モヒート・モスキート・モヒート

片喰 一歌

文字の大きさ
185 / 226
鶯音を入る

第五十四夜

しおりを挟む

「『完璧に理解』、って…………。それ、どんなに好きでも、どんなに頑張っても……というか、どんなに勘の良い人でも絶対無理じゃないですか? ……どう捉えたら良いんですかね。紅さんが私の事をそれだけ買ってくれてる……って事だと思って、喜んでおくのが正解ですか?」

 彼女と出会って私に起きた変化は、大小含めれば、かなりの数にのぼるだろう。

 その中の一つが、わからない事は素直にわからないと言い、本人に直接尋ねる事なのではないかと思う。

「ん、アタシも思う。……けど、翠。わからない? アタシ、『ずっと一緒にいて』って言ったつもりなのに」

「ずっと…………一緒に…………?」

 何気ない問いが思わぬ形で返された。

「翠は、夏以外にもエアコン使う人?」

 ――――のみならず、阿呆みたいに鸚鵡返しする私に、彼女は更なる問いを投げかけてきた。
 
「? いえ。春と秋は言うまでもなくスイッチ入れつかわないですし、冬も……使ってホットカーペット位じゃないですかね。羽織り物にも出来る毛布被ったり、出掛けない日は布団に潜ってたりすれば、案外寒さもやり過ごせちゃいますし。……この家は隙間風凄そうなんで、そういう訳にも行かないかもしれませんけど」

「だよね」

「今のって、どういう意図での質問なんですか?」

「…………翠は、涼しくなったらエアコン使わなくなる。……よね?」

 魔女のような爪を乗せた指がピアッサーを指したのを確認した次の瞬間にも、ピアッサーは握り込まれて手の中に隠されてしまった。
 
 白くて、長方形で…………なるほど、かなり解像度を下げればエアコンに見えなくもないピアッサーを、彼女はエアコンに見立てたのだろう。

「はい。そう…………ですね? そういう風に言いましたね、私」

「それも、『あってもなくても、変わらない』じゃない? 届いて……置かれても、使わなかったら、ないのと同じだし」

 疑問符を浮かべつつ肯定したら、手の中のエアコン――――ではなくピアッサーが再び姿を現した。

 間違ってダブりで買ってしまったという、なんて事ない背景が脳裏を掠めた。

 必要になる時を引き出しの中で待機していたピアッサーと、必要な季節が巡るのを部屋の片隅で待機していたエアコンが重なダブる。

「……そう、ですね……?」

「…………翠。そばにいて、くれる?」
 
 彼女が私に手を差し出した。

 握手を求めているのではない。まして手を繋ぐためでもない。

 手のひらの上の新品のピアッサーを、私が受け取るかどうかで全てが決する事だけが、それだけが今この場で色好い返事たり得ると瞬時に理解した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

〈社会人百合〉アキとハル

みなはらつかさ
恋愛
 女の子拾いました――。  ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?  主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。  しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……? 絵:Novel AI

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

小さくなって寝ている先輩にキスをしようとしたら、バレて逆にキスをされてしまった話

穂鈴 えい
恋愛
ある日の放課後、部室に入ったわたしは、普段しっかりとした先輩が無防備な姿で眠っているのに気がついた。ひっそりと片思いを抱いている先輩にキスがしたくて縮小薬を飲んで100分の1サイズで近づくのだが、途中で気づかれてしまったわたしは、逆に先輩に弄ばれてしまい……。

とある高校の淫らで背徳的な日常

神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。 クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。 後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。 ノクターンとかにもある お気に入りをしてくれると喜ぶ。 感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。 してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。

憧れの先輩とイケナイ状況に!?

暗黒神ゼブラ
恋愛
今日私は憧れの先輩とご飯を食べに行くことになっちゃった!?

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

落ち込んでいたら綺麗なお姉さんにナンパされてお持ち帰りされた話

水無瀬雨音
恋愛
実家の花屋で働く璃子。落ち込んでいたら綺麗なお姉さんに花束をプレゼントされ……? 恋の始まりの話。

処理中です...