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鶯音を入る
第五十五夜
しおりを挟む「……夜とか、昼とか関係なく」
ピアッサーを受け取るために手を伸ばした所で、彼女が畳み掛けてきた。
「話、続いてたんですね…………?」
先程の問い掛けで彼女のターンは終了したものと思い込んでいた私は、手を止めて彼女に問い掛けた。
「…………ホントにエアコンなら、良かったね」
彼女は、中途半端な場所で止まっていた私の手に新品のピアッサーを握らせた。
ドールハウスに設置するエアコンだって、こんなに小さくはないだろう。
「そう……ですか? エアコン来ても……あっても? 変わらないって話にはなりましたけど。一応は。……エアコン位、自分で買えますし」
一旦受け取りはしたが、耳にピアスの穴を開けるのは私でも、ピアッサーを使用するのは彼女だと気付き、手の中のものを突き返した。
「溜まり場、増えるよ? お互いの部屋行き来するの、恋人っぽいし」
「でも、エアコン二台も貰ってもなあ……」
ピアッサーは一つであるにもかかわらず、両耳に穴を開ける予定の私は無意識にそうぼやいていた。
「寝室と、リビング。一つの家に一つのエアコンって、決まった訳じゃない」
「…………まあ、全部の家が部屋一つって訳じゃないのと同じと言えば同じですけど」
「次住む家は、キッチンにも絶対置く。夏のキッチン、暑すぎだし。最初から条件入れておいても良さそう。その方が翠も良い。……でしょ?」
彼女は、私との間にあったスペースに両手をついて尋ねてきた。
(何故私? …………もしかして、『次、引っ越す時は一緒に暮らそ?』的な意味で言ってたり? 今のマンション気に入ってるんだけどな)
愛らしい仕草と問い掛けに期待が膨らんだ。
「……紅さん家の事なのに、どうして私が出て来るんですか?」
「翠も使うでしょ、キッチン。ウチ来るなら」
首を傾げた彼女には、善意しかないのだろう。
針の先を当てられた風船のように期待は一瞬にして弾け飛んだが、彼女が私との親交を断つつもりは今の所ないという事がはっきりしただけでも収穫だ。
「…………紅さんの気持ちは伝わりました。……なんか、嬉しいだけじゃなくて……。これまで色々溜めてた汚い感情が、一気に浄化された感じでした」
「……ピアス、開けてないのに?」
「開けてないのに。でも、今更やめるとかないんで、儀式付き合ってくださいね。新しい私に生まれ変わるための儀式。ある意味、これも門出ですから、一番大切な人に立ち会ってもらわないと」
「立ち会う……だけ?」
「いえ、開けてほしいです。…………あ、紅さん。ピアッサーって、もう一個あります?」
「ううん、それ一つだけ」
「…………基本使い捨てじゃありませんでしたっけ? ピアッサーって。右耳に穴開けるのに使ったのを、左耳に使う事は出来ない……的な」
「あ」
彼女の口がぽかんと開いた隙に、キスをお見舞いした。
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