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62話 両軍激突……!?
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国都から3日の距離のところで軍がにらみ合う。
味方は増えて7千。
敵も増えて5万。
正直、軍と軍がぶつかりあう戦闘なんて私にはまったくわからない。
けど7千と5万がぶつかり合えばどうなるか。それくらいは分かる。
考え方を変えたところで、こちらの惨敗。
しかも相手は正面と左から攻めてくるから、その負けは加速度的に真実味を帯びてくる。
本当。なんでこんなことになっちゃったんだっけ。
どれもこれも。ガーヒルがぴんしゃか跳ねまわって調子に乗ってるから。そういうことにしよう。うん。責任転嫁は大事よね。そうやって人は心の平穏を得るの。
ほら。ストレスってお肌に悪いし? しっかり発散しないと、これでも年頃の女の子なんだもの。ね?
「あら、止まったわね」
「おそらくこっちが何もしないのを不思議に思ったのでしょう」
「ああ。こんな兵力差があるのに、ただ待ってるみたいで、不気味に思えるんだろうよ」
「不気味、ね。うふふ。何もないのに」
「お、おい。エリよぉ。本当なのか? 本当に俺たちは勝ってるってのか?」
「ええ、そうだけど?」
「何の疑いもなく言い切るけどよぉ……」
「エリーゼ様。残念ですが私も同意見です。このような知能の欠片もない犬と意見を同じにするのは不覚にして屈辱ですが」
「てめぇ、誰が犬だって? 表出ろや!」
「ふっ。ここが表じゃないなら、お前の言う表とはどこなのかな? お前の世界の常識を、私たちのような常識人に押し付けないでもらおうか。耳が腐る」
「俺の声は毒物か!」
「理解していなかったのか? ああ、エリーゼ様。このような者に近寄るのはおよしください。貴女の綺麗なお耳が汚れます」
「じゃあてめぇは目が腐れ!」
「はいはい。いい加減にしなさい。不安なのはわかるから」
「違います!」「不安じゃねぇし!」
2人が異口同音に反発してくる。やっぱり不安なんじゃない。
ま、いいけど。
それはたぶん、ここにいる誰もが思っていること。
誰しも死ぬのが怖い。
だから殺し合いなんてしたくもないし、参加したくもない。
それでも人間には根本的に死というものに毒されている。死を見ることに高揚を覚える。
平和な日本でも一歩裏へ入れば死と暴力に取りつかれた暗黒というものは常にある。会員制のとあるクラブなんてものがあって、そこではどれほど死と暴力と退廃の饗宴が密やかに行われているもの。
え? なんで知ってるのかって?
……もちろん、聞いたからですわ。前パパのところには“そういった類”の招待状は腐るほどやってきて、それがどういったものかは前パパから聞いてはいた。
当然、私はそんな恐ろしくて反吐が出るような場所にはいきませんとも。ええ、前パパも同様です。そんな私を人でなしでろくでなしで甲斐性なしの、安全な場所からただ死を見るだけで満悦するような下等生物と一緒にしないでくださります?
というわけで。何の話でしたっけ?
まぁいいですわ。なにが起きようとも、ここにいる以上は私は当事者。死を意識しなければならない者。
だからこそ、その者が持つ責任は、そしてそれを果たした後の効果は。唸るほどに大きい。
「敵来ます!」
兵が震える声で叫ぶ。
確かに前から、そして左手から黒い塊がうごめくようにこちらに来る。
あれが私たちを殺しにやってくる死神の鎌だとするなら、ええ、確かに並みの女性なら卒倒してしまうでしょう。いえ、ここにいる兵たちの大半は農民。今、まさに倒れてしまうのではないかというほどに呼吸の荒い人がいる。
私?
ふふ。まさかそんなことを表に出す人だと思って?
「皆さん、我慢しましょう。勝利はもうすぐですわ」
優雅に、煌びやかに語り掛けるように伝える。
「そうだ! エリーゼ様は嘘をおっしゃらない! ここで敵が来るのをま、待つのだ!」
クロイツェルが叫ぶ。彼も恐怖を紛らわしたかったのだろう。語尾が震えていた。
そう。大丈夫。勝てる。きっと。いえ、絶対。
先日、アーニィが戻ってきたということは、間に合ったということ。
だからここで。まだ? 嘘? 騙された? いえ、それでも。
睨みつけるように、敵の集団を凝視する。
もうすぐ敵の1人1人の顔が見えるくらいの位置。
絶望。
ならなかった。私の謀。
間違った。ミスった。私としたことが。こうなったら死ぬしか……死ぬ。私が。ふふ。おかしいわよね。私はもう一度死んでるというのに。死を怖がるなんて。
いえ、人間、何度目だろうと死ぬのは怖い。嫌なものは嫌。
だからこの私の感情は間違っていない。それでいて、人間だれしもが持つ命の根源。
そして――
「――え?」
敵が止まった。
ほんの100メートルほど先。そこで完全に停止した。幻覚じゃない。見間違いじゃない。こちらに向かう足が完全に止まっている。
何があったか。
何が起きたか。
何もわからないまま、兵たちは呆然としている。
聞くまでもないわ。
私の策が成った。それだけ。
だから次に起こるのはもう当然のこと。
「て、敵、後退、い、いえ! 撤退していきます!」
その言葉に、誰もが唖然としてそのさまを見守るしかない。
その中で私はこの長くつらい戦いの日々に、決着がついたのだと感じていた。
だからこれは凱歌よ。
私による、私のための。この世界における勝利宣言。
「敵は我らに恐れをなして逃げ出したわ! 勝どきをあげなさい!」
戸惑い、そこから湧き出る勝利――生存への喜び。
それが兵たちの間で爆発した。
何もわからず、クロイツェルとダウンゼンも抱き合っている(十秒後に我に返って殴り合いになったけど)。
そして兵たちもひとしきり生きる喜びを分かち合い、そしてその熱は私へと向けられた。
「カシュトルゼ様のお言葉通りだ!」「エリーゼ様は救世手に違いない!」「エリーゼ様、万歳!!」「万歳! 万歳!」
勝った。
この世界。この環境。
それに私は勝った。パパ。見てる。私はこうやって生きていく。あなたの教えを守りながら、この腐った世界を。
ぶち壊して生きていく。
味方は増えて7千。
敵も増えて5万。
正直、軍と軍がぶつかりあう戦闘なんて私にはまったくわからない。
けど7千と5万がぶつかり合えばどうなるか。それくらいは分かる。
考え方を変えたところで、こちらの惨敗。
しかも相手は正面と左から攻めてくるから、その負けは加速度的に真実味を帯びてくる。
本当。なんでこんなことになっちゃったんだっけ。
どれもこれも。ガーヒルがぴんしゃか跳ねまわって調子に乗ってるから。そういうことにしよう。うん。責任転嫁は大事よね。そうやって人は心の平穏を得るの。
ほら。ストレスってお肌に悪いし? しっかり発散しないと、これでも年頃の女の子なんだもの。ね?
「あら、止まったわね」
「おそらくこっちが何もしないのを不思議に思ったのでしょう」
「ああ。こんな兵力差があるのに、ただ待ってるみたいで、不気味に思えるんだろうよ」
「不気味、ね。うふふ。何もないのに」
「お、おい。エリよぉ。本当なのか? 本当に俺たちは勝ってるってのか?」
「ええ、そうだけど?」
「何の疑いもなく言い切るけどよぉ……」
「エリーゼ様。残念ですが私も同意見です。このような知能の欠片もない犬と意見を同じにするのは不覚にして屈辱ですが」
「てめぇ、誰が犬だって? 表出ろや!」
「ふっ。ここが表じゃないなら、お前の言う表とはどこなのかな? お前の世界の常識を、私たちのような常識人に押し付けないでもらおうか。耳が腐る」
「俺の声は毒物か!」
「理解していなかったのか? ああ、エリーゼ様。このような者に近寄るのはおよしください。貴女の綺麗なお耳が汚れます」
「じゃあてめぇは目が腐れ!」
「はいはい。いい加減にしなさい。不安なのはわかるから」
「違います!」「不安じゃねぇし!」
2人が異口同音に反発してくる。やっぱり不安なんじゃない。
ま、いいけど。
それはたぶん、ここにいる誰もが思っていること。
誰しも死ぬのが怖い。
だから殺し合いなんてしたくもないし、参加したくもない。
それでも人間には根本的に死というものに毒されている。死を見ることに高揚を覚える。
平和な日本でも一歩裏へ入れば死と暴力に取りつかれた暗黒というものは常にある。会員制のとあるクラブなんてものがあって、そこではどれほど死と暴力と退廃の饗宴が密やかに行われているもの。
え? なんで知ってるのかって?
……もちろん、聞いたからですわ。前パパのところには“そういった類”の招待状は腐るほどやってきて、それがどういったものかは前パパから聞いてはいた。
当然、私はそんな恐ろしくて反吐が出るような場所にはいきませんとも。ええ、前パパも同様です。そんな私を人でなしでろくでなしで甲斐性なしの、安全な場所からただ死を見るだけで満悦するような下等生物と一緒にしないでくださります?
というわけで。何の話でしたっけ?
まぁいいですわ。なにが起きようとも、ここにいる以上は私は当事者。死を意識しなければならない者。
だからこそ、その者が持つ責任は、そしてそれを果たした後の効果は。唸るほどに大きい。
「敵来ます!」
兵が震える声で叫ぶ。
確かに前から、そして左手から黒い塊がうごめくようにこちらに来る。
あれが私たちを殺しにやってくる死神の鎌だとするなら、ええ、確かに並みの女性なら卒倒してしまうでしょう。いえ、ここにいる兵たちの大半は農民。今、まさに倒れてしまうのではないかというほどに呼吸の荒い人がいる。
私?
ふふ。まさかそんなことを表に出す人だと思って?
「皆さん、我慢しましょう。勝利はもうすぐですわ」
優雅に、煌びやかに語り掛けるように伝える。
「そうだ! エリーゼ様は嘘をおっしゃらない! ここで敵が来るのをま、待つのだ!」
クロイツェルが叫ぶ。彼も恐怖を紛らわしたかったのだろう。語尾が震えていた。
そう。大丈夫。勝てる。きっと。いえ、絶対。
先日、アーニィが戻ってきたということは、間に合ったということ。
だからここで。まだ? 嘘? 騙された? いえ、それでも。
睨みつけるように、敵の集団を凝視する。
もうすぐ敵の1人1人の顔が見えるくらいの位置。
絶望。
ならなかった。私の謀。
間違った。ミスった。私としたことが。こうなったら死ぬしか……死ぬ。私が。ふふ。おかしいわよね。私はもう一度死んでるというのに。死を怖がるなんて。
いえ、人間、何度目だろうと死ぬのは怖い。嫌なものは嫌。
だからこの私の感情は間違っていない。それでいて、人間だれしもが持つ命の根源。
そして――
「――え?」
敵が止まった。
ほんの100メートルほど先。そこで完全に停止した。幻覚じゃない。見間違いじゃない。こちらに向かう足が完全に止まっている。
何があったか。
何が起きたか。
何もわからないまま、兵たちは呆然としている。
聞くまでもないわ。
私の策が成った。それだけ。
だから次に起こるのはもう当然のこと。
「て、敵、後退、い、いえ! 撤退していきます!」
その言葉に、誰もが唖然としてそのさまを見守るしかない。
その中で私はこの長くつらい戦いの日々に、決着がついたのだと感じていた。
だからこれは凱歌よ。
私による、私のための。この世界における勝利宣言。
「敵は我らに恐れをなして逃げ出したわ! 勝どきをあげなさい!」
戸惑い、そこから湧き出る勝利――生存への喜び。
それが兵たちの間で爆発した。
何もわからず、クロイツェルとダウンゼンも抱き合っている(十秒後に我に返って殴り合いになったけど)。
そして兵たちもひとしきり生きる喜びを分かち合い、そしてその熱は私へと向けられた。
「カシュトルゼ様のお言葉通りだ!」「エリーゼ様は救世手に違いない!」「エリーゼ様、万歳!!」「万歳! 万歳!」
勝った。
この世界。この環境。
それに私は勝った。パパ。見てる。私はこうやって生きていく。あなたの教えを守りながら、この腐った世界を。
ぶち壊して生きていく。
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