『おしっこパニックで恋が始まる!?』

本能寺から始める常陸之介寛浩

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『癒しとは──膀胱との闘いの果てにあるもの』

第165話『それぞれの我慢スタイル』

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 車内には、静けさがあった。
 それは決して穏やかでも、落ち着いた空気でもなく──
 尿意に支配された、極限の「沈黙」であった。

「……」

「…………」

「………………」

 がたん、と車体がわずかに揺れるたび、全員の眉間がぴくりと動く。

 窓の外、動かぬ車列。
 渋滞30kmの情報が流れてから、もう30分が経過した。
 ……が、バスは5台分ほどしか進んでいない。

「ねぇ……これ……永遠に着かないんじゃない?」

 ミキが恐怖に染まった声でつぶやいた。

「いや、着くよ。きっと。たぶん。きっと……」

 ハルカはその場で座禅を組み、ひたすら拳を握り締めていた。

 目は閉じ、呼吸は深く、まるで修行僧のような姿。

「……排尿感とは、ただの脳の誤作動……錯覚……意識しなければ存在しない……」

「こわっ! すでに精神世界に行ってるじゃん!」

 一方、ナナはイヤホンを装着し、スマホで音楽を流していた。

「意識を……意識を逸らせば……」

 しかし、彼女の選曲が大問題だった。

 ♪ざざーん……ちゃぽん……しとしと……

「波の音!?」「水音!?」「お風呂の環境音!?」「何考えてんの!?」

「えっ!? だって“癒しプレイリスト”ってあったから……!」

「逆だよ!? 尿意にとっての破壊プレイリストだよそれ!!!」

 ナナは耳からイヤホンを引きちぎるように外し、涙目で「やばい……むしろ圧が来た……」と震えていた。

「……みんな、わざと自爆してるの?」

 静かに冷静な声が響く。

 ──そう、唯一、落ち着いているように見える少女。サバナ。

「わたし……思うんだけどさ」

「うん」

「このバス、止まってるなら、降りればいいじゃん?」

「……え?」

「草むら、あるよね?」

「で、でも車いっぱいだし……」

「車がいっぱいでも、草はあるよ」

「……」

「そう、草は、あるよ……!」

「だから、野ション理論やめてええええ!!!」

 即座に全員からの突撃阻止が入る。

「だって私たち、草原の民だよ!? 祖先の魂が呼んでるの!」

「ここ、関越道だよ!! 草原じゃないの!!」

「ねぇレイナ、あんた止めてよ!!」

「ふふっ……私も、準備はできてる」

「なっ……!?」

 レイナが、にやっと笑う。

 バッグから取り出したのは──
 またしても見覚えのある、立ちショングッズであった。

「最新版はよりコンパクトで、高性能なんだって!」

「アタシ、今回の旅のために取り寄せたんだから!」

「やめて!!!!!」

 ハルカの声が震える。

「もうそれ、青春の破壊兵器なの!!」

「絶対に使うな!ここで使うな!!」

「でもさ、使えば問題解決だし?」

「違う問題が発生するんだよ!!!」

「ねぇ、誰か止めて!? この旅、すでに癒しの“い”もないから!!」

「じゃあ名前変えようぜ、『温泉地獄編』で」

「やめろぉぉぉぉぉ!!!」

 混乱、混乱、混乱の車内。
 尿意に支配され、理性は崩壊の一途を辿る。

 ふと、エミリがポツリとつぶやいた。

「次のサービスエリアまでは、あと8km……この車速なら……残り90分程度」

「え、マジで死ぬ」

「なんでそういう時だけ数学的に分析すんの!?」

「……でも、頑張ろう。みんなで」

 ハルカがゆっくりと目を開けた。
 その瞳はまるで“おしっこ仙人”のごとく澄んでいた。

「わたしたちは、もう子供じゃない。社会人なんだ」

「膀胱に、勝てる」

「……勝てるのか?」

「勝つしかない」

「うん……うん……」

 バスの車内で、尿意に震える社会人女子たちが、今、心を一つにする──!

(なお、このあとレイナが“立ちショングッズを膝に装着しようとしてまた騒動”が起き、結局バスの運転手に注意されるのだった)

 つづく。

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