どこまでも付いていきます下駄の雪

楠乃小玉

文字の大きさ
18 / 76

十八話 方ノ上城は落城

しおりを挟む
 当方は花倉城、方ノ上城を包囲して、方ノ上城の水の手を絶つ事に成功した。

 人は食を絶たれても数日は持ちこたえられるが、
 水がなければまたたく間に衰亡する。

 方ノ上城の城方が衰弱しきった処に北条殿の援軍が御参陣なされた。

 それを見た方ノ上城の城方は自暴自棄になったか城を打って出て
 北条方に突撃したが、水が切れてはいかんともしがたく、
 敗れて城に引き退いた。

 そこを間髪入れず岡部親綱勢が城に乗り込み、
 方ノ上城は落城することとなった。

 六月十日の事であった。

 中でも親綱の次男坊五郎兵衛の働きめざましく、
 義元公より直接お褒めの言葉を頂いた。

 また、花倉方が撤退のさなか兵糧を奪おうと攻めた由比城を
 小勢ながら守り抜いた由比助四郎に対して感状をその場でしたため、
 使者にお渡しになられた。

 義元公のお心使いは実に四方を照らす日輪の光の如く行き届いたものであった。

 周囲の支城、砦をことごとく落された花倉城を
 当方が包囲すると義元公は無理攻めをなされず、
 兵糧攻めの体制を取られた。

 北条方のお味方もあれば我攻めで落とせぬこともなかったが、
 将兵の命をいとわれたのだ。

「兵糧や金はまた一所懸命に働けば手に入る。
 しかれども、そなたら臣の命は一度失えば返らぬ」

 と仰せになり、家臣一同義元公の深き御慈悲に感じ入った次第である。

 花倉城を包囲しているさなかも、
 漫然と待っているのではなく、
 法螺貝を吹き鳴らし、早鐘を叩いて敵方を眠らせず、
 矢を射かけて挑発を続けた。

 夜を徹しての策動に義元公もいたくご満悦の様であらせられた。

 義元公は将兵を働かせて我だけ眠るわけにはいかぬとのたまわれ、
 陣中で一刻ほどお眠りになるだけで、
 早朝から夜中まで将兵を視察になられたので、
 当方の将兵も三日三晩鳴り物と矢を射続けた。

 さすがにたまりかねたか、三日目の丑三つ時
 、花倉は少数の家臣を連れて密かに城を脱出した。

 当方は夜を徹して見張っていたので、
 すぐにその動向は察知され、罵声を浴びせながら諸将が花倉を追い回した。

 花倉は瀬戸谷の普門寺に逃げ込んだが、
 たちまち大軍で寺は取り囲まれた。

 花倉城を落すよりはるかに容易い。

 当方の軍勢は寺を取り囲みつつ本陣を整え、
 義元公のご到着をお待ちした。

 ほどなくして義元公は本陣にお入りになり、

 花倉に降参するよう文をしたためられた。
 それは使者によって寺の中に届けられる。

 しばらくして使者が花倉の書状をもって帰ってくる。

 降伏の条件は堀越や井伊など花倉方に付いた国人衆の助命嘆願であった。

 それらの命を助けてくれるのであれば割腹して果てると書いてあった。

 義元公はそれを了承され、使者を使わされた。花倉は、その日のうちに自害してはてた。
しおりを挟む
感想 43

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

滝川家の人びと

卯花月影
歴史・時代
勝利のために走るのではない。 生きるために走る者は、 傷を負いながらも、歩みを止めない。 戦国という時代の只中で、 彼らは何を失い、 走り続けたのか。 滝川一益と、その郎党。 これは、勝者の物語ではない。 生き延びた者たちの記録である。

もし石田三成が島津義弘の意見に耳を傾けていたら

俣彦
歴史・時代
慶長5年9月14日。 赤坂に到着した徳川家康を狙うべく夜襲を提案する宇喜多秀家と島津義弘。 史実では、これを退けた石田三成でありましたが……。 もしここで彼らの意見に耳を傾けていたら……。

強いられる賭け~脇坂安治軍記~

恩地玖
歴史・時代
浅井家の配下である脇坂家は、永禄11年に勃発した観音寺合戦に、織田・浅井連合軍の一隊として参戦する。この戦を何とか生き延びた安治は、浅井家を見限り、織田方につくことを決めた。そんな折、羽柴秀吉が人を集めているという話を聞きつけ、早速、秀吉の元に向かい、秀吉から温かく迎えられる。 こうして、秀吉の家臣となった安治は、幾多の困難を乗り越えて、ついには淡路三万石の大名にまで出世する。 しかし、秀吉亡き後、石田三成と徳川家康の対立が決定的となった。秀吉からの恩に報い、石田方につくか、秀吉子飼いの武将が従った徳川方につくか、安治は決断を迫られることになる。

マルチバース豊臣家の人々

かまぼこのもと
歴史・時代
1600年9月 後に天下人となる予定だった徳川家康は焦っていた。 ーーこんなはずちゃうやろ? それもそのはず、ある人物が生きていたことで時代は大きく変わるのであった。 果たして、この世界でも家康の天下となるのか!?  そして、豊臣家は生き残ることができるのか!?

【架空戦記】狂気の空母「浅間丸」逆境戦記

糸冬
歴史・時代
開戦劈頭の真珠湾攻撃にて、日本海軍は第三次攻撃によって港湾施設と燃料タンクを破壊し、さらには米空母「エンタープライズ」を撃沈する上々の滑り出しを見せた。 それから半年が経った昭和十七年(一九四二年)六月。三菱長崎造船所第三ドックに、一隻のフネが傷ついた船体を横たえていた。 かつて、「太平洋の女王」と称された、海軍輸送船「浅間丸」である。 ドーリットル空襲によってディーゼル機関を損傷した「浅間丸」は、史実においては船体が旧式化したため凍結された計画を復活させ、特設航空母艦として蘇ろうとしていたのだった。 ※過去作「炎立つ真珠湾」と世界観を共有した内容となります。

天竜川で逢いましょう 〜日本史教師が石田三成とか無理なので平和な世界を目指します〜

岩 大志
歴史・時代
ごくありふれた高校教師津久見裕太は、ひょんなことから頭を打ち、気を失う。 けたたましい轟音に気付き目を覚ますと多数の軍旗。 髭もじゃの男に「いよいよですな。」と、言われ混乱する津久見。 戦国時代の大きな分かれ道のド真ん中に転生した津久見はどうするのか!!??? そもそも現代人が生首とか無理なので、平和な世の中を目指そうと思います。

信忠 ~“奇妙”と呼ばれた男~

佐倉伸哉
歴史・時代
 その男は、幼名を“奇妙丸”という。人の名前につけるような単語ではないが、名付けた父親が父親だけに仕方がないと思われた。  父親の名前は、織田信長。その男の名は――織田信忠。  稀代の英邁を父に持ち、その父から『天下の儀も御与奪なさるべき旨』と認められた。しかし、彼は父と同じ日に命を落としてしまう。  明智勢が本能寺に殺到し、信忠は京から脱出する事も可能だった。それなのに、どうして彼はそれを選ばなかったのか? その決断の裏には、彼の辿って来た道が関係していた――。  ◇この作品は『小説家になろう(https://ncode.syosetu.com/n9394ie/)』でも同時掲載しています◇

処理中です...