知力99の美少女に転生したので、孔明しながらジャンヌ・ダルクをしてみた

巫叶月良成

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第4章 ジャンヌの西進

第60話 女神よ永遠なれ

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「アッキーのばーーーーーーか!」

 いきなりなんだよ。うるさいな。
 てかまたこいつか。もう何度目だろうな。

「私さんざん言ったよね? アッキーが死んだら色々終わるから、もうちょっと危機意識持ちなさいって」

 言った――っけ?
 こいつのほとんどは戯言だから聞き流していたなぁ。

「むむむ、アッキーのばかぁ! アッキーなんて死んじゃえばいいんだ! あ、死んでんのか。てへぺろろん」

 あぁ、そうか。俺……死んだのか。
 二度目の死。
 まさかこんなことになるとはね。

 結局、ビンゴ平定という仕事は完遂できないままだった。
 けど、あいつらならなんとかしてくれるだろ。

「アッキー。そういうのよくないと思います」

「何が?」

「アッキー、よく自分のことをさ。いなくなっても大丈夫とか言ってるじゃん。私の代わりはいくらでもいるもの状態じゃん? 魂のリサイクル計画失敗じゃん? そういうのよくないと思います!」

「まったく要領を得ないんだけど」

「だーかーらー! もっと自分の価値に気づけっていってんの! 皆に言うことを聞かせるために危険に身をさらす? 馬鹿じゃないの!? あんたは上杉謙信うえすぎけんしんかっての!? 毘沙びしゃえもんの加護があるから銃弾なんて当たりませんって? 当たってんじゃん! ヘルメットがなかったら即死だったんだよ!? ジャンヌ・ダルク、オルレアンに死す、だよ!? ジャンヌ還らずだよ! てかそんな大層な人間じゃないでしょ、あんたは!」

 なんか酷く言いたい放題されているわけだが、俺にも言い分がある。

「いや、でもそうしないと皆が……」

「それ、誰かに言ったら――刺されるよ?」

「なんでだよ」

「だってそれってさ。皆を信じてないってことじゃん」

 何気なく放たれたその一言は、俺の急所を深くえぐり抜いた。

 俺が皆を信じてない?
 そんな馬鹿な。
 俺は皆を信じてる。

 だって俺は弱くて、体力がなくて、何もできないから、皆を頼る以外、生きていく方法がないわけで。
 けど皆を危険なところに送り出して、俺だけ安全なところにいるのは気が引ける。
 だから俺は前に出るんだ。

 決して皆を信じてないからとか、そんなわけじゃあ……ない。

「でもそれ、自分が危険にさらされないと戦ってくれないって言ってるようなものじゃん。あんたらが信じられないから俺が目を光らせますって言ってるようなものじゃん。はっはー、さすが天下のジャンヌ・ダルク様。御威光をもって戦えば百戦百勝ってわけねー。その割に結構負けてるけど」

「ち、違う。俺は……」

「違わないわよ。アッキーがやってるのはそういうこと。悪いけど私を言いくるめられると思ったら大間違いだからね。たった20年しか生きてないシャバ僧に論破されるほど甘くはないから」

「む、むむむ……」

「なにが『むむむ』だぁ! はっはー、アッキーやぶれたりー」

 いや、それどういう意味だよ。

 それでも、はっきりと言い返せないのは。
 あるいは本当にそう思っているからなのか。
 認めないと思っていても、心の奥底ではそう思っているから俺はそうしたのか。

 違う。

 やっぱり違うんだ。

 俺は弱い。
 だから前に出る。

 自分の立てた策がうまくいかなかったら。
 予想外のことが起きて誰かが犠牲になったら。

 きっと、俺は皆に嫌われる。

 そう考えると居ても立っても居られなくなる。
 だから皆といる。

 それに――俺は皆と一緒に勝ちたいんだ。

 俺を救ってくれた、皆と一緒に勝ちたい。
 だから無謀でも、こうして命を落としてでも、前に出るんだ。

「ふーーーーん。ま、いいネ。そう思いたいならそう思ってるがよろしアルよ」

 何人なにじんだよ。
 俺の真剣な想いを変なおちゃらけで汚すな。

「てかアッキーの怪我、頭だからねぇ。知力が3くらい下がったかも。惜しいなぁ、もうちょっとで知力100だったのに。あ、てかやば。そうなったらタイトルも変えなきゃね!」

 もう意味が分からん。

「というわけで、まさに軍師還らずな感じになりそうだったわけだけど」

「なりそう? 俺、もしかして死んでないのか?」

「残念ながらねー。あぁ、アッキーからすれば残念なのかおめでとうなのか分からないけど」

「……いや、いい。おめでとうで。俺は、まだ生きてていいのか」

 別れを言いたい人がいた。
 もう一度会いたい人がいた。
 まだやり残したことがあった。

 だからもし、もう一度戻れるなら……それはもう、願ってもないことで。

「そう思うならもっと命を大事にしなさい。さっき言ったのは、半分ジョークだけど、半分マジだからね。もうアッキーが危険を冒してまで前に出る時期は終わったの。後はみんなを信じてあげなさいな」

「でも……」

「アッキー風に言うなら、劉邦りゅうほうが先陣切って戦ってた? 武田信玄たけだしんげんは? ハンニバルは? 張良ちょうりょうは? 孔明は? 大将や軍師ってのはそういうのじゃないでしょ。本陣でデンと構えて部下にまかせる。それが上に立つ者の責務じゃなくて?」

「う……確かに」

「というわけでアッキーもいい加減に大人になりなさい! そうやってぴんしゃか動き回ってるのは、自信のない証拠! かなえの軽重が問われるのよ。大国になるオムカの軍師がそれでいいの!? あんた、あの女王様に色々言ってたけど、まず先に臣下のあんたがしっかりしなくちゃいけないいじゃなくて!? 以上。反論があるなら原稿用紙400枚以上で受け付けるわ。読まないけど」

 ぐぅの根もでない。
 まさかこいつに諭されるとは思っても見なかった。

 いや、でも正論だ。
 間違いようのない、俺の失点を指摘してありあまる言葉だ。

 本当にこいつの言う通りにするなんて業腹ごうはらで、気が進まなくて、屈辱で、ありえなくて、やきが回った証拠にしかならないわけだけど――

「うわ、アッキーひど。そこまで言う?」

「冗談だよ。わかった、つつしむ」

「ん……ならばよし! じゃあ行きなさい、ジャンヌ・ダルク。あなたの本当の世界で、待っている人のために」

「……ああ!」

「あ、忘れ物はない? お財布はちゃんと持った? おまもり持っていく? 体には気を付けるのよ? 寂しかったらいつでも帰って来ていいんだからね? だって、ここはあんたの家なんだから」

「おかんか!」

「おうおう、やっぱりアッキーのツッコミはいいね。それじゃあツッコミもキレを取り戻したところで、いってらっしゃい。次に会う時は、ビンゴ領平定後か、アッキーが本当にお亡くなりになった時にー」

「縁起でもないことを言うな!」

「にゃははー、ではでは、ばららーいか」

 おい、そんな終わりでいいのか?
 本当に悪ふざけの典型だな!

 なんて思っている間にも、女神の姿がフェードアウトしていき、やがて完全な闇に周囲が包まれる。
 そして、俺の意識もまた――闇に沈んでいった。
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