異世界風俗❤『異世界転生したら風俗店こそが癒しの最前線だった件~俺は冒険して稼ぎ、全力で愛され、そして搾られる~』

本能寺から始める常陸之介寛浩

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《砂漠の秘宝と、快楽を記す遺跡へ》 ――触れ合いを石に刻んだ民の、失われた祈りとは?

第152話『石に刻まれた“だいじょうぶ”──記録風俗の民』

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 乾いた風が、遺跡《ザハル=ネファシュ》の地下へと吹き込む。

 石壁に刻まれた文字は、ただの記録ではない。
 それは“誰かが誰かにふれた記憶”そのものだった。

 ふれる──
 ぬくもりが、相手に残った瞬間。
 言葉にできなかった愛情。
 癒しが香となって染み込んだ一瞬。

 そのすべてが、“快楽文字(エクスタ文)”として石に刻まれていた。

 *

「……あなたたちが想像しているよりずっと、この遺跡は“人の記憶”でできてるのよ」

 遺跡案内人であり《記触師(きしょくし)》の末裔・リリシアが言った。

「記触師って……ただの石職人じゃないんだな」

 流星がつぶやく。

「ええ。私たちは、“触れられた記憶”を読み取り、それを石に書き残すの。
 たとえば、誰かの背中を撫でたときの手の温度。
 手を握られたときの脈の高鳴り。
 好きだと言われて、頬に触れた瞬間に流れた涙──
 そういう“ぬくもり”を、文字にする」

「……すげぇな」

 流星が見上げた石板には、淡い線が刻まれていた。
 まるで心電図のような律動。

「これは?」

「“あの日、あなたの手を握ったとき、私は自分の心臓がまだ動いてると知った”──
 という記録」

「……言葉で読むより、刺さるな」

「それが快楽文字。“触れた感情の記録術”よ」

 *

 その遺跡内に、特殊な装置があった。

 《感触再投影台(メモリ・プレッサ)》──
 快楽文字に触れることで、過去の“ふれた感覚”を一時的に追体験できる装置だった。

 リリシアが装置に手をかざす。

「ここには、初代記触師が刻んだ最初の“だいじょうぶ”が記録されてる」

「“だいじょうぶ”……?」

「うん。“言葉にできなかった愛情”を、手の温もりだけで伝えたときの記録」

 流星が試しに装置に手をのせた。

 ──一瞬、身体が揺れた。

 胸に、じんわりとした感覚。
 背中を支えられたようなぬくもり。
 頬に伝う涙が、誰かにそっとぬぐわれたような感覚。

 そして、耳元にささやくように響いた“言葉にならない声”。

「……だいじょうぶ、って……こういうことかよ……」

 気づけば、彼の手は震えていた。

「心が、思い出すんだよ……これ……“触れられたこと”を……」

 リリアが背後で、静かに手を握る。

「香で記憶を呼び起こす都市は多い。でも、この遺跡では違う。
 ここでは、“香を記録する”んじゃなくて、“ふれた記憶を刻む”の」

「……それが、癒しだったんだな。
 誰かと触れ合って、たった一言、言えなかった“ありがとう”や“いてくれてよかった”が、
 この石に残されてる……」

「うん。だからこの遺跡は、“風俗遺跡”じゃない。
 ここは、“誰かが誰かを大切に思った証”の集積よ」

 流星は、深く頷いた。

「わかったよ。この石たちは、祈りだ」

 *

 その夜。

 市内から集まった調査団や住民たちが、
 試験的に“記録石”に触れていく企画が始まった。

「なんだか……あったかい」

「これ……“あの人”に頭を撫でられたときと、同じ気持ち……」

「……ううっ……誰かが、自分を想ってくれた気がする……」

 涙を流す者もいた。
 笑う者もいた。
 何も言わずに、その石にずっと触れたままの者もいた。

 ぬくもりが、心をほぐしていく。

 “記録風俗の民”の遺した石碑たちは、
 今もなお、誰かの“だいじょうぶ”を届け続けていた。

 *

 そして流星は、ある小さな石碑の前に立つ。

 そこにはこう記されていた。

「あなたに手を握られた夜、
 私は、泣くことを許された」

 その快楽文字の曲線に、
 まるで“その瞬間の手のやさしさ”が、今も宿っているようだった。

 流星は、そっと目を閉じた。

「また、ひとつ……“ととのう場所”が増えちまったな」
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