フランチェスカ王女の婿取り

わらびもち

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それを知るのは……

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「姫様、ご命令の通り新居に家具を一式ご用意しました。ですが……よかったのですか?」

「ご苦労様、ローゼ。ええ、いいのよ。あれは一時的なものだから」

「左様でございますか……。それと例の”隠し扉”なのですが、まだ封鎖しなくてよろしいので?」

「ええ、まだいいわ。が済んだ後に塞ぐから」

「畏まりました。では何かありましたらまたお呼びください」

 要件を伝えるとローゼは丁寧に頭を下げ、そのまま部屋を出ていった。

「この世界って、前世で読んだ小説の世界とは少し違うのね……」

 誰もいない空間に向かって私は独り言ちた。


 この世界は前世で読んだ小説の世界に酷似しているが、それでもではない。
 所々で小説の世界と違う箇所が出てくるのだ。

 例えば、ルイの存在。それとヨーク公爵家の根深い嫁姑問題。
 これらは小説には全く書かれていなかった。

 多分、そのどちらもヒロインとヒーローの甘い恋には関係ないからだろう。
 小説のメインは二人の甘い恋が成就することであり、その他の関係ない部分は物語にとって不必要だから。

 でもこの世界は小説ではなく現実だ。二人を中心に回り、二人の都合がいいように動くわけがない。

 だからだろうか、ものがある。

 その一例が”前泊り”という風習だ。

 新居が完成する前に当主がそこで一晩過ごし、不都合がないかを最終確認するというものだが、この世界にそのような習慣は

 別に住んでから不都合が見つかろうがその都度直せば済むだけの話だ。時間も金もある貴族にはそれくらい苦ではないのだから。

 小説ではこの”前泊り”という風習が
 フランチェスカが婚約者と共に一晩新居に泊まるという描写が書かれていたのは覚えている。
 
 だが、この時セレスタンはあろうことかこの約束を当日取りやめたのだ。
 当日にドタキャンされたフランチェスカは一人泣きながら夜を過ごすという悲しみを味わう。

 セレスタンはどうして当日ドタキャンなどという暴挙をかましたのかというと、彼の愛しいアンヌマリーがこの日体調を崩して寝込んでいたからだ。

『アン、体調はどうだ?』

『セレスタン様!? どうしてここに? だって今日は……』

『ああ、本当は”前泊り”の予定だったが取りやめたよ。君が心配でそれどころじゃないからね……』

『私の為にそんな……! でも嬉しい……』

 などという寒い茶番を二人きりで繰り広げていた描写には殺意が湧いたものだ。
 
 ようはセレスタンヒーローフランチェスカ婚約者よりもアンヌマリーヒロインを優先したという為だけにこの”前泊り”という言葉が登場した。二人がイチャイチャするところを読者にアピールする為だけに。

 小説の世界は何処まで行ってもヒロインとヒーローに甘い。この世は二人だけの為に存在すると言わんばかりに。
 だが現実は違う、二人の為に世界は回っていない。

 だからだろうか、二人の愛をアピールする為だけに使用された”前泊り”という風習はこの現実世界には存在しない。なので当然この世界の人物はこんな風習を知らない。

 知っているとすれば、私と同じ小説の世界を知る────。

 
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