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第三章
腐れ縁
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そして、この日から毎週水曜日夕方の仕事終わりの時間になると、奴は必ず姿を見せるようになった。
前は有馬が店に来るだけで女子が騒いでいたのに、今日はそれが少ないのはバイトが僕だけだからだ。
——くっ、なんで今日に限って僕以外、バイト休みなんだ。
ついに、あいつの注文を取りに行かなきゃならなくなる。
ちらりと有馬の方をみれば目が合って、にこりと微笑まれた。
その笑みは、いつもキャーキャー言ってる子たちに向ければいいのに。
僕に向けられても、なんとも思わない。
「久しぶり。月島、元気そうでよかった」
本当に嬉しそうに言われ、僕は一瞬で警戒モードに切り替えた。
ーーー詐欺か?宗教勧誘か?
絶対何か企んでいるはず!
騙されないぞと心で啖呵を切れば鼻息が荒くなる。
「ご注文は?」
と、できるだけ冷静に言う。
「ブランデで」
「かしこまりました。すぐにお持ちします」
奴は何か言いたそうにしていたけれど、こちらにそれ以上話す意思はない。
注文を受けるとすぐカウンターへ戻った。
次の日も奴は店に来ていた。
もう当たり前のように通い詰めているから、最近は店内も騒がなくなって来た。
それに僕だって、有馬を背景のように気にしなくなっていた。
慣れって怖い。
「あの人、あなた目当てじゃない?」
吉村さんにズバッと言われる。
「私もそう思ってました!私ちょっといいかもって思って声かけてみたんですけど、全く相手にしてもらえず、ずっとみてたら月島さんに熱い視線を送ってることに気づいちゃったんです!」
バイトの佐々木さんもここぞとばかりに目を輝かせる。
「知りません。全くの他人です」
「えー、月島さんなら喜んで差し上げたのに」
「いやいや、絶対そうだって。今もほらあなたのことずっと見つめてるわよ」
ーーーえ、こわ
「ストーカーとかだったら連絡しましょうか?私から言ってもいいし」
僕の表情を見てか、吉村さんが本気で心配する表情になった。
「そこまでは大丈夫です」
「そう?」
「はい。自分で対処しますんで!」
変なことで心配かけてはいけない。
コーヒーを持って、有馬のところへ行った。
「お待たせしました。コーヒーです」
「ありがとう月島」
「‥‥‥」
ーーーねえ、なんで毎日来るの?
なんて聞いたら、僕に会いに来てるんだろ?みたいな自意識過剰人間になってしまう
もっと普通の無難な言い方で言わないと!
「この店、気に入ったのか?すごい頻繁に来るようになったな」
おお!うまい!うまい言い回しだ!
変な感じにならないかつ、なんで来るようになったのかはちゃんと聞ける。
「ここ、仕事場の近くなんだ。雰囲気も好きだし、ごめん。迷惑だった?月島が来ないでって言うならもう来ないよ」
僕は思わず首を傾げた。
「なんで、僕が言うと来なくなるんだ?好きだから来てるんだろ?」
だったら僕がいようがいないが関係ないじゃん。
有馬はしばらく固まったかと思うと、顔を真っ赤にして俯きがちに言った。
「うん、そうだよ。好きだから来てるんだ。これからも来てもいい?」
「だから良いって言ってるだろ。あ、でも、僕のこと見てくるのだけはやめろよ。店で変な噂になりたくないから」
「へ、俺そんなに見てた?ごめん、これからは気をつけるよ」
「わかったなら良い」
言いたいことは言えたので、さっさとカウンターに戻る。
急に態度を変えられて混乱してるし、今も昔も有馬に考えてることがわからない。
ーーー僕はあんたが嫌いだよ。あんだけ嫌がらせしておいて、好きになる方がおかしいよ
だからひどい言葉を浴びせれば、この腐れ縁は終わらせられる。
それくらいすぐに壊れてしまう弱い繋がりなのに、なぜ僕は終わらせることに躊躇っているのか。
自分でもわからない。
外は完全に日が沈み、店を閉める時間が迫っていた。
カウンターの中で注文票を揃えていると、
首の後ろがじんわり熱を持っていることに気づいた。
エプロンの中が、妙に蒸れる。
額に滲んだ汗を袖で拭ったが、すぐにまたじわりと浮いてきた。
頭が、ぼんやりしてきた。
大丈夫、大丈夫、これくらい、よくある。
そう思って動き続けていると、
「……真白?」
名前を呼ばれて、はっとした。
顔を上げると、カウンターの向こうに有馬が立っていた。
いつの間にか、席を立っている。
お会計だろうかと、レジに立てば、
「顔、赤いぞ」
と、顔を覗き込んで言われた。
「平気だ」
「体温、測った?」
「……」
そのやり取りを見ていたオーナーが、
「ちょっと奥で休もうか」と声をかけてくれた。
バックヤードで体温計を借りる。
電子音が鳴って、表示された数字は、三七・八。
……微妙。
高熱じゃないし、でも、平熱とも言えない。
「今日は上がろう」
オーナーは迷いなく言った。
「すみません……」
僕は頭を下げる。
「いいから。無理しないで」
着替えて店を出ると、外の空気がひんやりして気持ちいい。
けれど、足元は少し心許なかった。
「家まで送るよ」
有馬が、当たり前みたいに言う。
「近いから、大丈夫です」
「大丈夫じゃない顔してる」
僕の荷物を奪って颯爽と前を歩き出した。
断る隙を与えられず、渋々後をついていった。
歩く速度を僕に合わせてくれる。
僕に優しくしてなんのつもりだろ。
怪しい勧誘もしてこないし、警戒してるのが馬鹿らしくなる。
昔のことの罪滅ぼしだったりして。
玄関の鍵を開けて家に入る。
ここまでだと思っていたのに、有馬は家の中まで入ってきた。
「お邪魔するぞ。荷物はここでいいか」
ベッドに横になったまま頷いた。
「氷枕あったから頭浮かすぞ」
「ここ置いとくから水も飲めよ」
「お粥作ったけど食べれるか?」
すごい世話してもらってる!あの有馬に!お母さんにもしてもらったことないのに!
「あ、ありがとう」
おずおずとスプーンを手に取り口に運ぶ。
ちょっぴり塩の効いたたまご粥で市販のより何倍も美味しい。
お腹いっぱいに食べたら眠くなってきた。
ひんやりした枕に頭を預ければ、瞼が自然に落ちてきた。
「おやすみ、月島………※$&^+#%」
有馬が何か言っている。
最後まで聞き取れないくらいその声が遠のいてしまった。
前は有馬が店に来るだけで女子が騒いでいたのに、今日はそれが少ないのはバイトが僕だけだからだ。
——くっ、なんで今日に限って僕以外、バイト休みなんだ。
ついに、あいつの注文を取りに行かなきゃならなくなる。
ちらりと有馬の方をみれば目が合って、にこりと微笑まれた。
その笑みは、いつもキャーキャー言ってる子たちに向ければいいのに。
僕に向けられても、なんとも思わない。
「久しぶり。月島、元気そうでよかった」
本当に嬉しそうに言われ、僕は一瞬で警戒モードに切り替えた。
ーーー詐欺か?宗教勧誘か?
絶対何か企んでいるはず!
騙されないぞと心で啖呵を切れば鼻息が荒くなる。
「ご注文は?」
と、できるだけ冷静に言う。
「ブランデで」
「かしこまりました。すぐにお持ちします」
奴は何か言いたそうにしていたけれど、こちらにそれ以上話す意思はない。
注文を受けるとすぐカウンターへ戻った。
次の日も奴は店に来ていた。
もう当たり前のように通い詰めているから、最近は店内も騒がなくなって来た。
それに僕だって、有馬を背景のように気にしなくなっていた。
慣れって怖い。
「あの人、あなた目当てじゃない?」
吉村さんにズバッと言われる。
「私もそう思ってました!私ちょっといいかもって思って声かけてみたんですけど、全く相手にしてもらえず、ずっとみてたら月島さんに熱い視線を送ってることに気づいちゃったんです!」
バイトの佐々木さんもここぞとばかりに目を輝かせる。
「知りません。全くの他人です」
「えー、月島さんなら喜んで差し上げたのに」
「いやいや、絶対そうだって。今もほらあなたのことずっと見つめてるわよ」
ーーーえ、こわ
「ストーカーとかだったら連絡しましょうか?私から言ってもいいし」
僕の表情を見てか、吉村さんが本気で心配する表情になった。
「そこまでは大丈夫です」
「そう?」
「はい。自分で対処しますんで!」
変なことで心配かけてはいけない。
コーヒーを持って、有馬のところへ行った。
「お待たせしました。コーヒーです」
「ありがとう月島」
「‥‥‥」
ーーーねえ、なんで毎日来るの?
なんて聞いたら、僕に会いに来てるんだろ?みたいな自意識過剰人間になってしまう
もっと普通の無難な言い方で言わないと!
「この店、気に入ったのか?すごい頻繁に来るようになったな」
おお!うまい!うまい言い回しだ!
変な感じにならないかつ、なんで来るようになったのかはちゃんと聞ける。
「ここ、仕事場の近くなんだ。雰囲気も好きだし、ごめん。迷惑だった?月島が来ないでって言うならもう来ないよ」
僕は思わず首を傾げた。
「なんで、僕が言うと来なくなるんだ?好きだから来てるんだろ?」
だったら僕がいようがいないが関係ないじゃん。
有馬はしばらく固まったかと思うと、顔を真っ赤にして俯きがちに言った。
「うん、そうだよ。好きだから来てるんだ。これからも来てもいい?」
「だから良いって言ってるだろ。あ、でも、僕のこと見てくるのだけはやめろよ。店で変な噂になりたくないから」
「へ、俺そんなに見てた?ごめん、これからは気をつけるよ」
「わかったなら良い」
言いたいことは言えたので、さっさとカウンターに戻る。
急に態度を変えられて混乱してるし、今も昔も有馬に考えてることがわからない。
ーーー僕はあんたが嫌いだよ。あんだけ嫌がらせしておいて、好きになる方がおかしいよ
だからひどい言葉を浴びせれば、この腐れ縁は終わらせられる。
それくらいすぐに壊れてしまう弱い繋がりなのに、なぜ僕は終わらせることに躊躇っているのか。
自分でもわからない。
外は完全に日が沈み、店を閉める時間が迫っていた。
カウンターの中で注文票を揃えていると、
首の後ろがじんわり熱を持っていることに気づいた。
エプロンの中が、妙に蒸れる。
額に滲んだ汗を袖で拭ったが、すぐにまたじわりと浮いてきた。
頭が、ぼんやりしてきた。
大丈夫、大丈夫、これくらい、よくある。
そう思って動き続けていると、
「……真白?」
名前を呼ばれて、はっとした。
顔を上げると、カウンターの向こうに有馬が立っていた。
いつの間にか、席を立っている。
お会計だろうかと、レジに立てば、
「顔、赤いぞ」
と、顔を覗き込んで言われた。
「平気だ」
「体温、測った?」
「……」
そのやり取りを見ていたオーナーが、
「ちょっと奥で休もうか」と声をかけてくれた。
バックヤードで体温計を借りる。
電子音が鳴って、表示された数字は、三七・八。
……微妙。
高熱じゃないし、でも、平熱とも言えない。
「今日は上がろう」
オーナーは迷いなく言った。
「すみません……」
僕は頭を下げる。
「いいから。無理しないで」
着替えて店を出ると、外の空気がひんやりして気持ちいい。
けれど、足元は少し心許なかった。
「家まで送るよ」
有馬が、当たり前みたいに言う。
「近いから、大丈夫です」
「大丈夫じゃない顔してる」
僕の荷物を奪って颯爽と前を歩き出した。
断る隙を与えられず、渋々後をついていった。
歩く速度を僕に合わせてくれる。
僕に優しくしてなんのつもりだろ。
怪しい勧誘もしてこないし、警戒してるのが馬鹿らしくなる。
昔のことの罪滅ぼしだったりして。
玄関の鍵を開けて家に入る。
ここまでだと思っていたのに、有馬は家の中まで入ってきた。
「お邪魔するぞ。荷物はここでいいか」
ベッドに横になったまま頷いた。
「氷枕あったから頭浮かすぞ」
「ここ置いとくから水も飲めよ」
「お粥作ったけど食べれるか?」
すごい世話してもらってる!あの有馬に!お母さんにもしてもらったことないのに!
「あ、ありがとう」
おずおずとスプーンを手に取り口に運ぶ。
ちょっぴり塩の効いたたまご粥で市販のより何倍も美味しい。
お腹いっぱいに食べたら眠くなってきた。
ひんやりした枕に頭を預ければ、瞼が自然に落ちてきた。
「おやすみ、月島………※$&^+#%」
有馬が何か言っている。
最後まで聞き取れないくらいその声が遠のいてしまった。
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