『おしっこパニックで恋が始まる!?』

本能寺から始める常陸之介寛浩

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『出張は戦場!ラブもトイレも逃さない』

第191話『誰かの部屋で、膀胱反省会』

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「いやほんと……今日は、心も膀胱も限界だった」

 ハルカがそう呟いたとき、ホテルの一室では、仕事終わりの女子たちがスーツを脱ぎ捨て、バスローブやジャージ姿でぐったりとソファに沈んでいた。夜の懇親会を終えた彼女たちは、それぞれの部屋に分かれるでもなく、自然と一つの部屋──ナナの宿泊するツインルームに集まっていた。

 「てか、なんで部屋にトイレも風呂もひとつしかないの? 昭和の合宿所かよ……」

 ミキが不満を口にするも、誰も反論できなかった。風呂はユニットバス、トイレもそこにひとつ。つまり、お風呂とトイレは同時使用不可能という、絶望的な構造。

 「アタシ先に入っちゃうから!」

 ミキが真っ先にバスルームに飛び込むと、残されたハルカとナナは顔を見合わせた。

 「……あの子、酒入るとマジで遠慮なくなるよね」

 「いつものことだけどね」

 ハルカはベッドに腰かけ、冷えた足先をもぞもぞと動かす。座ってしまうと、途端に“トイレのこと”が脳裏にちらつく。

 (順番待ち……たぶん20分はあるな)

 そんなことを考えていた時だった。

 「ねえ、ハルカ」

 ナナが、静かに声をかけた。

 「今日さ、ケントくんに話しかけられたでしょ」

 ドクン、と心臓が跳ねる。

 「見てたの?」

 「うん。ていうか、あんなの誰でも気づくよ。ケントくん、明らかに君のこと……」

 そこまで言って、ナナは一呼吸おいた。

 「……まだ、気になってるよ。私、そう思う」

 ハルカは何も言えなかった。ただ黙って、視線を膝に落とした。

 ナナは笑っていた。少し、だけど寂しそうに。

 「高校のとき、わたし一度、ケントくんに告白しようとしてたんだ」

 「えっ……」

 「でも、できなかった。だって、いつも君の隣にいたから。ケントくんじゃなくて、君が気になってたのかもって、一時期は思ったくらい」

 ハルカは、目を見開いた。

 「ナナ……?」

 「でも、今日確信したの。私、本気でケントくんのことが好きなんだなって」

 乾いた空気の中で、ナナの声だけが真っ直ぐ響いた。

 「だから、ハルカ。もし、君がもうケントくんのこと……何とも思ってないなら、ちゃんと応援してほしい」

 その言葉が、胸に突き刺さる。

 何とも思ってない?

 そんなわけがない。

 昼の会議、あの緊張感。夜の懇親会、彼が名指しで声をかけてきたあの瞬間。心臓が痛くなるほど高鳴ったのに。

 「……それは、私にも言わせてよ」

 ハルカの声が震えていた。

 「私だって、好きだった。今も、わかんない。気持ちの整理なんてついてない。でも、ただ応援してって言われても……」

 そこまで言って、ぐっと唇を噛む。

 「私の青春、まだ終わってないんだよ」

 ナナはゆっくりと立ち上がり、ハルカの前に膝をつくと、真正面から見つめた。

 「うん。それでいい。アタシたち、ちゃんと正々堂々やろう。もう“トイレの順番”みたいに、気まずく譲り合うの、やめようよ」

 その言葉に、ハルカはふっと笑った。

 「例えが最低だけど、すっごいわかる」

 笑い声が漏れた瞬間、バスルームの扉がガチャリと開く。

 「終わった~! 今、めっちゃスッキリしてる~~!」

 髪にタオルを巻いたミキが現れたその瞬間、二人の空気がピタリと止まり、ミキは一瞬で察した。

 「……え? なんか修羅場ってた?」

 「いや、青春してただけだよ」

 ハルカとナナは、顔を見合わせて、そして小さく笑った。

 夜はまだ長い。
 だけど、彼女たちの“順番”は、きっと誰かが譲るものじゃない。自分でつかみに行くものだ。

 ──トイレも、恋も、譲れない夜が始まった。
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