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鶯音を入る
第五十六夜
しおりを挟む「私、両耳に開けたいんですよね。ピアス。紅さんも両方に一つずつ開いてますし、ピアスお揃いにしても片っぽずつしか使えないとか寂しいじゃないですか。私、細かい所気になるから、左と右どっちかが重くてどっちか軽いっていうのも、絶対気になるでしょうし。……だから、絶対二つ。二つ同じタイミングで開けたいんです。後回しにするとか、今はとりあえずどっちかだけ開けるとかは嫌です。もう待てません」
「……エアコンは、待てるのに?」
彼女は右手のピアッサーを振った。
「エアコンは永久に待ってられますけど、装飾品と家電なら、装飾品の方が大事でしょう?」
「…………普通の人、逆じゃない?」
「…………普通の人、ですか。まあ……そうですね。普通の人……普通の人間の女なら、同じ国に生まれて、同じ種族の男を選ぶと思います。恋愛相手に。『中の上以上のスペック』って申告する人多そうですけど、実際には可もなく不可もなくって感じのフツメンを。……これも私の偏見ですけど、皆が考えてる普通も、この偏見と大差ないんじゃないかと思います。……私は紅さんを選んだんです。普通じゃ選ばないでしょう? 選ぶ度胸ないですよ。どう考えても格差ありすぎ。勿論、私が圧倒的に格下です。だから、なんにも不思議がる事じゃありません。家電より装飾品が大事な事も。…………他の人からしたら、くだらない事やどうしようもないものを優先したって良いんですよ。誰にだって、そういう……自由に生きる権利があります」
「翠にとって、普通の人にとって普通じゃない……のが普通、みたいな?」
「そうです。……わかってもらえたところで、買い物、付き合ってくれます? もう一つのピアッサー買いに。朝っぱらから独りで出歩くの寂しいんで」
彼女の誘い文句を真似て、流し目を使ってみる。たった今思い付いたにしては、我ながら洒落がきいているのではないだろうか。
「ん」
「良かった。ありがとうございます」
「…………今の、翠が初めて泊まった日のアタシみたい。ゴハン、誘ったでしょ。あの時の言い方、覚えてた?」
「いやいや。買い物の誘い方ごときに、個性も何もありませんって。誰が誘っても、さっきの私と似た感じになりますよ」
「そっか」
「………………本当は、初めて一緒に迎えた朝だけじゃなくて、初めて家に誘われた時に言われた事もオマージュしてたんですけど、そっちは気付かないんですね」
「え?」
「……ほら、早く行きましょう!」
顔を背けてさっさと立ち上がり、不機嫌アピールしたそばから恥ずかしくなって、立ち上がる気配のない彼女の手を引いた。
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