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『出張は戦場!ラブもトイレも逃さない』
第193話『朝の大浴場と、絶望の距離』
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朝霧がまだ残る窓辺に、浴衣の袖がふわりと揺れた。
チェックアウト前、最後の癒しを──ということで女子たちは宿の大浴場へと足を運んでいた。
旅の疲れを落とす湯。だが、彼女たちはまだ気づいていなかった。
それが“第二の戦場”であることを。
「やばい……やばいやばいやばい……」
洗い場の隅、ミキが小さく膝を抱えて揺れている。湯気に包まれたその横で、ナナがひとつ、深いため息をついた。
「ねえ……なんで……なんでトイレが脱衣所の外なの……?」
そう、まさにそれが罠だった。脱衣所の入り口を出て左手。大浴場とは完全に隔絶されたその場所は、つまり「全裸では行けないトイレ」である。
「えっ、入浴前に行けってこと? そんなの聞いてない……!」
昨日の飲み会で膀胱にダメージを受けた彼女たちには、時間との戦いが始まっていた。
「い、今すぐ出る? でも帯が……」
ミキは腰に手を伸ばすが──
「解けない!? 何これ、なんで昨日と結び方違うの!?!?」
「誰だよ“おしゃれ浴衣結び”とか言い出したの!!!」
二人の絶叫が湯気に溶けて響く中、ハルカはひとり、少し離れた洗い場でシャワーを止め、静かに息をついた。
(ほんと……騒がしいな、このメンバー)
でも、そんな空気が嫌いじゃなかった。いや、むしろ──
(この感じ、懐かしい……)
湯船にそっと足を入れる。あたたかさが肌にじんわり染み込む感覚。
そしてその奥、脱衣所でタオルを畳んでいたケントの姿が、一瞬フラッシュバックした。
──髪を整えながら、さりげなくバスマットを直していた。
──誰かが落としたシャンプーのボトルを拾っていた。
──そして、女子の声が響く方向に、視線を向けては照れたようにそっと目をそらしていた。
(あれ、多分……わたしたちが見えないと思ってやってるんだ)
誰にも見せびらかすことのない、ささやかな所作。
あれが、あの人の“優しさ”なんだ。
(ケントって……そういうとこ、ずるいよ)
胸の奥が、きゅっと音を立てた気がした。
恋だ、と確信するにはまだ幼すぎて。
でも、ただの友達じゃいられないと気づくには、十分すぎる感情。
「ちょっとハルカァァァァァ!!!! なんとかしてぇぇぇ!!!」
大浴場の隅で、ナナが帯と格闘しながら涙目で叫ぶ。
まるでドラマのクライマックスみたいに、水しぶきの向こうで彼女の顔がスローモーションになる。
「あと少しで解けそうなのに! でもトイレも秒読みなんですけど!?」
「ミキがもう限界超えてる顔してるんだけど!?」
──この修羅場の中でも、ハルカの中にある想いは静かに続いていた。
(ねぇ、ケント。あたし、きっとまだ──)
「解けた!!! あ、でも待って、バスタオルないっ!!」
「やばい、タオル、誰かっ!!」
悲鳴にまぎれて、ハルカはタオルを片手に駆け出す。
「もうっ、あんたたちほんと、騒がしすぎ──!」
そう言いながらも、顔はどこか緩んでいた。
浴場の天井から差し込む朝の光が、そんな彼女たちの姿を柔らかく包み込んでいた。
──そう、青春は、尿意すらも恋の燃料にする。
チェックアウト前、最後の癒しを──ということで女子たちは宿の大浴場へと足を運んでいた。
旅の疲れを落とす湯。だが、彼女たちはまだ気づいていなかった。
それが“第二の戦場”であることを。
「やばい……やばいやばいやばい……」
洗い場の隅、ミキが小さく膝を抱えて揺れている。湯気に包まれたその横で、ナナがひとつ、深いため息をついた。
「ねえ……なんで……なんでトイレが脱衣所の外なの……?」
そう、まさにそれが罠だった。脱衣所の入り口を出て左手。大浴場とは完全に隔絶されたその場所は、つまり「全裸では行けないトイレ」である。
「えっ、入浴前に行けってこと? そんなの聞いてない……!」
昨日の飲み会で膀胱にダメージを受けた彼女たちには、時間との戦いが始まっていた。
「い、今すぐ出る? でも帯が……」
ミキは腰に手を伸ばすが──
「解けない!? 何これ、なんで昨日と結び方違うの!?!?」
「誰だよ“おしゃれ浴衣結び”とか言い出したの!!!」
二人の絶叫が湯気に溶けて響く中、ハルカはひとり、少し離れた洗い場でシャワーを止め、静かに息をついた。
(ほんと……騒がしいな、このメンバー)
でも、そんな空気が嫌いじゃなかった。いや、むしろ──
(この感じ、懐かしい……)
湯船にそっと足を入れる。あたたかさが肌にじんわり染み込む感覚。
そしてその奥、脱衣所でタオルを畳んでいたケントの姿が、一瞬フラッシュバックした。
──髪を整えながら、さりげなくバスマットを直していた。
──誰かが落としたシャンプーのボトルを拾っていた。
──そして、女子の声が響く方向に、視線を向けては照れたようにそっと目をそらしていた。
(あれ、多分……わたしたちが見えないと思ってやってるんだ)
誰にも見せびらかすことのない、ささやかな所作。
あれが、あの人の“優しさ”なんだ。
(ケントって……そういうとこ、ずるいよ)
胸の奥が、きゅっと音を立てた気がした。
恋だ、と確信するにはまだ幼すぎて。
でも、ただの友達じゃいられないと気づくには、十分すぎる感情。
「ちょっとハルカァァァァァ!!!! なんとかしてぇぇぇ!!!」
大浴場の隅で、ナナが帯と格闘しながら涙目で叫ぶ。
まるでドラマのクライマックスみたいに、水しぶきの向こうで彼女の顔がスローモーションになる。
「あと少しで解けそうなのに! でもトイレも秒読みなんですけど!?」
「ミキがもう限界超えてる顔してるんだけど!?」
──この修羅場の中でも、ハルカの中にある想いは静かに続いていた。
(ねぇ、ケント。あたし、きっとまだ──)
「解けた!!! あ、でも待って、バスタオルないっ!!」
「やばい、タオル、誰かっ!!」
悲鳴にまぎれて、ハルカはタオルを片手に駆け出す。
「もうっ、あんたたちほんと、騒がしすぎ──!」
そう言いながらも、顔はどこか緩んでいた。
浴場の天井から差し込む朝の光が、そんな彼女たちの姿を柔らかく包み込んでいた。
──そう、青春は、尿意すらも恋の燃料にする。
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