『おしっこパニックで恋が始まる!?』

本能寺から始める常陸之介寛浩

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『温泉トラブルと、心のおしっこ我慢合宿!?』

第172話『深夜のおしっこシフト会議』

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「……で、何時に誰が行く?」

 その一言が、温泉旅館の畳部屋を、戦場に変えた。

 寝巻き姿で布団に横たわっていた一同が、一斉に起き上がる。
 頭にはタオル、頬には火照り、手にはペットボトルの水。
 ──そして、膀胱にはすでに、それなりの圧。

「ちょっと待って、今なんて言った? ケントのことじゃなくて?」

「ちがう。トイレの話」

 ハルカが、真顔でそう言った。

 すぐ横で布団にもぐっていたナナが、しぶしぶ顔を出す。

「うそでしょ……女子旅で、深夜に“おしっこ当番会議”?」

「でもさー、現実問題として──」

 レイナが、ごろりと横になったまま手を挙げる。

「この旅館さ、トイレ2個しかなくない? 1階に洋式、2階に和式」

「……つまり、深夜に目が覚めてトイレ行こうと思ったら、どっちかに並ばなきゃいけないってこと」

 エミリが冷静に状況を整理する。
 その顔はまるで、世界の終焉を目前にした科学者のようだ。

「寝てる間に漏らしたら最悪じゃん。大人として」

「でもトイレ行きたいって何回も起きるのも最悪じゃん。大人として」

 ミキとサバナが交互にうなずく。

 やがて──静かにサバナが、深く息を吐いた。

「……アタシ、寝ションだけは……避けたい……」

「……わかる」

 一同、即答。

「寝ションっていう言葉、久々に聞いたけどなんか……刺さるよね」

「夢の中でトイレ行ってる夢見て、漏らしてた時期、あったなぁ……」

 ミキが遠い目をして呟くと、ナナがうつ伏せで枕に顔を押し付けた。

「ううう、やめてー! 思い出すー!」

 その流れに乗って、突如始まる“トイレあるある懺悔大会”──

「夢でね、ドア開けて、トイレ入って、座って──そのときは気持ちよかったんだよ……」

「で、起きたら冷たいのよ、布団が……」

「わかりみ深すぎて泣ける」

「いや泣いてる場合じゃなくない!? 今ここで、その未来がまた来るかもしれないのよ!?」

 レイナが、掛け布団の上から叫ぶ。

「ってことは、我々は今こそ、“順番を決める”べき時に来ている!」

「えっ、なに、順番って……」

「深夜のトイレタイム、事前申告制にするの」

「うわああああ……現実すぎる……」

 エミリがすでにメモ帳を取り出していた。

「23時、ナナ。1時、ミキ。3時、私。5時、ハルカ。予備枠にサバナとレイナ」

「ちょ、予備枠って何よ!?」

「予定外の膀胱異常発生対応です」

「……なんか理にかなってて悔しい」

 ◆ ◆ ◆

 部屋の隅で、サバナがこっそりエミリに耳打ちする。

「ぶっちゃけさ、これってさ……“我慢できるか合宿”だよね?」

「違います。“漏らさず大人でいる合宿”です」

「ふーん……でも、アタシ絶対途中で起きる気がするな……」

「その場合は、バスローブに尻尾を付ける罰ゲームを課しましょうか?」

「なんで尻尾!?」

「羞恥心で膀胱が覚醒します」

 サイエンスでは解決できない青春が、そこにあった。

 ◆ ◆ ◆

 その後──

 最終的に深夜トイレシフト表はホワイトボードに記入され、
 トイレへ向かうルートに“ぬかるまないようタオル敷き”がされ、
 さらには「寝ション絶対阻止」ポスターまで貼られる事態に。

「これ、青春なのかな……」

「いや、戦いだよ。自分とのな」

 ハルカは、遠い目で満月を見上げながらつぶやいた。

(──それでも、漏らさなかったら勝ち。
 そう思えるうちは、私たち、まだ青春できる)

 それぞれが己の膀胱を信じて布団に入る──
 “心のおしっこシフト会議”は、こうして幕を閉じたのだった。

(つづく)

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