知力99の美少女に転生したので、孔明しながらジャンヌ・ダルクをしてみた

巫叶月良成

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第4章 ジャンヌの西進

第61話 復活のジャンヌ

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 目が覚めた。
 薄暗い小屋の中。
 木で組まれた天井が見える。

「――ぁ」

 声を出したつもりだった。
 それが声にならないのだと気づいた。喉がからからだ。

「明彦くん!?」

 視界に女性が移った。
 里奈だ。
 彼女が泣き出しそうな顔で、俺の顔をまじまじと見つめ、そしてその手を頬にはわせた。

「り……な」

「よかった……無事で」

 無事……そうか。撃たれて、サカキに運ばれて、あの女神に発破をかけられて、それで――

「これ、飲んで」

 里奈が小さい器を差し出してくる。
 だがまだあまり体が動かない。
 すると里奈は俺の頭の下に手を入れて引き起こすと、口に器をあてがった。

 ぬるい水。
 いや、甘い。
 ハチミツでも入っているのか。からからに乾いた喉に潤いが戻り、体に力がよみがえるようだ。

「俺は……」

 声が出た。
 自分の声はこんなだったのかと思うほど、久しぶりに肉声を聞いた気がする。

「助かった、のか」

「そうだよ。明彦くんは助かったんだよ」

「そう……か」

 正直まだ実感がわかない。
 それでも里奈の顔を見ているうち、ああ、生きているんだと実感が込み上げてくる。
 何より無理に動こうとすると痛む左肩が、生きていることを確信させる。

 そしてそう思えてくると、気になるのは現状。
 体に取り込んだ糖分が、頭を高速で回転させる。

「今、何日だ? それから……皆は?」

「それは……」

 里奈は知っている限りのことを教えてくれた。
 まず生存者。
 サカキに、サールとブリーダ、そして殿軍にいたクルレーンも戻って来ていた。
 砦にいたクロエたちはもちろん無事だ。
 そしてビンゴ王国ではセンドとクロス。

 次いで犠牲者。
 4千ほどの兵、そしてフレールとヴィレスは戻らなかった。

「そうか……フレール」

 結局、彼の意見を聞かなかったせいで彼は死ぬことになった。
 いやそうでなくてもあの状況。俺が生きてても、あいつは殿軍を買って出た可能性もある。

 だから、受け止める。
 受け止めて、反省して、彼が救ってくれた俺の命を大事にして、そしてそれを次にかす。
 サールが不憫ふびんだけど、今はくじけてる場合じゃない。

 それから敵の状況。
 追撃してきたものの、こちらの反撃に遭いここから3キロほど離れた砦にいるらしい。
 時々、陽動をかけてくるけど本格的な攻勢には至らないという。

 その時に里奈が少しどもっていたけど、まぁとにかく全滅は避けられたようで何よりだ。

 とりあえず現状を把握して、里奈が入れてくれたお茶を飲んで一息ついた時、

「やぁ、ご機嫌うるわしゅう、姫君」

 嫌に芝居がかった台詞で部屋に入って来た男がいた。

「喜志田……」

「いやいや、元気そうだねアッキー」

「お前も十分に元気そうだな」

「それだけ皮肉が言えるようになれば十分だね。うん、良かったよかった」

 まったくもって良さが伝わってこないんだけどな。

「何の用だ?」

「うん、せっかく生き返ってもらったところ、本当に申し訳ない。ものは相談なんだけど――」

 喜志田が人のよさそうな笑みの中に、どこか邪悪なものを浮かべ、こう言った。

「悪いけど、俺たちが無事に生き延びるため……死んでくれない? アッキー」

「……ちょっと!?」

 里奈が抗議の声を出す。

「いや、話を聞こう」

「明彦くん!?」

「さっすがアッキー。てかもしかして同じこと考えてる?」

張繍ちょうしゅう征伐、だろ」

「ご名答~。さすがアッキー。三国志オタク」

「お前もだろ」

「うん、てわけで死んで?」

「しょうがねぇなぁ」

 というわけで俺は死んだ。
 死んだことになった。

 すぐに顔に出るクロエには秘密にしておき、サカキを呼び出した。
 サカキにはさすがに伝えないとどうしようもないので、この部屋で密談をしてそして軍を退かせた。
 ビンゴ軍には言い出しっぺの喜志田が抑えに回る。

 内通者の存在が懸念される以上、秘密を知る者は少ない方がいいという配慮だった。
 そして『ジャンヌ・ダルク死す』の噂をまことしやかに流し、オムカ軍とワーンス軍を撤退させた。

 敵の動きは速かった。
 俺たちが撤退した半日後には行動を起こしてビンゴ軍の籠る砦を攻撃したのだ。
 俺はそれを『古の魔導書エンシェントマジックブック』で知った。この迅速な行動。これで俺は内通者の存在を確信したと言ってもいい。

 それで適当に戦ってゾイ川を渡り、敵を砦付近まで引き寄せたところで、俺らオムカが相手を左右から挟撃。
 潰走させるに至った。

 まぁその時に初めて皆の前に姿を現したわけだが、その時の皆のうろたえぶりと歓喜ぶりと言ったら……それはもう大変なものだったから割愛しよう。
 さらに俺にとって嬉しい誤算だったのは、クルレーンの存在だ。

『ま、何かありそうだったんで王都近辺にいた連中を呼び寄せておきました。1千ですがいないよりマシでしょう』

 というわけで新たに増えた1千丁の鉄砲による一斉射撃は、それはもう相手の心をへし折るのに十分だった。

 こうして俺の死を偽装した作戦は見事的中し、敵は潰走状態に陥った。

 とまぁ、大げさに言ってみたが、要はやったことは死んだふりをして敵を引き付けて、伏兵で撃破。
 俺たちがやられた驕兵きょうへいの計をし返してやっただけだ。

 三国志演義においては、曹操そうそう張繍ちょうしゅうを征伐する時に使ったとされる策だが、まぁ相手を騙すのは兵法の基本。別にこれが特別な作戦というわけじゃない。

「明彦くん……」

 サカキが敵を追いたてる中、里奈がふらりとこちらに近づいてきた。
 その手には愛良さんから譲り受けたという日本刀を持ち、その切っ先からは血が垂れている。

「よかったのか」

「うん……知らない人じゃないけど、明彦くんを狙ったやつだから」

「そう、か」

 正直、里奈が人を殺したという事実を間近で見たのは初めてだった。
 帝国にいた時に見たはずだが、その時はそれが里奈という認識はなく、意識して見たのはこれが初めてだ。

 その所作は、まるで達人の舞いのようだった。
 相手が気づく前に近づき、一閃する。

 その一瞬の動きと舞う血しぶきに、思わず見とれてしまうほどの感動を覚えた。

 もちろん人の命を奪ったことは褒められることではないし、許されることでもない。
 けど、それによって里奈が地獄に落ちるのであれば、俺も共に地獄に落ちてやる。それくらいの覚悟はできていた。

 ただ、やはりこうも里奈を血にまみれさせ、俺が後ろに控えているのはどうもしっくりこないわけで。
 里奈たっての要望だと言われれば、しょうがないと言えばしょうがないわけだけど。

 ちなみに今、里奈が討ったキッドという名のプレイヤー。
 俺も見覚えがあった。

 帝都潜入で俺を助ける際に、ルックが戦った相手。
 今回もそのルックの矢が決め手になったわけだが、

『んー、隊長を傷つけた悪いやつを撃っただけですよー』

 などとのほほんとした回答を寄越してきた。

 そのルックは、クロエたちと共にサカキの指揮下で敵を追い詰めている。

 ともあれ、今回の勝利で帝国軍は大規模に戦線を縮小しなければならないはずだ。
 上手くいけば首都まで撤退ということになるだろう。
 その間に俺たちはゾイ川の西岸の砦群を抑えれば圧倒的優位に立てる。

 さらにブリーダから聞いた話だが、首都南で抵抗を続ける旧ビンゴ王国の王太子の勢力とコンタクトが取れそうだという。
 その勢力と連合できれば、ビンゴ王国領の半分は制したことになり、さらに旧王室を担ぎ上げるという明確な大義が生まれて日和見ひよりみをしていた連中が旗下に加わってくる可能性がある。

 そうなれば戦力差は逆転し、帝国軍がビンゴ領から撤退する日も近い。

 そのためにはこの敵の大将だ。
 ここで大将を討てば、敵は戦意を喪失し、瓦解するだろう。

 未だに顔も名前も知らない敵の大将。
 プレイヤーだから俺たちと同じ境遇のはずだが、ここで遠慮はしていられない。

 それを討ち取る役を買って出たのは、あの喜志田だ。

『大丈夫大丈夫。この良い天気が、俺に味方するから』

 どんよりと落ち込んだ雲の下、小雨の降る中でそんなことを言って出発した。
 正直不安だが、そう言うからには任せるしかない。

「明彦くん」

「どうした、里奈」

 ふと、里奈が俺の思考を破って話しかけてきた。

 聞き返すが、里奈は何か迷ったような動きをして、やがて首を左右に振る。

「なんでもない。後で話すね」

「ん、そうか」

 何の話だろう。
 けど落ち着いて話せる機会はこれからまだあるはずだ。

 オムカを出発して1か月半。
 色んなことがあった。
 色んな人と出会った。
 色んなものを失った。

 それでもこれで1つの区切りがつく。
 そうなれば里奈とゆっくり過ごす時間も取れるだろう。

 だが本番はここからだ。

 それでも俺は生きて、そして勝つ。
 もう決して皆の迷惑にはならない。
 俺は生きる。
 もう二度と、あんな失敗はしないように。

 そう、心に誓ったんだ。
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