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鶯音を入る
第五十三夜
しおりを挟む「え、そうですか? 結構、冷静に分析出来てる方なんじゃないか……って、自分では思ってるんですけど」
「…………アタシは夜に独りでいるのが嫌い。でも、一緒にいてくれれば誰でも良い……とは思わない」
キスマークのごとく整った形の唇が動くのを、ただぼーっと眺めた。
――――自分の商品価値なんて、自分が一番知っている。
私は歪。私は出来損ない。普通に成れなかった、普通に慣れなかった、普通以下の人間。
私がこの特等席にいつまで座り続けられるかは、今後の私次第だ。
――――だが、私自身の価値を引き上げるための努力は今からだって出来る。
毎朝メイクをして、小さい方の目を大きい方と同じ大きさになるように細工して、少しの肌荒れはコンシーラーとファンデーションで誤魔化して、シェーディングとハイライトで別の場所に視線誘導して、少しでも良く見せるように。
これは誤魔化しじゃない。まして逃げでもない。立派な努力だ。他の誰のためでもない、大好きな紅さんのためですらない、私の鎧だ。
発言をする前にもう一度、唇を結んだ。メイクをしていなくても、人は鎧を着けられる。感情とは全く違う表情を作る事が出来る。
「え? それは……ほとんど誰だってそうですよね?」
――――わずかに言い淀んだのは、『私に声掛ける前は、誰彼構わず誘ってませんでした?』と言うのをすんでのところで踏みとどまったから。そのブレーキ分、返答が遅れてしまった。
前から気になっていたというのは本当だろうが、それならそうと、私の持つ何かがフックになったのなら、その時点で声を掛けてくれれば良かったではないか。
尤も、その主張は巨大なんてものではすまない超巨大ブーメランとなって、私に襲い掛かって来る事には違いないが。
(『夜に』っていうの、かなり重要かも。……元々、夜に独りにされる事が多くて、トラウマ化してるとか? 聞けばあっさり答えてくれるだろうけど、どうしてそんな事あっさり言えるのって位重い事情あったりするかもだし、聞くのはもう少し冷静に受け止められる余裕あるときにしよう)
「アタシ、翠の家にエアコンあってもなくても、今までみたいに呼び付けるつもり。…………だけど、『夜に独りでいたくないから』、呼ぼうとしてる訳じゃない。翠と一緒にいるのが好きだから、声掛けようって決めてるの。女心わかってなさすぎ。……アタシの事、完璧に理解出来るまでそばにいてくれないと、許さないから」
美しい唇が尖った。
怒りの成り損ないのような、そうでなければキスの催促じみた唇に私は何をすべきかと考えているうちに、意識して引き締めていた唇は緩み出していた。
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