知力99の美少女に転生したので、孔明しながらジャンヌ・ダルクをしてみた

巫叶月良成

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第4章 ジャンヌの西進

第64話 第137回ジャンヌ・ダルクに美味しいものを食べさせろ選手権

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「さぁ、始まりました。第137回ジャンヌ・ダルクに美味しいものを食べさせろ選手権ー! 司会は私、ジャンヌ隊部隊長のマールがお送りします! そしてゲストにはこの方! ジャンヌ隊長と共にビンゴ王国の復興を担う期待の星、キシダ将軍にお越しいただきましたー!」

「はいどーもー」

「この企画。ビンゴ王国の東地区を制圧した戦勝祝いに開催される特別企画なわけですが、キシダ将軍。発案者の1人としてこの企画の意図はいかがなものでしょうか?」

「そうですね。やはりここまでこれたのはアッキーの力が大きいですからね。そのために彼――いや、彼女をいじりたお――いや、もてなしてあげようという面白――いや、心優しい企画です」

「なるほど。さすがジャンヌ隊長の盟友。さぁ、それでは本日の特別審査員の登場です。ご存じ、オムカに現れた救いの星。北へ南へ、西へ東へ。東奔西走の旗を振る者、ジャンヌー・ダルクー!」

「…………お前ら、何やってるの?」

 用事があると言われて連れてこられたものの、はっきり言って何をしているのか意味が分からない。

 ここは最前線の砦の中。
 いや、確かに祝勝会をやろうという話が出て、1日くらいはと許可を出したものの。
 ホント何やってるの?
 てか第137回って何?
 そんな開催した覚えはないぞ?

 てかマール。お前、司会が板についてるけど、いつの間にそんなことを……。

「え、隊長。これは隊長が主催と聞きましたが?」

「は? 誰がそんなこと言った」

「こちらのお方が」

 そう言ってマールは喜志田を指し示す。
 当の喜志田はへらへらと笑いながらもこちらに手を振ってきた。

「いや、ね。日ごろから激務のアッキーにお疲れ様っていうかさ、どうせ今も休もうとしてないんでしょ? だからそんな面白味もないアッキーを、からかって……ゆっくり休ませてあげようって親切心から来た企画だよ」

「今からかうって言ったよな!? 絶対言ったよな!? てかさっきもいじり倒すとか面白いとか言おうとしてただろ!」

「はて、何のことやら。うわー、被害妄想とか怖いわー。さすがジャンヌ・ダルク。私はいかなるいじりにも許せませんって? はぁ、今やビンゴ解放のシンボルとも言えるアッキーがそんなこと言うとか萎えるわー。士気も駄々下がりだけどいいの? ここまでやっといて? ここまで盛り上がらせておいて?」

 盛り上がってんのは勝手にそっちがやったからだろ!

 そう突っ込みたかったが、確かに盛り上がりは凄い。
 戦いの鬱憤をはらすがごとく、今も俺たちを取り巻く人々の熱気は凄いものがある。
 ここでやっぱり中止です、なんて言ったら暴動が起きかねない。くそ、アンコールを拒否したロックバンドか。

「……やるからには美味いもの食わせろよ」

「そうこなくっちゃ」

「それでは早速選手を紹介していきましょう。1人目の挑戦者はこいつ! 隊長殿の料理を作り続けてはや1年。好みの味から彼女の全てを知ると豪語するお前は何者だ! ジャンヌ・ダルクの生き字引。クロエー・ハミニース!」

「彼女のアッキー好きは引くぐらい本物ですからね。それに最近は惚れ薬の開発にいそしんでいるとか。いや、どんな料理が飛び出すのか楽しみですね」

「おい、1人目から不安なんだが。てか惚れ薬って何? 何考えてんの?」

「続く2人目。料理と言えばこの人は外せない。濃いもの辛い物好きのビンゴ料理は彼の得意技! 野営で作る料理はまさに兵たちの心のオアシス! センドー・ゼルーーード!」

「彼の料理はおいしいですよ。その反骨精神が現れてるって言うんですかね。最近はとかく辛い物が好きらしく、1週間腫れが引かないほどの辛さを追及しているようです。今日はその真価を存分にはっきしてくれるでしょう」

「ちょ、それは勘弁! 俺、辛い物ダメなんだよ!」

「そして3人目は、この人。南郡からの刺客。狙った獲物は逃さないクルレーン隊の長が作るのは最強の野戦料理! 一体どんな料理が飛び出すのか!? クルレーンー!」

「聞くところによると、蛙や蛇に昆虫を食べるそうですからね。楽しみです、色んな意味で」

「おい、嘘だよな!? さすがにそれはないよな!?」

「4人目はこの人。かの王国の女王様のスイーツ担当。高級な砂糖を使う彼女にもはや並ぶ者はいない!? 近衛騎士団の名は伊達ではないぞ、糖分の魔術師、サールー!」

「調査したところ、得意料理はフルーツケーキのクリームとハチミツ漬けという話ですからね……うぷっ……はい、楽しみです」

「お前も気持ち悪がってるんじゃねぇよ、喜志田!」

「最後に5人目、子供の頃は貧しかった。空腹をしのぐために草を食べてみたところ、その魅力にゾッコン! これぞ究極のサバイバル料理!? ケートー・コーリー!」

「彼は一押しですね。どんなヤバ――素晴らしい雑草料理が来るか楽しみです」

「雑草っつたな!? もはや料理でもなんでもないぞ!」

 どれもヤバイ。
 まともな料理が1つもない。
 いや、料理と呼んでいいか分からないものがいくつかあったぞ。

「さぁ、挑戦者が揃いました。いかがですか、キシダ将軍」

「いや、大変興味深いですね。まぁ自分は絶対、断固、何があろうとも味見すらしませんが」

「お前らふざけんなよ!」

 ここのところ、マールまでおかしくなってきてる気がする。
 うちの隊、唯一の常識人だったのに……。

 くそ、こうなったら料理中にいちゃもんつけて逃げ出すしかない。

「さぁ、それでは審査開始です! それぞれが作成した料理をジャンヌ隊長に食してもらいましょう!」

「え? ちょっと待って。もう食べるの? これから作るんじゃなくて?」

「いやこういうのってスピードが大事でしょ? ほら、料理番組でもやるじゃん。調理したものがこちらになります、ってね?」

 喜志田のドヤ顔から、逃がすわけないじゃん、という悪意が透けて見える。

 うぅ……マジかよ。

「それでは1人目から。クロエさん、料理のほどは?」

「はい。これはもう。隊長のことは自分が一番知ってますから。それで……を……して……から……したものを三日三晩煮込みましたからね。名付けて『隊長殿の隊長殿による隊長殿のためのクロエ愛のカタチ』です!」

 よし、逃げよう。
 もう何がなんでも逃げよう。

 だが、椅子からこっそり立ち上がろうとしたところ、背後から両肩を押さえつけられて無理やり座らされた。

「おっと、それは駄目だな、ジャンヌ」

「サカキ!? 裏切ったな!」

「いや、裏切ったとかじゃなく。まぁ、その。なんだ。皆盛り上がってるし」

「それで俺は? 俺はどうなってもいのか?」

「まぁ正直言うと、嫌がるジャンヌに無理強いするのなんて滅多に見れないから」

「この変態!」

 くそ、まともな奴が1人もいない!
 こうなったらアレをやるしかない。恥ずかしいけど、そんなこと言ってられない。

「やめて……。サカキのそういうところ……怖いよ」

「うっ……」

 よし、サカキの力が緩んだ。
 秘儀泣き落とし作戦成功だ。

 ふはは、もはやなりふり構ってられない俺の覚悟を見たか!
 武者は犬ともいへ、畜生ともいへ、勝つ事が本にてそうろうだ!

「隊長殿ー、駄目ですよ。ちゃんと審査してくれないと」

「く、クロエ……」

 だが目の前にクロエが詰めてきていた。
 手には大きな鍋にぐつぐつ煮えるシチューのようなもの。

「さぁ、隊長殿の大好きなシチューですよ。これ食べて元気出しましょう?」

「いや、別に大好きなわけじゃないんだが」

 ふと鍋の中を改めてみる。
 黒い。
 なんでシチューなのに黒いの? イカスミでも入れた?

「はい、隊長殿。あーーーーん」

 クロエがスプーンでシチューをすくう。
 だが、そのシチュー(仮)は、どこか粘り気があって、ひどくドロッとしたように見える。
 それ以上に漂ってくるこの香り。鼻を突く刺激臭。
 何かヤバイ。
 これは完全にヤバい。

 だが全力で逃げる前に、後ろからサカキに羽交い絞めにされた。

「ごめんなぁ、ジャンヌ」

「この裏切り者ー!」

「はいはーい、隊長殿。好き嫌いはだめですよー」

「そういう問題じゃ――」

 抗議しようと開いた口に、タイミングを逃さずクロエがスプーンを突っ込んできた。
 ドロッとした見た目に反して……硬い? いや、ジャリって言った。砂なの? あ、ていうか甘みが来た。いや、苦い。てか痛い。舌が痛い!

「どうですか、お味は? 少し冒険して見たんですが」

「ふごおおおおおお!」

「ん、それは美味しいってことですか? さすが隊長殿!」

 いや、お前。これのどこが冒険だ。
 これは冒涜ぼうとくだ。
 料理の、というかなんかもう、いろいろと。生命というか、食物連鎖というか、とにかく色々謝れ!

 けどそんなことを言える状況じゃなく、俺はただただ狂いもだえるしかないわけで、

「それでは続いて私の料理も食べていただきましょうか。これぞ我が究極の辛みを追求した一品。名付けて『帝国打倒祈願、火を噴く我らが闘志・超激辛ビンゴ風スープ』です!」

 お前もスープものかよ! てか赤い。痛い。目がもう痛い!

「ふぎゃああああああ!」

「ではお次は自分だな。ちょうどよい素材がいたから、捕まえてきたぞ。これぞ『クルレーン風、蛙の丸焼き。季節の野菜を添えて』、だ」

 本当に蛙来た! てか微妙にフレンチっぽく言うのが腹立つ!

「のおオオオオオオ!」

「では僭越せんえつながら私の料理も。皆様の味がかなり濃そうでしたので、さっぱりとした甘みですっきりしてもらおうと作りました。『イチゴのババロアケーキ、チョコソースとハチミツ漬けにリンゴジャムをお好みで』です」

 それ絶対糖分取りすぎで死ぬパターン!
 てかマジで気持ち悪い……。

「うううううううううう!」

 死ぬ。殺される。
 料理って人を殺す兵器だっけ?
 普通に色々死ねるぞ。

 あと何人だ?
 確か5人いて、4品食べたからあとは……。

「僕が最後ですか……なんかすみません」

 あ、そうだ。雑草だ。景斗が申し訳なさそうに突っ立っているけど。ここでそんなの食ったら俺は……。

「えっと、すみません。『タンポポと冬野草のかき上げ』です。いや、もうないと思ったんですけど、偶然タンポポを見つけて。植物油でカラッと揚げたので、相性は良いかと」

 と、出されたのは器に盛りつけられた数々の揚げ物。
 緑の揚げ物の中に、一輪のタンポポの黄色がアクセントしておいてあり、飾りつけとして美しい。

 もはや破壊し尽くされた口内から、正常な機能を取り戻したように唾が出る。
 そしてこの場で初めて、俺は自らその手を動かして口に運んだ。

「これは……」

 美味しい。
 サクサクとした衣の感触の中に挙げられた野草の柔らかさが残る。
 苦味もまったくなく、少し甘さを感じるほどだ。
 タンポポもはじめは躊躇ちゅうちょしたものの、普通に食べれるものだった。

 気が付けば俺は景斗の出されたものを完食していた。
 なんだか久しぶりに和食(?)を食べたようで、満足感も高い。

「美味しかった。ありがとう」

「お粗末様です」

 にこりと笑う景斗を見て、俺もどこかほころんだ。

「えー、それでは全ての試食が済みましたので、それではジャンヌ隊長、審査をお願いします!」

「あー、面白かった。最後のはちょっと拍子抜けだったけど、アッキー。良いリアクションだったよ。芸人になれるんじゃない?」

 喜志田あとでボコる。

 というかこれは審査とかそういうレベルじゃないだろ。
 一択すぎて話にならない。

「というわけで優勝は、まさかの雑草料理、ケート・。コーリー! 熱く手汗握る接戦でした。ではまた次回会いましょう! さよなら、さよなら、さよならー」

「あー、楽しかった。アッキーの色んな表情見れて余は満足じゃ。なんてね」

 ノリノリのマールに、無意味にお腹を撫でる喜志田。
 もう二度とこいつらの悪ノリには付き合わないぞ!

「くぅ……私の隊長殿への愛が破れたというのですか!」

「こうなったらもっと辛さを追求するしかありませんか」

「揚げ物……やはり昆虫にすべきだったか」

「うぅん、砂糖が足りませんでしたね……」

「お前ら二度と料理するな!」

 というわけで、地獄のような時間が終わった。
 無駄に大盛り上がりだったから、兵たちの息抜きになったのは良かったけど……俺だけドッと疲れた。

 そして、その夜のことだ。
(もちろんちゃんとした)夕食を終えて夕涼みをしていると、景斗が近づいてきた。

「あのー」

「ん、どうした。っていうか、珍しな。お前がああいうのに出るなんて」

「あ……はい。すみません。自分なんかが」

「いや、いいんじゃないか。そういう積極性も必要だと思うよ」

 なんだか殻を破るきっかけがあればいいとは思っていたけど。
 いい傾向だと思う。

「それで、俺に何か用か?」

「あ、すいません。実はジャンヌさんに見てもらいたいものがあるんですが……」
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