フランチェスカ王女の婿取り

わらびもち

文字の大きさ
64 / 84

忠告はした

しおりを挟む
「ジェーン、なんだか嬉しそうだね?」

「え? そう?」

 浮かれた表情のジェーンと見てトムがそう指摘する。

「うん、鼻歌でも聞こえてきそうだよ。……なんかいい事でもあったの?」

「え? うーん、そうね。あったというか、これからいい事が起きるのよ」

 週末になればセレスタンが王女と結ばれる。
 そうなれば晴れてルイは自由の身となり、今度こそ自分が彼と幸せになれる。

 そんな都合のいい妄想に浸るジェーンにトムは憐れむような視線を送る。

「あのさ……ジェーン、ルイ様のことはもう諦めるべきだと思うよ」

「は!? 何いきなり! 何でアンタにそんなこと言われなきゃいけないのよ!?」

 意味の分からない忠告を受けたジェーンは鋭い目でトムを睨みつける。
 
 昔からルイだけを見つめ続けてきた。彼を手に入れる為なら何だって出来るほどに好きなのだ。
 それこそ下衆な男に手を貸し、倫理に反した行いを黙認するほどに。

 他人に「諦めろ」と言われて諦められるほど軽い恋心ではないのだから。

「君は他人の話も聞かないし、自己中心的だし、責任感もないどうしようもない人間だ。それでも昔馴染みだから忠告しておくよ。君がルイ様と結ばれることなど未来永劫ない。分相応という言葉を理解した方が身のためだ」

「なっ……!? あ、あんた誰に向かってそんな偉そうなこと言ってんのよ!!」

「そんなの君に決まっているじゃないかジェーン。分不相応にも主でありヨーク公爵家の子息であるルイ様に懸想する、下女の君に忠告しているんだよ」

「はああああ!? ふざけないで! アタシに向かってそんな口きいていいと思ってんの!?」

「君が僕を見下して馬鹿にしていることは知っているよ。でもね、僕に言わせれば馬鹿は君だ。それも大がつくほどの馬鹿だ。身の安全すら図れないのだからね……」

「意味わかんない! 何のよいきなり人のこと馬鹿にして!!」

 顔を真っ赤に染めて怒るジェーンをトムは蔑んだ目で眺めた。

 彼の初めてみる表情にジェーンは一瞬怯んだものの、すぐに気を取り直し叫ぶように罵倒する。

「アンタみたいな冴えない男に馬鹿にされる筋合いはないわ! 嫌い! 大っ嫌い! もう話しかけないで!」

 憤慨したジェーンは自分の仕事を放りだしその場から走り去った。
 残されたトムはため息をつき、残された仕事をこなすべく手を動かす。

「おいおい、でかい声出してどうしたんだ?」

 大きな声に驚き、その場にいた他の使用人がトムのもとに駆け寄る。
 そして残された大量の仕事を見て「ああ」と呟いた。

「あいつ、またあんたに自分の仕事を押し付けたのか……。ほんとうにどうしようもないな」

「いえ、いつものことですし」

「でもなあ……。こうも頻繁にサボる人間がいると周囲の士気が下がるんだよな」

「安心して下さい、彼女は来週にはもう……ここからいなくなりますから」

 ぽつりと呟いたトムの言葉に使用人は「ん? 今なんて言った?」と聞き返す。

「いえ、なんでもありません……」

 話は終わりだとばかりにトムは再び仕事に戻る。

(忠告はした。後はもう……僕には何もできない)

 これがジェーンとの最後の会話だ、とトムは少し寂しそうに俯いた。
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

八年間の恋を捨てて結婚します

abang
恋愛
八年間愛した婚約者との婚約解消の書類を紛れ込ませた。 無関心な彼はサインしたことにも気づかなかった。 そして、アルベルトはずっと婚約者だった筈のルージュの婚約パーティーの記事で気付く。 彼女がアルベルトの元を去ったことをーー。 八年もの間ずっと自分だけを盲目的に愛していたはずのルージュ。 なのに彼女はもうすぐ別の男と婚約する。 正式な結婚の日取りまで記された記事にアルベルトは憤る。 「今度はそうやって気を引くつもりか!?」

【完結】私を捨てた皆様、どうぞその選択を後悔なさってください 〜婚約破棄された令嬢の、遅すぎる謝罪はお断りです〜

くろねこ
恋愛
王太子の婚約者として尽くしてきた公爵令嬢エリシアは、ある日突然、身に覚えのない罪で断罪され婚約破棄を言い渡される。 味方だと思っていた家族も友人も、誰一人として彼女を庇わなかった。 ――けれど、彼らは知らなかった。 彼女こそが国を支えていた“本当の功労者”だったことを。 すべてを失ったはずの令嬢が選んだのは、 復讐ではなく「関わらない」という選択。 だがその選択こそが、彼らにとって最も残酷な“ざまぁ”の始まりだった。

乙女ゲームの悪役令嬢の兄の婚約者に転生しましたが傷物になったので退場を希望します!

ユウ
恋愛
平凡な伯爵令嬢のリネットは優しい婚約者と妹と穏やかで幸福な日々を送っていた。 相手は公爵家の嫡男であり第一王子殿下の側近で覚えもめでたく社交界の憧れの漆黒の騎士と呼ばれる貴族令息だった。 結婚式前夜、婚約者の妹に会いに学園に向かったが、そこで事件が起きる。 現在学園で騒動を起こしている第二王子とその友人達に勘違いから暴行を受け階段から落ちてしまう… その時に前世の記憶を取り戻すのだった… 「悪役令嬢の兄の婚約者って…」 なんとも微妙なポジション。 しかも結婚前夜で傷物になる失態を犯してしまったリネットは婚約解消を望むのだが、悪役令嬢の義妹が王子に婚約破棄を突きつける事件に発展してしまう。

花嫁に「君を愛することはできない」と伝えた結果

藍田ひびき
恋愛
「アンジェリカ、君を愛することはできない」 結婚式の後、侯爵家の騎士のレナード・フォーブズは妻へそう告げた。彼は主君の娘、キャロライン・リンスコット侯爵令嬢を愛していたのだ。 アンジェリカの言葉には耳を貸さず、キャロラインへの『真実の愛』を貫こうとするレナードだったが――。 ※ 他サイトにも投稿しています。

《完結》「パパはいますか?」ある日、夫に似た子供が訪ねて来た。

ヴァンドール
恋愛
嫁いですぐに夫は戦地に赴いた。すると突然一人の男の子が訪ねて来た「パパはいますか?」 その子供の顔は戦地に行った夫にそっくりだった。

【完結】婚約者の義妹と恋に落ちたので婚約破棄した処、「妃教育の修了」を条件に結婚が許されたが結果が芳しくない。何故だ?同じ高位貴族だろう?

つくも茄子
恋愛
国王唯一の王子エドワード。 彼は婚約者の公爵令嬢であるキャサリンを公の場所で婚約破棄を宣言した。 次の婚約者は恋人であるアリス。 アリスはキャサリンの義妹。 愛するアリスと結婚するには「妃教育を修了させること」だった。 同じ高位貴族。 少し頑張ればアリスは直ぐに妃教育を終了させると踏んでいたが散々な結果で終わる。 八番目の教育係も辞めていく。 王妃腹でないエドワードは立太子が遠のく事に困ってしまう。 だが、エドワードは知らなかった事がある。 彼が事実を知るのは何時になるのか……それは誰も知らない。 他サイトにも公開中。

愛すべきマリア

志波 連
恋愛
幼い頃に婚約し、定期的な交流は続けていたものの、互いにこの結婚の意味をよく理解していたため、つかず離れずの穏やかな関係を築いていた。 学園を卒業し、第一王子妃教育も終えたマリアが留学から戻った兄と一緒に参加した夜会で、令嬢たちに囲まれた。 家柄も美貌も優秀さも全て揃っているマリアに嫉妬したレイラに指示された女たちは、彼女に嫌味の礫を投げつける。 早めに帰ろうという兄が呼んでいると知らせを受けたマリアが発見されたのは、王族の居住区に近い階段の下だった。 頭から血を流し、意識を失っている状態のマリアはすぐさま医務室に運ばれるが、意識が戻ることは無かった。 その日から十日、やっと目を覚ましたマリアは精神年齢が大幅に退行し、言葉遣いも仕草も全て三歳児と同レベルになっていたのだ。 体は16歳で心は3歳となってしまったマリアのためにと、兄が婚約の辞退を申し出た。 しかし、初めから結婚に重きを置いていなかった皇太子が「面倒だからこのまま結婚する」と言いだし、予定通りマリアは婚姻式に臨むことになった。 他サイトでも掲載しています。 表紙は写真ACより転載しました。

【完結】旦那様、その真実の愛とお幸せに

おのまとぺ
恋愛
「真実の愛を見つけてしまった。申し訳ないが、君とは離縁したい」 結婚三年目の祝いの席で、遅れて現れた夫アントンが放った第一声。レミリアは驚きつつも笑顔を作って夫を見上げる。 「承知いたしました、旦那様。その恋全力で応援します」 「え?」 驚愕するアントンをそのままに、レミリアは宣言通りに片想いのサポートのような真似を始める。呆然とする者、訝しむ者に見守られ、迫りつつある別れの日を二人はどういった形で迎えるのか。 ◇真実の愛に目覚めた夫を支える妻の話 ◇元サヤではありません ◇全56話完結予定

処理中です...