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鶯音を入る
第七十八夜
しおりを挟む「…………翠?」
名を呼ぶ声に瞼をこじ開ける。
彼女が写真に集中しているのを良い事に甘えようと思ったのだが、どうやら先程の問い掛けは、私が返答しない事には次へ繋がらない類のものであったらしい。
「……あ、すみません。そうですね……。私は、人生で一番良い写真が撮れたんじゃないかと思います。……現時点では、ですけどね。これより良いツーショットを撮影する予定、今さっき入れたばっかりですし。これより良い写真になるのは、確定してるようなものですけどね。プロのカメラマンさんの腕前って、本当に凄いですし」
女王様の催促に応える形で、ありのままの感想を伝えた。
「紅さんはどうですか? ……何か、これを見た感想とかってあります?」
「翠とアタシが洗面所じゃない場所で並んでるトコ、新鮮……とか?」
「なるほど、それは確かに。普段、横並びになるのって、朝起きて歯磨いてる時……位しかないか。外歩いてる時『写真撮ろう』ってなりにくいタイプですもんね、お互い。……他にはないですか? もっとこう、純粋な評価というか……いや、さっきのも純粋な評価ではあると思うんですけど、よりポジティブなフィードバック……的なのがあれば、それもお伺いしたいというか」
「アタシも、大体同じ。……これより良い写真、撮ってもらおうね」
「はい、約束ですよ」
「……写真……で、満足出来る……かな」
消灯する前の段階の、暗くなり始めた画面に視線を落としたままの彼女が、私の耳が拾えるギリギリの声で呟いた。
「ええっと?」
「…………スタジオ貸し切って、カメラマンさん雇って、写真撮る……だけなら、法律が変わるの待たなくても良い。他の国行かなくても出来る。……けど、写真撮ったら、余計したくなっちゃうかな。翠と結婚」
「ヒュモスは結婚しないのに?」
「ん。アタシはヒュモスだけど、翠は人間だし。……人間は、するでしょ。結婚」
「まあ、そうですね。しない人間も、出来ない人間も、普通にいますけど」
「そっか」
「ええ。本当にしたくなったら、その時また考えれば良いんですよ。頭でっかちになっちゃったら、重くて身動き取れなくなっちゃうじゃないですか。とりあえず行動してみて、困り事が出て来た時に悩む位で良いんです。もしウェディングフォト擬きを撮ってみて、結婚したい気持ちが無視出来ない位に大きくなったら…………私達が結婚出来て、ここより私達に優しい国に行きましょう。頑張って、お金貯めて。そのために貯金が尽きるなら、どんと来いですよ。お金なんてまた貯めれば良いだけですし、最悪、貯まらなくたって良いじゃないですか。紅さんと、紅さんの子達と、私が生きて行けるだけのお金があれば良いんです。使うために稼ぐんですから。勿論、紅さんの子達のために出来るだけ沢山遺してあげたいとは思うんですけど」
「現実的だね」
「まあ、現実的の極みみたいなものですから。結婚も、結婚する事を選ぶ人も。……勿論、それだけじゃなくて、ワクワクする部分も大事ですけどね」
「ウェディングフォトとか、ウェディングドレスとか、お揃いのピアスとか?」
風に靡く髪を左手で右の耳に掛けた彼女は、ポートレートにして飾っておきたい位に美しかった。
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