知力99の美少女に転生したので、孔明しながらジャンヌ・ダルクをしてみた

巫叶月良成

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第4章 ジャンヌの西進

閑話39 椎葉達臣(エイン帝国プレイヤー)

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 まぶたを開くと、そこは狭い小屋だった。
 木を組んだだけの、粗末な物置のような建物。
 見覚えのない場所だ。

 なんでこんなところで寝ているのか、はっきりと頭が動かない。
 頭がぼうっとして目を開けていることすら億劫おっくう

「将軍、お目覚めですか」

 タニアの顔が映った。
 何故彼女がここにいて、俺もここにいるのか。

 理解ができない。
 だから起き上がろうとして、失敗した。

「俺は……痛っ!」

 左肩に鋭い痛みが走ったのだ。

「安静になさってください。傷はまだ塞がっていません」

 タニアが支えるように、僕の体をしっかりと抱きしめた。
 彼女の体温が直に伝わってくる。

 いつもの帝国軍の服ではなく、薄い布の服装になっているタニア。

 その時になって初めて、自分の上半身が裸だということに気づく。
 傷を塞ぐためか、包帯が巻かれていたがそれでも恥ずかしさは残る。

 だから彼女から咄嗟に離れようとして、それでも体がうまくついてこれず、盛大に床に突っ伏した。痛い。

「大丈夫ですか?」

「だ、大丈夫だ。だから、ちょっと……何か着るものをくれないか?」

 とりあえずそれを言うのが精いっぱいだった。

 それからタニアが持ってきた上着を羽織り、さらにれてくれたお茶を口にすることで、なんとか気持ちが落ち着いた。

「ここは……いや、僕は、どうなった?」

 思い出すのはあの日。
 ジャンヌ・ダルクが死んで、敵が撤退したという報告を受けて出陣した時。
 先陣の敗報を聞くや否や、敵の奇襲を受けた。

 数はそれほど多くはない。
 だから撃退できると思い、迎え撃とうと思ったがそれがいけなかったのかもしれない。

 やることなすことが全てうまくいかなかったのだ。
 突風が吹き、小雨が容赦なく襲いかかる。目もあけられないほどの状況で、敵と戦えるわけがない。さんざんに崩され、少し距離を取ろうと思った途端に背後のゾイ川が暴れ出した。

 ジャンヌ・ダルクが前に使った増水とは違う。
 合図も何もない、本当の鉄砲水だった。

 決死の抵抗として、自分のスキル『罪を清める浄化の炎バーン・マイ・クライム』で敵の先頭を丸焼けにしてやったものの、川からあふれ出た水が降りそそぎ、すぐに鎮火される。

 すべてが空回り。
 いや、その1つ1つが自分を死へと誘う罠のようで、逃げ切れない運命のようで、総身がすくんだ。

 そして敵が突っ込んできた。
 先頭の男。
 プレイヤー。そしてスキルという単語が浮かび、斬られた。
 反撃はできなかったと思う。
 そのまま自分は死ぬ。
 そう思った次の瞬間、衝撃が襲った。

 斬られたわけじゃない。
 横から衝撃が襲い、そのまま水の中に落ち、そのまま気を失った。

「あれは……君だったのか」

 今思い出せば、確かにタニアだった気がする。
 彼女が身を挺して僕を助けたのだ。

 こんな、生きていても仕方のない僕を。

「申し訳ありません、余計なことをしました」

 平身低頭、タニアが頭を下げてくる。
 その健気さが、僕なんかを助けるなんて無茶をした彼女に対して罪悪感を募らせる。

「いや……いいよ。助かった。ありがとう」

「そ、そ、そ、そう……ですか。よかった、です」

 珍しくタニアがうろたえたように見える。
 なんだか不思議な光景だ。

「えっと、それで今はいつなのかな?」

「将軍が川に落ちられてから3日が経っています」

「3日……そんなに寝てたのか。じゃあここは?」

「はい……我々のいた場所からかなり下流の村です。所持していた金品で、納屋を借りました」

「そうか。すまないね。苦労をかけた」

「いえ、そんなことは……」

 押し黙ってしまうタニアを見ながらも、想いを馳せる。

 完璧に負けた。
 してやられた。

 きっとジャンヌ・ダルクは死んでいなかったのだろう。
 それで僕らをおびき寄せて、そして一気に打ち破ったに違いない。
 本当、詰めが甘いったらありゃしない。

 部隊の皆は無事だろうか。諸人さんは、キッドは。

 ……いや、もう考えても仕方ない。
 自分は負けた。
 コテンパンにやられたのだ。
 だからみんなが無事なわけがない。

 もはや再起などできないほどのダメージ。
 もし自分が生きているのを知れば、あの双子は用済みとして僕を殺すだろう。
 それは嫌だった。
 だから出て行かない。
 なんとも卑怯な話だ。
 でも仕方ないだろ。僕にはもともと荷が重すぎたんだ。

 だからきっと、これ以上はもう、戦えない。
 ここが椎葉達臣としての終着駅なのだろう。

「タニア……君にはすまないが、僕はここまでだ。デュエイン将軍の遺志を継げず、しかもこんな大きな負け方をして言い訳もできないけど、これ以上は、無理だ……」

「そん、な……そんな、哀しい事……言わないでください」

 タニアは泣いているのだろうか。
 うつむいていて分からない。

 こんな時、どうすればいいのだろう。
 生憎、そんな人生経験も女性経験も豊富じゃない自分からすれば、どうすればいいのかなんて分からなかった。

 だからただ彼女が黙って出て行くのを見送り、そして再び眠りへと落ちて行った。

 それから数日。
 朝起きて、外に出て、タニアが運んでくる食事を食べて、そして寝るという日々の繰り返しだった。
 どうやらここは郊外の村らしく、若者がほとんどおらず年配の方たちが精魂傾けて田畑の手入れをしているようだ。

 それをただ漠然と眺めていると、どうも見ているのが辛くなり納屋へと戻る。
 何故手伝ってやらない。そう自分を責めるのだ。

 彼らは明らかに侵略者である帝国軍の僕を何も言わずにかくまってくれている。
 もしかしたら彼らの息子たちと戦い、二度とこの村へ戻すこともない結果を作った可能性だってある。

 それなのに彼らの好意に甘え、ただただ惰眠をむさぼるだけの自分が嫌になる。
 だからある日。
 近くにいたお婆さんが、のろのろと田んぼをうろついているのを見て、思わず声をかけていた。

「手伝いましょうか」

 はじめはうさんくさそうな目で見られた。
 僕のことは知っているが、やはりよそ者という意識はあるのだろう。

 どうやら麦踏みを行っているようで、そうすることで強い麦になるのだという。
 最初はコツがつかめず難儀したが、それでもしばらく続けるとなんとなくわかって来た。体重をかけて、しっかり踏み込むのがいいみたいだ。

 そしてそれを見た隣のおじいさんから、今度はこっちも手伝ってくれと請われた。
 それを承諾して麦踏みをすると、夜が更けた。

 汗だくになって帰宅した僕をタニアは不思議な面持ちで見ていたが、それでも温かく迎えてくれた。
 その日は、疲労と達成感ですぐに眠った。

 それから、村の畑で麦踏みを手伝うことになった。
 朝起きて、麦踏みを手伝って、お昼休憩になる。それから麦踏みか内職の紐つくりを手伝って、納屋へと帰る。
 そんな日々が続いた。

 村の人たちともある程度打ち解けてきて、ようやくこの村にもなじんできたその日。
 タニアがとんでもない報告を持って帰って来た。

「スィート・スィトンに新国家が誕生しました。名前はユートピア。その元首は……アカシ姉弟きょうだいとのことです」

 青天の霹靂へきれきとはこのことだった。
 すぐには理解が追い付かない。

 当然だ。
 あの双子が何をしているのかさっぱり分からなかったし、国家設立なんてそう簡単にできるわけがないのだから。

 だがさらに数日後にタニアが付近の町で見たという布告文を持って帰ってきたことで、それが現実だと理解した。

「将軍……これは一体どういうことでしょう」

「分からない。それに、僕はもう将軍じゃない」

 彼女と暮らし始めて、改めたのが呼び名だった。
 もう自分は将軍じゃない。
 だからただの椎葉達臣だ。
 そう言って、彼女も慣れないながらにシイバさんと呼んでくれたのだが、今回のことで再び軍人の目つきになっていた。

「アカシ姉弟きょうだい……噂では、デュエイン将軍を殺した……」

「それは真実じゃない。変な憶測に惑わされることはないよ」

「では!? 本当にデュエイン将軍は自裁されたのですか!? あの姉弟きょうだいに殺されたのではないと、将軍はおっしゃるのですか!?」

「それは…………」

「教えてください。真実を……」

 悲痛で真摯なタニアの視線にさらされ、ついに抗いきれなくなって僕は真実を話すことを決意した。
 これがバレて殺されたとしても仕方ない。
 わが身可愛さに、彼女を苦しめた贖罪(しょくざい)だと言い聞かせて。

「……分かった」

 だから話した。
 何が起きたか。
 何故黙ったか。
 自らの恥も含めて、あますことなく伝えた。

 それをタニアは口を挟むことなく、ただ淡々と聞いていた。

 そして――

「ありがとうございます」

 すべてを聞き終えた彼女は、神妙な面持ちでそう呟く。
 その表情に怒りも悲しみもなく、あるのはただ諦念ていねん――いや、覚悟、か。

「真実をお話しいただいた将軍に、改めてお聞きします」

 真剣な面持ちで、逆に問いかけてくる。

「更なる風聞として、ドージマ元帥率いる5万の兵がスィート・スィトン目指して進軍中とのことです」

「堂島元帥が……」

「あるいはこれは最後の選択だと存じます。元帥と合流し、再び戦いの場に赴くか。それともこのままここで朽ち果てていくか。いかがされますか、将軍?」

 タニアが静かに聞いてくる。
 だがどこか熱を持ったその問いに、僕は思わずつばを飲み込む。

 彼女が求めている言葉は分かっている。
 だがどうしてもその気になれない。
 立ち上がろうという気が湧かない。

 やっぱり僕はもう駄目なのだろう。
 それでも彼女の顔を見ると、胸の辺りがうずく。

 本当にこのままでいいのか。
 自分の中にいる別の自分がそう問いかける。

 そうやって、駄目な自分と奮い立とうとする自分が相争うのを、他人事のように眺めながらも待つ。
 自分が、どちらに覚悟を決めるのか。

 そして翌日。

 僕はタニアを呼んで告げた。

「堂島元帥の元に行く。ついてきてくれ、タニア」

「……はい!」

 タニアがはにかむような、咲き誇るような笑顔で頷いた。
 こんなどうしようもない僕に。
 ここまで尽くしてくれて、僕には何も返せない。

 けど、どこか感じ入ることがある。
 その言葉の意味を探して、ようやくその言葉に思い当たった。

 あぁ、いとおしいんだ。
 そう初めて思った。
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