうけどさ……。もうヒロインもヒーローも退場したじゃないの……」

 まるで次の主人公はフランチェスカお前だとばかりに次から次へと厄介事が起きる。
 紆余曲折を経てからじゃないと幸せになれないとでもいうのか。
 何の苦労もなく幸せにさせてほしい。

「ん……ヒーロー?」

 ふと、セレスタンの傲慢な顔を思い出す。
 
 王女すらも見下し、己の欲ばかり叶えようとした最低な男。

 何故かそれが、話に聞いただけの傲慢な侵入者の男の姿と重なった。

「いやまさか……。だって彼は邸に軟禁されているはず……」

 軟禁されているからといって、絶対に外に出られないと言い切れるだろうか。
 
 こう言っては何だがヨーク公爵家は管理が
 子息にしても、侍女にしても、あそこまで平気で王族相手に喧嘩を売れるなんて当主の管理がなっていない証拠だ。

 そんな甘っちょろいヨーク公爵家の軟禁ならば、抜け出すのも容易かもしれない。

「まさかセレスタンが侵入者……?」

 根拠は何もない。それに高位貴族のお坊ちゃまが他人の邸に侵入するなど考え付くだろうか。
 あの傲慢な男ならば、こそこそと侵入するなんて真似はせずに馬鹿みたいに堂々と邸に入ってくるはず。 
 誰かから入れ知恵でもされない限り……。

「セレスタンは馬鹿みたいに単純で考え無しな性格しているし、誰かに唆されても何の疑いもなく受け入れてしまいそう……。でも、いったい誰が何の為にそんなことを……?」

 あの侵入者の男はセレスタンなのだろうか……。

 そんな何の根拠もない、単なる想像でしかない考えが私の頭を駆け巡った。
 
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