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下衆な男

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「セレスタン様! やっと王女様があの邸に泊まる日が分かりましたよ!」

 慌てた様子で室内へと駆け込んできたジェーンを見てセレスタンは眉をひそめた。

「挨拶もしないで何だ、騒がしい。それに長い間私をこんな場所で待たせていたことへの謝罪はないのか?」

(はああ!? こんな場所ですって? こーんなお高い宿で優雅に過ごしていたくせによく言うわ! こっちは疑われて取り調べを受けて大変だったんだからね!?)

 数日ぶりに会ったというのにセレスタンはこちらを心配する素振りすらみせない。
 その傲慢で思いやりのない態度にジェーンは苛立ちを感じた。
 
 会いに来たくとも中々邸を抜け出すことが出来なかったというのに、この男はこちらの苦労を何も分かっていない。

「はいはい、すいませんね。お邸ではセレスタン様がいなくなったことがバレて大騒ぎなんですよ。それで中々来れなかったんです~」

 今まではセレスタンへ食事を運ぶという名目で持ち場から簡単に抜け出せていた。
 だがその食事を運ぶ対象がいなくなったことにより、その場を離れる名目が無くなり外にも出れない。
 そんな中トムが来たことによりジェーンはやっとセレスタンの元へと来れたのだ。

(トムが来てくれてよかったわ~。おかげでアタシの分の仕事も押し付けられたし。それにしてもあいつは何をやらかして下男に落とされたのかしら?)

「何!? それではもう邸に戻れないではないか……!」

「そうですよ。だから王女様と復縁しなければセレスタン様は帰る場所がないです」

「くっ……! 仕方ない、週末まではこの宿で我慢してやるか。フランチェスカをモノにしてしまえば新居に住めるだろうしな……」

(うわっ……気持ち悪っ……。モノにするって言い方がもう無理!)

「週末にまたあの邸へと向かう。隠し扉へと向かう通路が庭に隠されているのでそこから入るぞ」

「は? 入るぞって……アタシも行くんですか?」

「当然だろう? 今更何を言っているんだ?」

「いや……今回アタシは必要ないでしょう!? 玄関からじゃなくて庭から入るなら管理人の気を逸らす必要もないんだし……アタシいらないじゃないですか!」

「お前には私とフランチェスカの初夜が完遂されたことの証人になってもらう。見届け人は必要だろう?」

「え? は……? 見届け人? それってつまり……」

 言葉の意味を理解し、ジェーンは嫌悪で全身に鳥肌が立った。
 見届け人などと耳障りのいい言葉を使っているが、つまりは他人の情事を見ていろということ。

「いやいやいや! 無理! 無理です! 他人のそういうのって絶対に見たくないですって!」

「何を言う。貴人の閨には必ず見届け人がつくものだ」

「知りませんよそんなの! とにかくアタシは嫌です! 断固として拒絶します! 無理なものは無理!」

「……仕方ないな。そんなに嫌なら隠し扉の中に隠れていればいい。それならいいだろう?」

「いや……何もよくないですよ? とにかくアタシは行きませんから!」

 悪趣味な男! 最低!
 
 そう口には出さないまでも、ジェーンは思い切り顔を歪めセレスタンを軽蔑する。

「勘違いしているようだが、これはお願いではなく命令だ。お前が断る権利などない」

「はあ? アタシは別にセレスタン様に雇われているわけじゃないんですけど? 勘違いしているのはそっちじゃないですか?」

 フン、とそっぽを向くジェーンをセレスタンは憎々し気に睨みつけた。
 そしてふと何かを思いついたように彼はニタリと歪んだ笑みを浮かべる。

「そんなことを言っていいのか? 私がその気になればお前をルイに二度と近づけさせないことも出来るのだぞ?」

「は? そんなこと出来るわけないでしょう?」

「出来るぞ。私を部屋から出したのはお前だと話せば即日解雇は免れない。そうなればもうお前はルイに会う機会すらなくなる。当然結ばれることもない。それでもいいのか?」

「え……? そ、それは……」

 ルイに会えなくなるなんて絶対に嫌だ。
 彼と結ばれたいがためにこんな下衆の協力者をやっているのに……。

「わかりました……アタシもついていきます」

「ふん、分かればいい。それではまた週末にここへ来い」

 もう用はないとばかりに手を振るセレスタンをジェーンは苦々しい目で見つめた。

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