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《砂漠の秘宝と、快楽を記す遺跡へ》 ――触れ合いを石に刻んだ民の、失われた祈りとは?
第153話『封印区域、快楽の間へ』
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──石の扉が、ゆっくりと開いていく。
金属ではない。
木でもない。
香の沁み込んだ、滑らかな石灰質の巨大な扉。
それはまるで、長い眠りから目覚めるように、砂埃をまとう音を立てていた。
「ここが……《禁断の石室》」
リリシアの声は、いつもより張り詰めていた。
「ここには、記触師の中でも選ばれた者だけが入ることを許された空間……
かつて、癒しの最高技術が施された風俗施術室が、この奥に存在していたの」
「まさに“遺跡の本丸”か……」
流星がつぶやいたとき、扉の向こうから風が吹いた。
乾いて、温かく、だが微かに香るその風は、
人を迎えるために、長い時を経てなお生きている空気だった。
*
足を踏み入れた瞬間、空気の密度が変わった。
高天井、円形のホール。
天井には接触の姿勢を模した浮彫、壁面には香の調合法が刻まれ、
中央には――巨大な寝台と、それを囲む“石碑群”。
「これが、“快楽の間”……」
ミレーユが呟いた。
「ここは風俗院だった……?」
アリシアの問いに、リリシアが頷く。
「ええ。でも、ただの“施術室”じゃない。
ここは、“触れられた記憶”をその場で記録するための特別な施術空間だったの」
「記録しながら……癒す……?」
「そう。触れた温度、脈、相手の香り、
その人が施術中に発した無言の感情を、
石床と石壁が“そのまま刻んでいく”」
リリアが小声で呟く。
「全部……“肌と言葉のかわりに刻んだもの”なんだな……」
壁に手を触れたアリシアが、震える声で言った。
「これ……あったかい……」
それは石でありながら、
“ふれられたことのある石”だった。
肌の記憶、ぬくもり、重なった心拍。
無数の“快楽文字”が、その石に宿っていた。
「こっちの壁……見て」
流星が指差したのは、一際大きな記録群。
そこには、ひとつの長文が“施術中にそのまま綴られた記録”として残っていた。
「彼女が私の背に指を置いた瞬間、
私は世界の音が消えるのを感じた」
「香が流れ、私の心がほぐれていく。
言葉ではなく、ただその存在が、“おかえり”と言っていた」
「私はその時、初めて、
“ああ、自分は触れていい存在なのだ”と知った」
その言葉の一字一句が、香の粒で埋め尽くされていた。
「これ……この空間で“本当に触れられた人間の記録”だ」
リリシアは頷く。
「ここでは、“誰かにふれられた記憶”が、神聖な記録として扱われた。
触れることが信仰であり、癒すことが儀式であり、
施術とは、“その人の人生を一緒に抱きしめる行為”だった」
流星は、天井を見上げる。
そこに浮かぶ彫刻は、“抱擁”だった。
誰かを、そっと、でも確かに包み込む姿。
「……ここは、間違いなく“風俗”だ。
だけど、“神殿”でもある。
誰かが誰かを、ただ“大切に思った”って記録の、神殿だ」
*
やがて、遺跡を訪れた住民の一人が、恐る恐る石に触れた。
「……この石、誰かに“ありがとう”って言われてる……気がする……」
「“あたたかい”って……自分が、こんな感覚を持ってたなんて……」
感触再投影装置(メモリ・プレッサ)が起動し、
訪問者たちは“触れられた感情”を一つずつ受け取りはじめた。
涙が流れた。
手を握り返す者もいた。
しばらくそのまま、石に顔を寄せる者もいた。
記録は死んでいなかった。
それどころか、“今も生きて、今も癒していた”。
*
その夜、流星は最後に寝台のそばに立ち、そっと手を添えた。
すると、石床に薄く新しい波紋が広がった。
快楽文字で、こう刻まれていた。
「私は、誰かを癒したいと初めて願った男を、ここに見た」
「……お前、見てたのかよ」
流星は笑い、香袋をひとつ、寝台の枕元に置いた。
「また来るよ。ととのいに」
遺跡は、静かに香を返した。
金属ではない。
木でもない。
香の沁み込んだ、滑らかな石灰質の巨大な扉。
それはまるで、長い眠りから目覚めるように、砂埃をまとう音を立てていた。
「ここが……《禁断の石室》」
リリシアの声は、いつもより張り詰めていた。
「ここには、記触師の中でも選ばれた者だけが入ることを許された空間……
かつて、癒しの最高技術が施された風俗施術室が、この奥に存在していたの」
「まさに“遺跡の本丸”か……」
流星がつぶやいたとき、扉の向こうから風が吹いた。
乾いて、温かく、だが微かに香るその風は、
人を迎えるために、長い時を経てなお生きている空気だった。
*
足を踏み入れた瞬間、空気の密度が変わった。
高天井、円形のホール。
天井には接触の姿勢を模した浮彫、壁面には香の調合法が刻まれ、
中央には――巨大な寝台と、それを囲む“石碑群”。
「これが、“快楽の間”……」
ミレーユが呟いた。
「ここは風俗院だった……?」
アリシアの問いに、リリシアが頷く。
「ええ。でも、ただの“施術室”じゃない。
ここは、“触れられた記憶”をその場で記録するための特別な施術空間だったの」
「記録しながら……癒す……?」
「そう。触れた温度、脈、相手の香り、
その人が施術中に発した無言の感情を、
石床と石壁が“そのまま刻んでいく”」
リリアが小声で呟く。
「全部……“肌と言葉のかわりに刻んだもの”なんだな……」
壁に手を触れたアリシアが、震える声で言った。
「これ……あったかい……」
それは石でありながら、
“ふれられたことのある石”だった。
肌の記憶、ぬくもり、重なった心拍。
無数の“快楽文字”が、その石に宿っていた。
「こっちの壁……見て」
流星が指差したのは、一際大きな記録群。
そこには、ひとつの長文が“施術中にそのまま綴られた記録”として残っていた。
「彼女が私の背に指を置いた瞬間、
私は世界の音が消えるのを感じた」
「香が流れ、私の心がほぐれていく。
言葉ではなく、ただその存在が、“おかえり”と言っていた」
「私はその時、初めて、
“ああ、自分は触れていい存在なのだ”と知った」
その言葉の一字一句が、香の粒で埋め尽くされていた。
「これ……この空間で“本当に触れられた人間の記録”だ」
リリシアは頷く。
「ここでは、“誰かにふれられた記憶”が、神聖な記録として扱われた。
触れることが信仰であり、癒すことが儀式であり、
施術とは、“その人の人生を一緒に抱きしめる行為”だった」
流星は、天井を見上げる。
そこに浮かぶ彫刻は、“抱擁”だった。
誰かを、そっと、でも確かに包み込む姿。
「……ここは、間違いなく“風俗”だ。
だけど、“神殿”でもある。
誰かが誰かを、ただ“大切に思った”って記録の、神殿だ」
*
やがて、遺跡を訪れた住民の一人が、恐る恐る石に触れた。
「……この石、誰かに“ありがとう”って言われてる……気がする……」
「“あたたかい”って……自分が、こんな感覚を持ってたなんて……」
感触再投影装置(メモリ・プレッサ)が起動し、
訪問者たちは“触れられた感情”を一つずつ受け取りはじめた。
涙が流れた。
手を握り返す者もいた。
しばらくそのまま、石に顔を寄せる者もいた。
記録は死んでいなかった。
それどころか、“今も生きて、今も癒していた”。
*
その夜、流星は最後に寝台のそばに立ち、そっと手を添えた。
すると、石床に薄く新しい波紋が広がった。
快楽文字で、こう刻まれていた。
「私は、誰かを癒したいと初めて願った男を、ここに見た」
「……お前、見てたのかよ」
流星は笑い、香袋をひとつ、寝台の枕元に置いた。
「また来るよ。ととのいに」
遺跡は、静かに香を返した。
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