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最初で最後の化粧
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「どうした? まだ週末ではないのに何故ここにいる?」
「いえ、ちょっと……邸に居づらかったもので」
トムと口論の末、勢いのままジェーンは邸を飛び出してセレスタンがいる宿まで来てしまった。
ここに来ても仕方のないことだが、他に行く宛てもない。
「ふうん、まあ丁度いい。新居に行く前に買い出しを頼みたかったからな」
「え? 買い出し?」
「ああ、この紙に書いてあるものを用意してくれ」
セレスタンはジェーンに数枚の紙きれを渡す。
彼女は渡されたそれに目をやり驚愕した。
「何ですかこの内容……野宿でもするつもりですか?」
紙に書かれていたのは毛布やランプ、保存食などの外で一夜を過ごす為に使用するものばかり。
週末に邸へ行くだけなのにどうしてこんなものが必要なのか。
「野宿というわけではないが、長時間隠し通路内に潜むのだからそれ相応の準備は必要だろう?」
「は? 潜む? 何ですかそれ?」
「お前……まさかちょっと邸に行くだけと勘違いしていないか?」
「え? 違うんですか? 王女様が夜寝静まったあたりで隠し通路に行けばいいんでしょう?」
計画を実行に移す時間は夜なのだから、その時間に合わせていけば済む話だとジェーンは首を傾げた。
そんな彼女にセレスタンは大きなため息をつき、蔑んだ目を向ける。
「はあ……お前は本当に頭が足りないな。王女が新居に訪れるんだぞ? それに合わせて警備も強化されるに決まっているじゃないか。そんな状態で隠し通路に忍び込めると思うか?」
「あ……確かに」
「そうだろう? だからそれより前……少なくとも日の出前には隠し通路に潜む必要がある。その時間ならばまだ警備の騎士も配置されていないだろうからな。これはそのための準備品だ」
だから防寒具や食料を購入する必要があるのか。
それは納得したが、ジェーンはふとある疑問が湧いた。
「王女様が邸を訪れるより前に隠し通路に潜む必要があるんですよね? だったらそれ言っておいてくれないと……。アタシ普通に週末の夜にここへ来るつもりでしたよ」
たまたま宿に顔を出したからいいものを、そうでなければ早朝に出発するなど考えもしなかった。
予定通り夜に来ていたら、もう隠し通路に入れなかったではないか。
どうしてそういう大切な事を言わないんだと腹が立つ。
「……そんなことも言われなければ分からないのか、お前は。頭も悪いし察しも悪いんだな」
「はあ!? そんな言い方はないんじゃないですか? セレスタン様が言わないのが悪いのに!」
「何故私が使用人にわざわざ細かいところまで注意せねばならない? 使用人とは主に言われずとも気を利かせて動くものだ。もういい、さっさとそこに書かれたものを買いに行け」
話は終わりだとばかりにセレスタンはジェーンにずっしりと金の詰まった袋を投げて寄越す。
ジェーンはそれを受け取り、まだ言いたいことはあれど渋々買い出しへと向かった。
「あ~もう、苛々する……! 必要なことを言わないそっちが無能なんじゃないのよ!」
会話を交わすだけで血管が切れるんじゃないかと思うほど怒りが湧く。
週末で縁が切れる、と思いジェーンは必死に我慢した。
「相変わらず無駄にお金を持ってるしさ……。あ、そうだ! これだけあるんだから服とか化粧品とか買っちゃおうっと!」
腹いせにセレスタンから貰った金で豪遊してしまおう。
そう考えたら楽しくなってきて、あの男に感じていた怒りも薄れる。
それによく考えてみれば、前泊りの日はルイも邸内にいるはず。
ならいつもより綺麗に着飾った姿を彼に見てほしい。
「今までお金がなくて化粧なんて出来なかったからな~。綺麗になったアタシを見てルイもきっと驚くわよね」
はしゃぐジェーンはちっとも気づいていなかった。
婚約者が寝室で男に襲われたという状態で着飾った女を目にしてもそれどころではないということを。
トムに指摘され、思いとどまっていればよかったのだ。
そうすれば、人生で初の化粧が死に化粧にならずにすんだというのに……。
「いえ、ちょっと……邸に居づらかったもので」
トムと口論の末、勢いのままジェーンは邸を飛び出してセレスタンがいる宿まで来てしまった。
ここに来ても仕方のないことだが、他に行く宛てもない。
「ふうん、まあ丁度いい。新居に行く前に買い出しを頼みたかったからな」
「え? 買い出し?」
「ああ、この紙に書いてあるものを用意してくれ」
セレスタンはジェーンに数枚の紙きれを渡す。
彼女は渡されたそれに目をやり驚愕した。
「何ですかこの内容……野宿でもするつもりですか?」
紙に書かれていたのは毛布やランプ、保存食などの外で一夜を過ごす為に使用するものばかり。
週末に邸へ行くだけなのにどうしてこんなものが必要なのか。
「野宿というわけではないが、長時間隠し通路内に潜むのだからそれ相応の準備は必要だろう?」
「は? 潜む? 何ですかそれ?」
「お前……まさかちょっと邸に行くだけと勘違いしていないか?」
「え? 違うんですか? 王女様が夜寝静まったあたりで隠し通路に行けばいいんでしょう?」
計画を実行に移す時間は夜なのだから、その時間に合わせていけば済む話だとジェーンは首を傾げた。
そんな彼女にセレスタンは大きなため息をつき、蔑んだ目を向ける。
「はあ……お前は本当に頭が足りないな。王女が新居に訪れるんだぞ? それに合わせて警備も強化されるに決まっているじゃないか。そんな状態で隠し通路に忍び込めると思うか?」
「あ……確かに」
「そうだろう? だからそれより前……少なくとも日の出前には隠し通路に潜む必要がある。その時間ならばまだ警備の騎士も配置されていないだろうからな。これはそのための準備品だ」
だから防寒具や食料を購入する必要があるのか。
それは納得したが、ジェーンはふとある疑問が湧いた。
「王女様が邸を訪れるより前に隠し通路に潜む必要があるんですよね? だったらそれ言っておいてくれないと……。アタシ普通に週末の夜にここへ来るつもりでしたよ」
たまたま宿に顔を出したからいいものを、そうでなければ早朝に出発するなど考えもしなかった。
予定通り夜に来ていたら、もう隠し通路に入れなかったではないか。
どうしてそういう大切な事を言わないんだと腹が立つ。
「……そんなことも言われなければ分からないのか、お前は。頭も悪いし察しも悪いんだな」
「はあ!? そんな言い方はないんじゃないですか? セレスタン様が言わないのが悪いのに!」
「何故私が使用人にわざわざ細かいところまで注意せねばならない? 使用人とは主に言われずとも気を利かせて動くものだ。もういい、さっさとそこに書かれたものを買いに行け」
話は終わりだとばかりにセレスタンはジェーンにずっしりと金の詰まった袋を投げて寄越す。
ジェーンはそれを受け取り、まだ言いたいことはあれど渋々買い出しへと向かった。
「あ~もう、苛々する……! 必要なことを言わないそっちが無能なんじゃないのよ!」
会話を交わすだけで血管が切れるんじゃないかと思うほど怒りが湧く。
週末で縁が切れる、と思いジェーンは必死に我慢した。
「相変わらず無駄にお金を持ってるしさ……。あ、そうだ! これだけあるんだから服とか化粧品とか買っちゃおうっと!」
腹いせにセレスタンから貰った金で豪遊してしまおう。
そう考えたら楽しくなってきて、あの男に感じていた怒りも薄れる。
それによく考えてみれば、前泊りの日はルイも邸内にいるはず。
ならいつもより綺麗に着飾った姿を彼に見てほしい。
「今までお金がなくて化粧なんて出来なかったからな~。綺麗になったアタシを見てルイもきっと驚くわよね」
はしゃぐジェーンはちっとも気づいていなかった。
婚約者が寝室で男に襲われたという状態で着飾った女を目にしてもそれどころではないということを。
トムに指摘され、思いとどまっていればよかったのだ。
そうすれば、人生で初の化粧が死に化粧にならずにすんだというのに……。
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