モヒート・モスキート・モヒート

片喰 一歌

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鶯音を入る

第七十七夜

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「紅さんは、もしかして挙げたい派ですか? 挙げたい派……というか、結婚“式”にも憧れてる人…………だったりします? 確かに、結婚って結婚式の華やかなイメージありますよね。実際がどうかはさておき、明るくて、幸せなイメージです。薔薇色の人生のスタート、的な。……私達の門出を祝う進水式……のイメージで挙げてみるのは、面白いかもしれません。二人だけでする、結婚式の良いとこ取りした式みたいなのを」

 暗い気分を振り払おうとして、忙しなく口を動かした。

「…………どうかな。……前、アタシの事、人間と思ってる人に招待されて、出た事あるけど、不思議だった」

「……確かに? 起源はともかく、現代における結婚式と披露宴のセットって、色んな業界がタッグ組んで、継続的に儲けを出して行くために考案された、変な風習……? ……の一種……だとは思いますけど…………。不思議っていうのは、どの辺りが?」

「写真。小さい頃からの写真、いっぱい映されるでしょ。……アタシ達、写真撮る事ないし」

 彼女は簡潔かつ淡々と事実を述べて行く。

 子どもの事を話す時とは異なり、悲愴感はなかったが、そこから窺い知れるヒュモスの文化は、察するにあまりあった。

「なるほど。…………写真を撮りまくるかどうかは、国の情勢とか、各家庭の方針にもよる気がするんで、人類全体がそうだと思わないでほしいなあ、って気はしますけど…………。確かに不思議ですし、逆に言うとあれですよね。結婚式で使えるような小さい頃の写真がほとんどない人は、式を挙げる事に後ろ向きにならざるを得ない……というか。私ん家も、写真滅多に撮ってくれなかったから、入学式卒業式以外の写真殆どないですよ。アルバム一冊が余る枚数しかないとか、今思い出しても笑える。学校で撮ってもらった写真の方がずっと多いですし、友達と撮ったプリの方が何倍も多いです。…………とりあえず写真にしておけば、記憶からこぼれちゃった事も思い出せるきっかけになるのになあ……。まあ、わからない人には、一生わからない感慨ですよね」

「……寂しい?」

 私の顔を覗き込む彼女は、眉根を寄せていた。

 他人の為に悲しむ事の出来るこの人の傘に、私はなれるだろうか。

 苛烈なフラッシュや、容赦なく打ち付ける悲しみの豪雨から彼女を守るための傘に。
 
「いいえ。『そういう星の下に生まれた』だけの話です。現代風にそれを端的に表す言葉もありますけど、下品な気がするから、私は使いません。昔の写真がないのは……別にお揃いじゃないかもしれませんけど、『親との縁が薄い』って意味ではお揃いかもしれませんね? 私達。……でも、昔の写真が残ってるか残ってないかが全てじゃないでしょう。そういうもんじゃないですよ、人生って。運命って、予め決まってる訳じゃなくて、自分で選べるものですよ。手綱取って良いんです。私達は何も諦めなくて良い。大人になった今なら、自分で変えられる部分も多くなってる筈です。だから、過去を嘆くんじゃなくて、沢山思い出作って行ったら良いんじゃないですかね。特別な時も、そうじゃない時も…………あ。? 撮りたい時に撮れば良いと思います。幸い、今は重いカメラを持ち歩かなくても、スマホで簡単に撮影出来ますし! クオリティ重視するなら、ちゃんとしたカメラ買った方が満足行く仕上がりになると思いますけど。…………あ、紅さんは機械得意じゃないんでしたっけ。私、教えますし、自撮りも意外と得意なんで任せてください」

「色々ありがと、翠」

「こちらこそ。…………せっかくですし、一枚撮っておきましょうか。とっておきの一枚、ピアス開ける前の最後の。もっと寄って!」

 スマートフォンを構え、日傘の下で肩を寄せ合い撮影を行った。

(あ、耳たぶ見せるの忘れてる。……けど、スライドショーに使えそうなツーショットだし、まあ良いか。イベント事じゃなくても、撮りたい時に撮れば良いって言ったのは私だし)

「良いの撮れた?」

 撮ったばかりの写真を確認する彼女の、ココナッツの香りの髪に鼻を埋めた。
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