知力99の美少女に転生したので、孔明しながらジャンヌ・ダルクをしてみた

巫叶月良成

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第4章 ジャンヌの西進

閑話36 キッド(エイン帝国プレイヤー)

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 どうやら自分は無頼者アウトローというものに憧れたらしい。

 社会、いや、世界に反発して己の道を行く彼らが好きだった。
 組織の中でも自分の信念を貫き通すマイノリティに共感した。
 必ずしも最後は幸せとは限らない彼らの刹那的な生き方に焦がれた。
 どんなに相手が巨大でもくじけない、汲めども尽きぬ反骨を学んだ。

 そして行きついたのが荒野の無頼者アウトローだった。

 それから銃に凝って……死んだ。
 つまらない事故だ。

 つまらないことに人を死なせ、つまらないことに警察から逃げ、つまらないことに崖から転落して死亡する。
 もう少し格好いい死に方はなかったのかと悔やんだが、後の祭り。

 そして意識が消えた後、現れたのがこの世界だった。

 この世界ならばもっと無頼漢アウトローに生きていられる。
 何のしがらみもなく、かつ荒くれものどもが巣くうこの世界。
 そして圧倒的なスキル。

 望むべくもない最高の世界だった。

 この世界ではどんなに無頼を気取っても許された。
 この世界ではどんなに乱射しても怒られなかった。
 この世界ではどんなに――――人の命を奪っても、それが賞賛される世界だった。

 だから煌夜の元についた。
 正直、無頼漢アウトローとしては、帝国という体制、宗教基盤に反骨してこそだと思ったが、あいつは自由にしてくれるからそれはそれで良かった。

 そして今回。
 あの双子はいけすかねーが、シーバとやらはなかなかに話せる奴だ。少し自分を卑下してるところが若干気に食わねーが、まぁいい。
 何よりこの俺に一番大事なことを頼んだのが気に入った。

 敵の軍師、ジャンヌ・ダルクの抹殺。

 シーバのお膳立てした計略に沿って、敵がすり抜けた砦で諸人と待機。
 スキル『トリガー・トリガー・ハッピー』は、短銃しか取り出せなかった。
 だから殺傷範囲としてはかなり接近しないといけない。しかも狙撃するにはスコープもないし、レーザーポインターもない以上、勘と経験で狙いを定めるしかない。

 だが、俺の腕と俺の相棒ならできる。
 それを信じて、標的を視界にとらえた。

 そこで初めてジャンヌ・ダルクという少女を見た。

 美しい、とは思った。
 無頼漢アウトローとしては、ああいう意思のはっきりしてそうな女性は好みだった。

 だから一瞬、躊躇した。
 あれを奪って、俺のものにした方がいいんじゃないかと。

 だがすぐに思い直した。
 あれを自分の手で真っ赤に染める。それもまた、刹那的で素晴らしいんじゃないかと。

 だから屋根に潜み、奴らがなにやらごちゃごちゃしている隙を狙って――撃った。

 一発は逸れて相手の左肩を撃ち抜いた。
 もう一発。頭部に命中した。見事に綺麗な赤い花が開いたように見えて、満足だった。

 それから諸人の手引きと、シーバのスキルらしき炎による混乱に紛れて砦から脱出。
 一仕事を終えた身としては、悠々自適の生活に入った。
 しばらくはあの赤い花が咲いた絶頂エクスタシーに身をゆだねることができた。

 そして今日。

 諸人と共に前線に戻って来たところ、シーバが会いたいという。
 夜も更けてのことだが、至急のようで彼の元を訪れた。

「敵のジャンヌ・ダルクが死んだようです」

 開口一番、シーバはそのように告げた。

「本当ですか?」

 諸人が当然の疑問を口に出す。

「はい。昨夜、内通者から報告が来ました」

「ほぅ……」

「しかも意気消沈したオムカ軍は夜闇に紛れて撤退するとのこと」

「しかし、少し日にちが経ちすぎではありませんか?」

「へっ、どうせ隠してたんだろ。どっちでもいい。俺たちを呼んだってことは、仕掛けるつもりだろ?」

 自分の手の中で相棒が躍る。

 つまりまた相手を攻めるわけだ。
 しかも今度は暗殺みたいなこそこそした働きじゃなく、真っ向から乱射できるということ。
 俺も相棒もこの時を待っていた。

「はい。オムカ軍が撤退すれば、後は傷ついたビンゴ軍7千ほど。3万で攻めればいくら防備を固めても勝てるでしょう」

「……分かりました。しかし、何故私たちを呼んだのです? 軍の戦いであれば、我々の出る幕はないかと」

「おっと、俺は先陣で構わないぜ。俺の相棒がぶっぱなされるのを待ち望んでるからな!」

「それは頼もしいのですが……そうですね、お2人にはあるプレイヤーを相手していただきたい」

「プレイヤー?」

「はい。その者は先日、単騎で我が軍1千を死傷させた人物。あれを出されると、かなり苦戦することは間違いありません」

「あぁ、話には聞きました。それで膠着状態になっていると」

「へっ、そんな奴、俺が乱乱乱射すれば一撃だぜ」

「それを望みますが……万が一の時は諸人さん。貴方に止めていただきたい」

「……無茶を言いますね。つまり1千人を殺した相手に近づくということですから」

「お願いします。ここが勝負所なのです。ここで敵を撃退できれば、ビンゴはほぼ平定が成る。そうすればもはや帝国に敵はありません。オムカを呑みこみ、南郡、シータ王国を下して天下を統一するでしょう」

 だからお願いしたい、とシーバが深く諸人に頭を下げる。
 そんなやつ、俺が一発で仕留めてやると言い募りたいが、まぁここは諸人の場面だから譲ってやろう。

 しばらくして、諸人が黙っていたが、ようやく深く息を吐きだし、

「分かりました。ここが勝負所というのであれば、見て見ぬふりはできません。キッド、万が一は頼みますよ」

「任せとけって。ま、その前に俺がハチの巣にするがな」

「では。出撃します」

 そして闇夜に紛れて各砦から軍が出陣する。

 敵の砦までは30分ほど。
 その途中でぽつぽつと小雨が降りだした。
 歩きながら相棒の銃の手入れを行う。スキルとはいえ、実際の銃と変わらない。火薬が湿気るなんてつまんねーことでテンションは下げたくなかった。

 敵の砦に到着すると、東を除く3方向を1万ずつの兵でふさぐ。
 俺と諸人はシーバのいる西の本陣にいて出番を待つ。

「では、攻めます」

 シーバのやる気のあるのかいまいち分からない小さな号令で砦攻めが始まった。

 半数の5千が西門に向かって攻めかかる。
 対して敵も慌てたように反撃が来る。だがその矢は少ない。鉄砲に至ってはほぼないと見てよさそうだ。

「ビンゴ軍に鉄砲はない。やはりオムカが逃げたのは間違いないようですね」

 シーバが一人で納得したように頷く。

 そして砦攻めが始まってから20分が経ったころ、西門が大きく開いた。
 喚声と共に中に味方が突入する。どうやらほぼ時を同じくして北と南からも喚声があがる。

「将軍。勝ちましたが、どうしますか」

 シーバの副官らしい女性が問いかける。
 この女も骨があってなかなかイカス。だがまぁ、他人のものは奪わないでおこう。

「敵は?」

「はっ、砦を捨て、東門から逃げたようです。どうやら渡河して元の砦に戻ろうというのでしょう」

「…………」

 そこでシーバは口をつぐむ。
 どうやら迷っているらしい。だが、俺にはその迷いが分からない。

「なぁ、ちょっといいか?」

 だから口にしていた。

「なんでしょう」

「何故追わない? シーバよぉ、お前言ったよな。この戦いが勝負所って。勝負所ってのはな、ある程度無茶するもんだ。勝負所をわきまえずに慎重になるのは、臆病者だ。このままずるずるとどうでもいい戦いを続ける愚か者だ。お前は、どっちだ?」

「貴様、何を――」

 副官が噛みついてくる。
 反骨精神のある女は嫌いじゃない。
 よく調教して、俺好みの女に変える面白味があるんだからな。

「ほーう? てめぇ、俺の相棒にエクスタシー感じさせられてぇのか?」

「……卑猥ひわいな」

「よせ、タニア。キッドさん。お言葉、確かに。ここで慎重になっても戦いは終わらない。追撃します。北のカイ隊長と南のイクザ隊長に伝令。川を渡る敵を追撃しろ、と」

「……はっ!」

 タニアとかいう副官が走り去っていく。
 ちっ、若干もったいなかったな。

「椎葉さん。よろしいので?」

 諸人がシーバに語り掛ける。
 本当に良いのかと念を押しているようだ。

「仕方ありません。これ以上、攻めあぐねていると……私の身も危ないわけですから」

「あの双子……ですね?」

「…………」

「分かりました。では我々も行きます。敵がプレイヤーを投入するとしたら、このタイミングかもしれませんから」

「お願いします。すぐに追いつくので」

「ええ。では行きますか、キッド」

 諸人とシーバの会話は抽象的過ぎてよくわからなかったが、いよいよ俺の出番だということは理解できた。

「おおよ!」

 小雨の中、馬を駆って味方の跡を追う。
 やっぱり馬に乗れてこそのカウボーイ。諸人はしがみつくような格好だが、まぁ普通はそんなもんだ。

 前方で喚声。
 どうやら川を渡っている敵に追いついたらしい。

「おらおら、邪魔だ邪魔だ!」

 馬上で銃を乱射して前方に出ようとする。

「キッド、焦らないよう」

「はっ、ここで出ないでどうしろってんだ」

 なんてったって、相棒が叫びたがっている。
 こんな雨に負けるなと俺の尻を蹴とばす。

 渡河した。
 そのまま敵を追って砦の近くに来た時、異変が起きた。

 逃げる敵。それ以外の方向から攻撃が来た。
 矢だ。

 雨の中、空気を切り裂いて飛ぶ矢が周囲の人間を傷つけていく。

「ふ、伏兵だ!」

 誰かが叫んだ。
 見れば左右に軍勢がいる。数は分からない。だがそれが矢を撃ってきたということは敵に他ならない。

 そして何より、それを裏付ける事象が起きた。

「エイン帝国の皆さま、ご苦労! だがもはやお前らに勝ち目はない。我が旗のもとに、降伏しろ!」

 オムカの旗を掲げる小さな人影。

 この声。
 まさか。
 聞き間違い、ではない。

 殺したはずだ。
 俺が、相棒と一緒に華を散らしてやった。

 それが、まさか、あろうことか、生きてやがる!!

「あいつ!」

「キッド、待つのです!」

「言ってられるか!」

「くっ! 左を突破するのです!」

 諸人が必死に叫ぶ。
 俺に続くように、数千の軍勢が続く。

 だがそんなことどうでもいい。
 あいつ。生きていた。
 それは許されることではない。

 なんてったって、俺の絶頂エクスタシーが嘘だったってことだから。

「撃て!」

 矢と鉄砲が来た。
 バタバタと味方が倒れ、惑い、浮足立つ。

 俺には当たらない。
 当然だ。
 銃使いガンマンが銃弾を怖がってちゃ話にならない。

 だから行く。独り駆ける。

 敵の軍勢が迫った。
 問題ねぇ。全員ぶち抜いて、あの女をもう一度血祭りにしてやる。

 ふと、その先頭の男が気になった。
 鎧を着こんだ金髪の大男。

「てめぇ、見たツラだぁ!」

 どこで見た? いや、そんなのどうでもいい。
 あいつを撃ち抜く。
 俺の相棒でハチの巣にする。
 今はそれだけが全て。

 相手もこちらを認識したのか、顔を真っ赤にして叫び返してくる。

「てめぇがジャンヌちゃんを!」

「ちゃんとか言ってんじゃねぇ、キモチ悪ぃ! 死ね!」

 撃つ。連射だ。ハチの巣にしてやる。
 敵が怯む。
 捉えた。
 そう思った。
 だがその前に衝撃が来た。胸。そこに棒が生えている。なんだこれ。熱い。痛い。衝動が全身を駆け巡る。

 大男――じゃない。
 その横に見覚えのあるツラがいる。弓を構えた男。何か月か前、仁藤のゲームで俺をあの時ぶち抜いた弓使いの男。

「て、てめぇ……」

 引き金を、引くんだ。こいつをぶっ殺して、そのまま他の奴らも皆殺しだ。そうすりゃ俺はヒーロー。最強の無頼漢アウトローだ。煌夜も俺には頭が上がらなくなる。そうだ。俺はジャンヌ・ダルクを撃った。だから――

 その時。大男の横に馬が寄ったのを見た。
 小柄な金髪の少女。
 旗を掲げるその姿は、確かに一枚の絵画のように美しい。
 だが死んだはずだ。俺が殺した。なのになんで生きてる。死んだのに、生きてたら、ダメだろうが!

「ジャンヌ・ダルクぅぅぅぅ!」

 銃を上げた。最期の力。撃つ。撃ってやる。

「あんたは本当に――」

 声がした。目の前。誰だ。知らない。いや、この目。知ってる。あのムカつく目。訳も分からず俺を殺そうとした狂戦士の瞳。髪の毛が短くなっているが、忘れるはずがない。ちょっと前まで味方だった女。そして俺のわき腹をへし折った女。なんでその女が俺の前に。なんでその女がいやがるんだ。首筋に何かが入って来た。撃て。撃つんだ。しかし、指はどうしても動かない。

「どうしようもないのね」

 視界が回る。
 それが最後に聞こえた言葉だった。
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